PKは運? 技術? 日本がニュージーランドに圧勝したPK戦を徹底解説

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第140回

PKは運? 技術? 日本がニュージーランドに圧勝したPK戦を徹底解説

By 清水 英斗 ・ 2021.8.1

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日本、圧倒的じゃないか! 見事にこう着をぶち破り、ニュージーランドに完勝を果たした……PK戦だった。


最後は4-2。120分間は消化不良の展開が続き、予想通りの苦戦を強いられたが、PK戦だけは日本の圧勝だった。


何だかんだ、決定機は日本のほうが多かったので、この流れでPK戦になると、「持ち込まれてしまった」という雰囲気が残りがち。しかも、心理的に優位とされる先攻をニュージーランドに取られてしまった。ほんと、嫌な感じ……。


と思ったら、PK戦は蓋を開けてみれば、日本の圧勝だった。


1番手、上田のキック


PKは技術、駆け引き、メンタルの3つが勝敗を分ける。厳しいコースに蹴り込む「技術」はもちろん大事だが、駆け引きとしては、相手GKのタイミングを外すことが最大のポイントになる。


GKは一度、重心を沈ませるモーションを入れなければ、左右の遠い場所にはダイビングできないので、その重心を沈ませるタイミングを外せば、かなりキッカー有利になる。ここが駆け引きの肝だ。


1人目の上田綺世は、足踏みをしてから助走に入り、少しタイミングでGKに陽動をかけた。タイミングを外す効果としては薄め。ただし、駆け引きもやり過ぎると、自分のキックの体勢が崩れてコースや威力が甘くなり、本末転倒。人によって蹴り方の正解は違う。


上田の場合は、厳しいコースに強く蹴り込み、多少の駆け引きは入れつつも、技術重視、キックの精度を重視して蹴り、見事に成功させた。


絶妙な板倉


2人目の板倉滉は、実にいやらしい。まず、ボールの真正面に立った。角度を付けずに真っすぐ助走すると、キック時に腰の回転を使えず、特に左側のコースへ強いボールを蹴りづらくなる。このため、相手GKには「右」のイメージが沸いたはず。


しかし、板倉はそこから左にふくらんで蛇行し、斜めにボールにアプローチする助走に途中で変えた。この蛇行助走はGKにとってタイミングを合わせづらい。


さらに板倉はキック直前でブレーキをかけ、GKを先に「右」に動かしてから、左へ引っ張った。


幾重にも仕掛けられた罠。1人目の上田よりも、板倉は駆け引き重視で、終始ボールよりも相手GKの動きを見ていた。


この手の決め方は相手GKへのダメージがあり、次のキッカーに対しても、コース予想を整理できなくなる。絶妙な2人目だ。


失敗しやすい蹴り方


ニュージーランドの2人目、リベラト・カカーチェは最も失敗しやすい蹴り方をして、実際に失敗した。助走が短く、イチ、ニで踏み込み、サンで蹴っている。これはGKにタイミングを合わされやすい。


助走は長く取ったほうが、GKがイチのタイミングを決定しづらくなるので、駆け引き上は有利だ。助走が短ければ軸足が定まるので、ゴールの枠を大きく外す恐れは少ない。


一方で威力も出しづらいので、甘いシュートになりがち。短い助走で駆け引きもなく蹴ると、止められる。


技ありの中山


日本の3人目、中山雄太は長い助走を取り、多少膨らんで角度を変えて助走した。そして軸足を真ん中から右寄りへ向け、右へ引っ張るような踏み込みから、左足を開いて送り出すように流し打ち。GKの逆を突いて、左へ決めた。


ここまで相手GKマイケル・ウートは、一回もコースを合わせることができていないが、日本はキッカーの駆け引きが巧い。精度も良い。PKに持ち込んだのは、実は日本だったのか。


技巧派マコワット


ニュージーランドは3人目も外しているので、すでに3-1。両チーム合わせて残り4つのキックで、一本でも止めるか、決めるかすれば、日本の勝ちだ。


ここで4人目に出てきたカラム・マコワットは、ニュージーランドの中では一番巧かった。助走でブレーキをかけ、谷晃生を先に跳ばせ、見事に右へ決めた。これで4-2。


12番のマコワットは後半途中からトップ下に入り、日本に数々の問題を引き起こした良い選手だったが、なぜこの選手を2人目に持って来なかったのか。足の疲労も少なかったはず。


外した2人目と3人目のキッカーは、どちらも120分出場し、疲労が溜まっていた。好試合を展開したニュージーランドにしては、画竜点睛を欠くというか、悔やまれる選択かもしれない。


伏線回収の吉田


そして、最後に出てきたのが、吉田麻也だった。


吉田は伏線を回収した。日本は3人共に、笛が鳴ってもすぐに助走しなかったり、キックに時間をかけたりする傾向が強かったが、吉田は笛が鳴るや否や、あっという間に助走。ズドンと思い切りよく蹴った。


特に駆け引きはなかったのに、不意を突かれたのか、GKは全くタイミングが合っていなかった。


変化球、チェンジアップ、変化球からの、ど真ん中ストレート。見逃し三振。


色々な意味で美味しいところ取りの、吉田だった。


3人目までが全員U-24


PKは「運だ」「クジ引きだ」と語る人も、特に欧州を中心にたくさん見られるが、それを否定するつもりは全くない。メンタル面の整理、割り切りとしては有効だと思う。


吉田も最後のキックは、「正直1本くらい外してもいいや」と思って思い切りよく蹴ったそうだが、その割り切り、プレッシャーから自分を開放する心理コントロールが良かった。「運だ」「くじ引きだ」も同様だ。


日本はそれだけに留まらず、巧みなPK戦を展開した。何となくの感覚だが、日本は欧州に比べると、ファンもPK戦を運とは考えない人が多く、それは日本の強みだと思う。


何と言っても日本は3人目まで、勝利を決定付けるキッカーが全員U-24だったのが良い。てっきりオーバーエイジの遠藤航が1人目とか、U-24でも久保建英や冨安健洋のようにA代表でも慣れている選手が出てくると思ったが。


日本は挙手制の決め方で、上田、板倉、中山が臆せずキッカーに名乗りを上げ、勝負を決めた。全員参加型の雰囲気が感じられ、これは日本代表が最も力を発揮できる状態でもある。準決勝以降も楽しみだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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