成功の後に失敗あり? ハンブルガーSVと日本代表に共通する空気

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第41回

成功の後に失敗あり? ハンブルガーSVと日本代表に共通する空気

By 清水 英斗 ・ 2017.5.11

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失敗は成功の母? 成功は失敗の母? もちろん正しいことわざは前者だが、個人的には後者に頷くことのほうが多い。


ブンデスリーガ創設以来、ハンブルガーSVは54年に渡って1部に在籍し続ける、唯一のクラブだ。しかし、近年は崖っぷち。2013-14と2014-15の2シーズンは16位で入れ替え戦に回り、アウェイゴールの差、あるいは延長戦の末の勝利で、辛うじて残留を果たしている。


2016-17シーズンの現在も16位。またしてもハンブルガーは崖に来てしまった。とはいえ、個人的には予想外ではある。


今シーズンは開幕後12戦勝ちなしという、とんでもない借金スタートを切ったハンブルガーだが、監督がマルクス・ギズドルに代わり、酒井高徳がキャプテンに任命されてからは猛反撃。むしろ後半戦は好調に転じていた。


バイエルンとドルトムントに敗れたとはいえ、ライプツィヒ、ホッフェンハイム、ヘルタ・ベルリン、ケルン、ボルシア・メンヘングラードバッハ、レヴァークーゼンなど、今季ブンデスリーガで好調のチームや、強豪クラブを次々となぎ倒し、順位を上げた。


成功は失敗よりも恐ろしい


28節でホッフェンハイムに勝ったあたりで、今年のハンブルガーは大丈夫そうだな…と太鼓判を押しかけた矢先に、まさかの3連敗。絶好調のブレーメンに対してはともかく、ダルムシュタットとアウクスブルクに連敗したのは驚きだった。特にアウクスブルク戦は0-4で、結果と内容共に完敗。前節のマインツ戦もスコアレスドローで4試合勝ちなし。そんなわけで、結局16位の崖に戻ってきた。


キャプテンの酒井高は「(ホッフェンハイムに勝利したあと)あと6試合あるから、1回くらい勝てば残留できるだろう、という安堵感がチームのどこかにあった」と吐露した。これはキーワードだと思う。


強敵を倒して安全圏にたどり着いた成功により、ぜい肉がつき、次の失敗が引き起こされた。まさしく『成功は失敗の母』だ。ぜい肉はつけるのは簡単だが、落とすのは何倍もの労力を必要とするからタチが悪い。考えようによっては、成功は失敗よりも恐ろしい。


ハンブルガーはデュエルが多い


ハンブルガーは1試合あたりのデュエル回数がリーグトップだ。戦術はハイプレス&ショートカウンター型で、ゆっくりビルドアップして相手を崩す柔軟性はほとんどない。リトリートして守るときは、ほぼ打たれっぱなしで耐える。だからデュエルの回数がどんどん増える。そんな昔ながらのドイツの戦い方を貫いたことが、後半戦で好調に転じた要因だったのに、成功のぜい肉により、唯一無二のハードワークに陰りが出た。


これは何にでも当てはまる。成功する人はたくさんいるが、成功し続ける人というのは、本当に一握りしかいない。たいがいは成功した者が、次の失敗を引き起こし、凋落する。


そもそも「強敵に勝った」という事実を、ハンブルガーは冷静に受け止めるべきだったのかもしれない。ハイプレス型のハンブルガーにとっては、足下でボールをつなごうとする上位チームが相手のほうが力を発揮しやすい。逆に下位チームを相手にすると、自分たち同様にボールを蹴り飛ばしてくるので、ハイプレスに行き過ぎるとデュエルが空振りする。サッカーの相性の問題だ。


ハンブルガーと日本代表の共通点


ハンブルガーの戦い方は、強敵を恐れさせる反面、下位に取りこぼしがちになる。上位に勝ったからといって、下位にも同様に勝てるとは限らない。ぜい肉をつけるどころか、ダルムシュタット戦、アウクスブルク戦に向けて、より注意を強めるべきだった。そんな発想さえあれば、成功は失敗の母にならずに済んだかもしれない。


もっとも、そんな具現化していない脅威に対する注意を、ひとりならともかくチーム全員で共有するのは、とてもむずかしいことだが。


同じ轍を日本代表が踏まないか、心配している。


日本代表のワールドカップ最終予選は、あと3試合。イラク戦、オーストラリア戦、サウジアラビア戦。勝ち点16で首位を走る日本は、あと1試合くらい勝てば突破が決まりそう……。おっと、そう考えるのがいちばん危険だった。


変わりつつある、日本代表の雰囲気


昨年11月のサウジアラビア戦以降、日本代表は上り調子だ。しかし、今がいちばん危険なタイミングだと個人的には感じる。


手倉森誠コーチがチームに入ったあたり、あるいはイラク戦の山口蛍の劇的ゴールの辺りからだろうか。ハリルジャパンはちょっと雰囲気が変わった。ハリルホジッチに管理され、押さえつけられていた選手たちが、あまり監督の顔色を伺わず、自由に発信、主張するようになった。それは基本的にポジティブな変化だと思うし、ハリルホジッチもそう感じているのか、最近は選手ファーストな発言が増えた。


興梠慎三は「批判ばかりする」とコメントしていたが、最近のハリルホジッチにその印象はない。むしろ、選手からミックスゾーンで戦術の反論や、監督批判と受け取られかねない発言が奔放に出てくるし、なめられ始めている印象を受ける。自由な空気が行き過ぎると、ピッチ上に11人の個人が生まれる。その11人が「良かれ」と思ってプレーすると、だいたい悪くなる。


グループ首位にたどり着いた成功が、次の失敗を引き起こさなければいいが。崖っぷちに追い込まれた必死のハンブルガーを見ながら、そんなことを思う5月の週末だ。(文・清水英斗)

写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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