「こんな無責任な話があるか」試合直前に“10人陽性”の相手を名門サンパウロが猛烈批判!ブラジル全国選手権はカオス状態【現地発】

「こんな無責任な話があるか」試合直前に“10人陽性”の相手を名門サンパウロが猛烈批判!ブラジル全国選手権はカオス状態【現地発】

2020.8.13 ・ 海外サッカー

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 ここ2か月、一日の平均死亡者数が毎日1000人を超えているブラジルで、カンピオナート・ド・ブラジル(ブラジル全国選手権)が開幕した。しかし、そのスタートは第1節から混沌としている。


 ブラジル・サッカー連盟(CBF)は、この8月9日に何が何でも全国選手権を開始したかった。そのため25ある州選手権は、まだコロナが収束していないなかで、試合を消化する必要に迫られた。しかし、本田圭佑が所属するボタフォゴは、対戦相手がまだ州リーグの試合を全て終えていないため、開幕節は延期となった。


 それよりももっと大きな問題となっているのは、ゴイアス対サンパウロの試合だ。


 この試合はゲーム直前になって延期となった。その理由はゴイアスの23人の選手のうち10人がPCR検査で陽性だったからだ。CBFのプロトコルでは、全選手が試合前に検査を受けなければならない。しかし、その結果が出たのは、なんとキックオフのわずか3時間前だったのだ。

  しかも、ゴイアスはすぐにこの事実をサンパウロ側に告げなかった。試合のTV放映権はホームチームの大きな財源となる。入場料収入が見込めない今は、ほぼ唯一の収入源だ。ゴイアスはこの試合をどうしてもキャンセルしたくなかった。


 しかしチームには13人の選手しか残っておらず、リーグの規定である、最低でも11人の選手に5人の控え選手の条件を満たしていない。そこでゴイアスはユースチームから選手を呼んで、陽性だった10人の選手の代理にたてようとした。


 しかし彼らを選手登録する時間はなかった。そもそも陰性だった選手も、陽性のチームメイトとともにプレーしていたわけで濃厚接触者である。彼らもピッチに立つことはできない。それがわかると、ゴイアスは、サンパウロの不戦勝にならないようスポーツ裁判所に訴えて試合のキャンセルの手続きをとり、その後ようやく対戦相手のサンパウロに事実を告げた。


 延期が決まった時、すでに両チームの選手たちはロッカールームに入っていた。ゴイアスの13人の“陰性”選手も本来なら隔離されるべきなのに、スタジアムに来ていたのだ。

  これに怒ったのが、ブラジルの中ではもっともコロナ対策を万全にしているチームのひとつである名門サンパウロだ。

 

 今回の遠征においても、特別機をチャーターし、ホテルのワンフロアとレストランを借り切り、選手たちの滞在が密にならないよう配慮した。スタジアムに行くバスも複数台、ドライバーには事前にPCR検査を受けてもらっていた。とにかくこの1試合を戦うのに莫大な費用が掛かっていたのだ。

 

 しかし、試合は中止となり、遠征は無駄になってしまった。

 

 サンパウロは不安と怒りを抱え、ゲームシャツにパンツという姿で、そのまま空港に直行し、チャーター機で地元に帰った。一秒でも早くゴイアスから遠ざかりたかったのである。

 

 この日スタジアムにいた人間は、スタッフや警備員も含めてもう一度検査を受けなければいけなかった。もちろんサンパウロの選手もだ。

  サンパウロ陣営は相次いで怒りを露わにした。例えば、ブラジル代表のダニエウ・アウベスは、自身のインスタグラムにこう投稿している。

 

「今日起こったことは、到底受け入れることができない。こんな無責任なことはあってはならない。もっとプロ意識を持つべきだ。そうでなければすべてがこのように時間の無駄になる。一番大事なのは我々の命だ。命がなければ、それ以外はなんの意味もなくなる」

 

 これに対し、ゴイアスの中心選手であるラファエウ・モウラが反論した。

 

「ダニ、ゴイアスを代表して、選手同士として君に言いたい。我々も陽性の結果にはショックを受けているのだ。我々も君たちと同じように定められたプロトコルをきちんと守ってきた。

 

 検査も毎週受けてきたし、外に行く時はマスクもつけていたし、毎日家と練習場だけの往復だった。知らせを受けた時、我々もユニホームを着てプレーする準備ができていた。これは誰にでも起こりうることだ。サンパウロには悪いとは思うが、我々は非難される筋合いはない」

 

 彼もかなりヒートアップしていたようで、反論は続く。

 

「君たちには良識を持ってもらいたい。問題は結果を知らされるのが遅れたことだ。とにかくすべては初めてのことばかりで、我々は新しいやり方に少しずつ慣れていかなければならない。君たちの幸運を、そして10人の仲間の早い回復を願う」

  諍いは選手間に留まらず、チーム間でも舌戦が繰り広げられた。ゴイアスの会長マルセロ・アウメイダはかなり強い口調でサンパウロを責めた。


「サンパウロの態度はとても冷淡だ。状況を説明し、試合の中止が決まったことをサンパウロ側に告げると、まるで我々の言うことが信じられないとでもいうように一言『CBFの正式報告を待つ』と言われた」


 一方、サンパウロの会長はこう公に表明した。


「安全なプレーができる配慮は全くされていなかった。その結果我々は戦わずして、また戻って来た。どのチームにもサンパウロと同じようなプロとしての意識を持って現状に対処してもらいたい」


 また彼はこう言って非難の的となった。


「ゴイアスはピッチに入らなかったのだから、本来ならサンパウロの不戦勝になるべき試合だった」

  サンパウロはゴイアスを責めたものの、彼らの口からは一言も、陽性だった選手たちへの回復を祈る言葉は聞かれていない。このことにもブーイングが浴びせられている。


 他の試合では陽性者が出なかったからよかったものの、やはり検査結果は同じように試合の数時間前になってやっと届いている。


 10日になってCBFはやっと公式の声明を出し、セリエAからDにいたるまでの検査を見直すことにした。少なくとも24時間前に結果が出るよう厳格化し、今までCBFが一括していた検査は、各チームが独自に依頼し、その費用を連盟が持つということになった。


 この試合の解説をするはずだった元ブラジル代表で、今は名物コメンテーターとなっているカーザグランジはこう言っていた。


「目の前で選手たちが自分の命を危険にさらしてプレーしているかと思うと、試合の解説なんてしたくなくなるね。今は細心の注意をしなければいけないのに、検査の結果が直前にしかわからないなんて、とんでもない。恥を知れ!」


文●リカルド・セティオン

翻訳●利根川晶子


【著者プロフィール】

リカルド・セティオン/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。

8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

 

記事提供:サッカーダイジェストWEB

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