河治良幸×清水英斗 現地対談(2)「どうだった? コロンビア戦」

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 W 杯特別企画 日本 vs コロンビア レビュー

河治良幸×清水英斗 現地対談(2)「どうだった? コロンビア戦」

By 清水 英斗 ・ 2018.6.21

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ロシアW杯初戦のコロンビア戦直後、現地で取材を続ける河治良幸氏と清水英斗氏が対談を行った。日本とコロンビアを分析し、多くの媒体で発信を続けてきた二人は、コロンビア戦勝利のポイントをどこに見るのか?


河治:W杯初戦のコロンビア戦は、立ち上がりのプランがはまりましたね。PK&退場までは思ってないだろうけど、ねらいはね。コロンビアのセンターバックやボランチの状況を考えたら、あれしかなかったくらいの立ち上がりでした。


清水:香川がテンポ良くパスを出して、大迫が飛び出して行った場面ですね。トッテナムのダビンソン・サンチェスは、あっさりと大迫に入れ替わられました。


河治:あの裏ループみたいなパスは、香川じゃないと、なかなかね。


清水:そう。あのテンポは、本田では出ないんですよ。


河治:結論から言うと、香川、本田のつなぎが90分の中でうまくいったと思います。コロンビアとしては、日本を研究して半年間やってきたけど、こういう想定はさすがにしてなかったでしょう。コロンビアのオーガナイズはさすがの部分もあったけど、後半はハメスという劇薬がね(笑)


清水:レルマがボランチに入ることも、ムヒカが左サイドバックに入ることも、河治さんは予想していましたよね。ただ、ハメスが戦略的じゃなくて、コンディションが原因でスタメンを外れるのは、想像してなかった。


河治:コロンビアは10人になったことで、トップ下がいなくなった。クアドラードも中に入って行かざるを得なくなって、タッチライン際の突破力をほぼ発揮することなく終わってしまった。逆に日本の準備が良かったのは、先制するまでのところ。それ以外は、さすがに11対10にしたことでコロンビアが難しくなった。よくやっていたとはいえ、運動量を使うことになって、後半の消耗につながり、そこに守備が出来ないハメスが来るという合わせ技でした。


清水:コロンビアは1人少ないなりに、4-4-1に変えてうまくやりましたよね。最初はキンテーロがボランチに下がったけど、途中からクアドラードを外してキンテーロを右サイドに出して、中央の守備バランスを修正した。えっ、クアドラードを外すんだ? とは思いましたけど、あの修正はさすがだと思いました。孤立した状態でクアドラードが急進的に仕掛けていくよりは時間も作りやすくなるし、セットプレーもあるし。左足でアーリークロス気味に、ディフェンスラインと川島の間に入れるボールもねらっていました。


「ありえないことがたくさん起こった試合」(清水)


河治:失点場面はどうですか?


清水:長友のクリアミスから、長谷部がファウルをして、フリーキックになりましたよね。


河治:ハメスがフリーキッカーのときに、壁の下をねらってくるのは、バイエルンでもコロンビア代表でも結構ある形です。キンテーロが蹴るのは予想外ではありますけど、話し合ってはいたと、川島は言っていました。「予測はできていた中で、対応はできなかった」と。キンテーロが、コロンビアの選手に当ててくるような雰囲気も出していて。確かにペナルティエリアより内側は直接決まるイメージがあるけど、ワイドな位置になると、アシストの可能性もある。インサイドがエアポケットになりやすいんです。


清水:壁を跳ばせる云々の是非についても、川島自身は「この試合の後も関わってくるので言えない」とコメントを控えていましたけど、昌子の話によると、実際は川島が壁に跳ばないようにコーチングしていて、壁に入った選手も理解していたはずなのに、跳んでしまったと。試合のテンションがそうさせたのか、キンテーロの雰囲気がそうさせたのか、わかりませんが。で、シュートは跳んだ壁の下を抜けてきた。


河治:川島も左側のセービングには課題があるし、ちょっと両手で抑えに行ってしまったかな。ただ、一瞬のことで、みんな言いたいことを言うけど(笑)、これは4年に1回のシチュエーション。逆に日本が前半3分にPKをもらって相手が退場すること自体、4年に1回の大会で起こるのが、すごいことなので。


清水:親善試合を含めても、あり得ないことがたくさん起こった感はすごいですよね(笑)。壁がコーチングに反した動きをしたにもかかわらず、その下を抜けてきたシュートを川島が止めていたなら、まさしくスーパーセーブですけどね。ただ、あれが止められなくても、少なくともミスとは言えない。


「川島の経験が出た」(河治)


河治:あとはDFラインの裏のところで、川島の対応はどうでしたか?


清水:試合後、川島に「コロンビアもねらっている雰囲気があるし、いつもより飛び出しは抑え気味ですよね?」と聞いたら、否定しなかったですね。「ディフェンスラインとも話し合って、判断基準を決めている」と言っていました。「逆にはっきりした」という言い方もしていたので、コロンビアのねらいが見える中で、その対策を考えた結果、ディフェンスラインとの連係の基準がはっきりと定まったんじゃないですかね。普段から裏のスペースに出て行くGKが、出ないように調整するのは難しいことじゃない。スカウティングの裏をかいたというか、親善試合が生きていますよ。


河治:日本国内で川島の評価についてどう言われているかはわからないけど、たぶん、フリーキックのところで色々言われているんでしょう。ただ、90分のオーガナイズで考えたら、ビルドアップで相手がFW1枚になったことで、バックパスの処理がやりやすくなったのはありますね。


清水:そこなんですよね。ぼくも各種プレビューで書いたんですけど、ハイプレスをかけられた時間帯が怖いなと。コロンビアのビルドアップがそれほど巧くない、という視点で書かれたプレビューはいくつか見ましたけど、それって日本も同じですからね。ハリルジャパン時代のように大迫に蹴ったり、ダイアゴナルに蹴ったり、というのがハッキリしていればいいけど、つなげるときはつなごう、みたいなことを強調した中でハイプレスを食らうと、かなり怖いとは思っていました。それもあって、相手FWの枚数が減ったのは、ありがたかった。


河治:あとは90分で言えば、川島の経験が出たと思いますね。これが中村や東口が出て、シュートをものすごく打たれる展開だったら、活躍してヒーローというイメージもありますが、こういう状況でね。


清水:GKがボールにあまり触らない試合ですよね。


河治:そう。そういう状況で、一つ一つを間違いなく処理していく安心感はありました。守っている選手たちも、やりやすかったと思いますけどね。少なくとも、これで行けばセネガル戦も川島かなと思います。


「本田のCKは、いぶし銀の曲がり具合」(清水)


清水:日本の2点目はどうでした?


河治:あのシーンは本田が入ってきて、それまでは柴崎が結構良いボールを蹴っていたけど、やっぱり本田が蹴るんだと。そこでビシッと行った。あのコーナーキック、最終的には巻いてくるんだけど、アリアスとGKオスピナの間くらいにコントロールされていました。


清水:アウトスイングでしたよね。GKから離れるキック。今までの日本だったら、インスイングのコーナーキックで決めるイメージがあったので、左コーナーを本田が蹴りに行ったのは、やや意外でした。でも、本田はかなりくさいところに蹴り込みましたよね。カーブというより、スライダーに近い軌道で。GKから離れすぎず、でも飛び出すには躊躇するような、いぶし銀の曲がり加減でした。


河治:本田としても、右と左の利き足の違いはあるにしても、それまでに柴崎や乾が蹴っていたキックを観察していたのかなと思う。彼はスペシャリストでもあるし。そこは入ったときに、こう蹴るとイメージできていたのかなと。


清水:日本のコーナーキック、ニアを結構ねらっていましたよね。あれは分析があったのかな。まあ、ミックスゾーンでそれを聞こうにも、本田の周りはいつも人だかりなので、ほとんど近づけなかったけど(笑)。


河治:長友もそうだけど、奥さんの話とか、メンタル、メンタルとか、あまりプレーのビジョンを聞く余裕はなかったですね。彼らはテレビインタビューもあったみたいだし。


清水:まあ、そんな事情もあります。


「柴崎がオーガナイザー」(河治)


河治:そんな中で、あえてぼくは柴崎ねらいで行って、かなり話を聞けたんですけど、柴崎に関してはコロンビア戦だからどうじゃなくて、セネガル戦もポーランド戦も、彼が生命線になると思ったくらい。マン・オブ・ザ・マッチが付くのは大迫だろうけど、柴崎がオーガナイザーというか。


清水:柴崎はたしかに素晴らしかったと思います。


河治:「この舞台でプレーして、新しい世界が見えた?」と質問したら、「自分がこういうところで普通にやれていることがわかった」と。一方で「試合に入るまでは、けっこう緊張した」と言っていました。でも試合に入ったら、やれることに気がついて、そこは一つ見えたと。


清水:前後半でポジショニングを変えていたと思うんですけど、前半は右で原口をサポートして、後半は左に行ったり、いろいろなところに顔を出すイメージでした。


河治:それは柴崎も言っていましたね。ぼくは最初、柴崎が左に行った理由について、乾が守備のときにアリアスを警戒して左に張って、長友も代わる代わる入ってくる選手に対して、センターバックの横ぐらいで見張っていたから、その間がエアポケットになっていたんですね。長谷部と乾の間にかなり入られていたので、そこをケアするために柴崎が左に回ってインターセプトをねらうように変えたのかなと。そう質問したんだけど、ポジショニングを変えたのは、攻撃的な理由でした。「攻撃面で長友と乾、香川のところを円滑に回したかった」と。特に本田が入ってきた後は、左足を生かしたいというのがあって。柴崎が左に回って、本田が右サイドにいたほうが良い形が作れるんじゃないかと、そういう判断だった。そうは言っても、その中で守備の部分でもインターセプトをねらえていたし、守備も結果論で良かったんじゃないか、と言っていました。


清水:柴崎は相手のライン間に入っていく動きもあって、タイミングも絶妙だったし、インターセプトのポジショニングも良い。攻守で優れていましたね。


河治:長谷部がボールを持ったときに、柴崎がのぞいて、原口も中に入って受けようとすることで、酒井宏が空いてくると。そのへんも全部見ながらやっていたらしいですよ。その落ち着きとか、視野の広さ。堂々としているところも含めて、今は柴崎が良いかなと。


清水:フィジカルも結構ガチッとしてて、当たれますよね。胸は意外と厚みあるし。


河治:いざね、イーブンボールで当たったときも負けず。まったく、ガクッと来なかった。相手をガクッとさせる(笑)。


清水:そこ、押しますね(笑)。


「チームを仕上げたのは西野。チームを強化したのはハリル」(清水)


河治:チーム全体のメンタル含めたオーガナイズは、長谷部や吉田かもしれないけど、攻守の戦術的なところは、柴崎のポジショニングとボールタッチがほぼ握っている。あそこまですべて出来る選手ってなかなかいないですから。


清水:司令塔というよりは、サスペンション。日本という車に安定性をもたらして、乗り心地を良くしてくれる。そんなイメージで攻守に顔を出している感じがします。今回のワールドカップを見ていても、ボランチのタイプが攻撃的とか守備的とか、はっきりキャラクターや役割が分かれすぎると、戦術の幅が狭くなる。これだけ分析で丸裸にされるワールドカップの舞台で、柔軟性がないと厳しいと感じます。柴崎みたいなプレーヤーはすごく現代的だし、よくこれだけ成長したなと思います。


河治:西野さんの功績を低く見たくはないし、コロンビアに勝ったことで采配を評価したい一方で、ベースを作る段階では、柴崎を招集して海外へ打って出るプレー環境を与えた、ハリルの功績もありますからね。


清水:柴崎に限らず、今回プレーした選手たちの成長を促したのは、ハリルさんの功績もあった。そこは忘れたくないですね。


河治:でも、そこを強調しすぎると、またハリル擁護とか言われるんだけど。


清水:擁護しても何もメリットがないのに(笑)。事実として、チームを仕上げたのは西野さんで、チームを強化したのはハリルさんだった。そこのノウハウを検証しないと、何も残らないし、相変わらずのノープラン代表になってしまう。真面目に見るのがバカバカしいので、それは勘弁してほしいだけ。


河治:この4年間でアギーレを含めてやってきた積み重ねが、出るか出ないか。2カ月前の解任はリスクではあったけど、この試合に関して言えば、ハマった部分もある。そこは素直に評価していいですよね。


清水:ハーフタイムの酒井宏と原口のポジショニング修正は、手倉森さんが指示したらしいです。その辺りも含めて、仕上げの仕事はちゃんとやっていると。あとは西野さんも欧州合宿に来てから、記者会見に出るときの顔つきが、徐々に変わってきました。就任会見の頃とは、明らかに変わりましたよ。


河治:今日も会見の冒頭でね、いきなり「アグレッシブに」って。西野さんを象徴するワードが飛び出した(笑)


清水:西野語録で言えば、「キャスティング」もありますよね(笑)。メンバー構成。


河治:(笑)。映画のプロデューサーかよ、って。


清水:いや、意識はプロデューサーなんですよ、たぶん。ディレクション手倉森、森保。プロデューサー西野。今回の日本代表のエンドロールは、それでいきましょう(笑)。


セネガル戦直前対談に続く。


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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