ケガ人続出の中で見せた、ハリルホジッチの真骨頂。“逆足ウイング”と“デュエル・トライアングル”

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第44回

ケガ人続出の中で見せた、ハリルホジッチの真骨頂。“逆足ウイング”と“デュエル・トライアングル”

By 清水 英斗 ・ 2017.6.15

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吉田麻也と川島永嗣の間で起きたミス、井手口陽介の脳しんとうなど、いろいろな誤算があったイラク戦だが、最も大きな誤算は、酒井宏樹の負傷だったのではないか。


香川真司と山口蛍をケガで失い、今野泰幸はコンディションが今ひとつ。予定していた中盤に1人も使えなくなった状況で、ハリルホジッチは新たな仕組みを提示した。それは本田圭佑と久保裕也の両ウイング。左利きの本田を右サイドに、右利きの久保を左サイドに置く、逆足の配置だ。本田も久保も、相手DFからボールを隠しながら利き足でコントロールできるので、起点として収まりやすくなる。特に本田は、多くの攻撃において起点となった。


中盤は原口元気、井手口陽介、遠藤航。パッサータイプが1人もいない“デュエル・トライアングル”だ。中央からの質が高いビルドアップは期待しづらいが、サイドをボール運びの起点としている。ケガ人が多く、台所事情は苦しかったが、コンディションが良い本田の能力を最大限に生かす仕組みといえる。これを即興で作り上げた。ハリルホジッチの真骨頂だ。


交代は倉田か乾かではなく、乾か酒井宏か?


この場合、ドリブラーではないウイングがボールを収めるので、鍵を握るのはサイドバックのオーバーラップになる。特に酒井宏は効いていた。イラクは攻撃時に流動的なポジショニングを取ることもあり、酒井宏の攻め上がりに対してはノーケア。このゲームプランは自分たちの台所事情だけでなく、対戦相手にも有効だった。


最たるシーンは後半20分。原口とのワンツーから、酒井宏がペナルティーエリアへ飛び出した場面だ。ファーストタッチが乱れ、クロスは今ひとつだったが、最後は大迫勇也がシュート。惜しい場面だった。


それから5分後、日本は「疲労困憊」とハリルホジッチが見ていた原口に代えて、倉田秋を投入。たしかに、原口は守備に戻りきれなくなっていたし、後半12分と18分にチャンスでミスをするなど、身体的負担からプレーの質が下がっていた。


原口から倉田は、同ポジションのシンプルな交代であり、ゲームプランの継続を意味する。それを決断させたのは、後半20分に酒井宏が抜け出したビッグチャンスではないか。もし、こうしたチャンスが作れていなければ、攻撃の仕組みそのものにテコ入れするために、たとえば倉田ではなく乾貴士を先に投入し、ウイングをキープ型ではなく、ドリブラーに代えるなど、ゲームプランそのものを変更したはず。交代カードは倉田か乾か、というチョイスではなく、乾か酒井宏かで、まずは酒井宏のオーバーラップを継続させたのではないか。


酒井宏の負傷で狂ったゲームプラン


だからこそ、負傷は痛かったのだ。倉田投入と同時に、酒井宏が足を引きずり始めてしまった。そして失点後、プレー続行が不可能に。すでに井手口と原口を代えていた日本は、3枚目の交代カードを使うことになる。あまりにも大きな誤算。もし、大きなリスクを受け入れるのなら、酒井宏に代えて乾を投入し、今野や遠藤をサイドバックに回し、倉田をボランチに置く博打も残されていたが、勝ち点1すらも失うリスクは受け入れなかったようだ。


酒井宏の負傷は、乾を投入できなくなっただけでなく、本田を追い越す戦術上のキープレーヤーも失った。同時に2つの武器を失う、痛すぎるアクシデントだった。


酒井宏は、もっと早く自分の情報を共有できなかったものか。映像を見返すと、倉田を入れる少し前から違和感を覚えながらやっている。


日本代表だけでなくJリーグでも、ケガをした選手が足を引きずりながらポジションに戻ろうとする姿をよく見るが、筆者は「座れ!」と心の中で叫んでいる。中途半端にプレーを続行されると、まだ行けるのか、プレー不可能なのか、わからない。いったん応急処置を受けて、その状態を一刻も早くチームと共有したほうがいい。そうでないと、今回のように事態がより悪いほうに行ってしまう。チームを思えばこそ、はっきりと座って意志表示してほしい。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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