負けているチームの方がポゼッション率は上がる? 典型的なデータの落とし穴

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第46回

負けているチームの方がポゼッション率は上がる? 典型的なデータの落とし穴

By 清水 英斗 ・ 2017.7.21

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少し前に読んだ記事で、今季のサンフレッチェ広島のパス数が若干だが上がっている、というデータを紹介するものがあった。チームは不振を極めているのに、なぜかパスはよく回っている? 記事中ではこの疑問を、実際にプレーしている選手にぶつけており、それに対して、そんなに回っている実感がない、むしろパスの受け手を含めて連係が足りないと、選手自身が好内容のデータに困惑したコメントが紹介されていた。


だが、個人的には不思議なデータとは思っていない。不振なのにパス数が増えたのではなく、不振だからパス数が増えたのだ。典型的なデータの落とし穴だろう。


サッカーは相手がいて、状況がある。私は5月に行われたU-20ワールドカップで、提供されたデータを用いてコラムを書く仕事を『スポーツナビ』に依頼され、日本の全4試合について行った。


そのデータには試合時間を6分割し、15分毎に算出されたポゼッション率が含まれていたが、ポゼッション率の高低はスコア状況にかなり左右される。たとえば、南アフリカ戦は日本が先制に成功したため、守りを固めて相手にボールを持たせる展開になり、日本のポゼッション率は低下した。


逆にウルグアイ戦では日本が先制を許したため、ウルグアイは引いて守る傾向がより強くなり、日本のポゼッション率は上がった。このポゼッション率をもって、ウルグアイ戦のほうがうまくパスが回ったかといえば、そんなことはない。むしろ、逆だった。


サッカーは駆け引きのスポーツ。自分たちのパフォーマンスどうこうの前に、状況がデータに大きな影響を与える。負けているチームは、早くボールを奪おうと高い位置からプレスに行き、それに対して勝っているチームは無理をせずにボールを蹴り出し、守りを固めて逃げ切りを図る。負けているチームのポゼッション率が上がるのは、自然なことだ。


人はデータにだまされる


広島に話を戻すと、今季の広島は18試合で4試合しか先制できていない。スコアレスドローの2試合を除けば、それ以外の12試合は相手を追いかける展開になった。その状況ならば、ポゼッション率は上がるのが自然だ。パス数も増えるのが自然。特に不思議はない。0-0時、リード時、被リード時などに分けてパス数やポゼッション率を算出できれば、もっと有効な過去シーズンとの比較になるが、単なる平均値ではあまり意味がない。


データは嘘をつくというか、人はデータにだまされる。そのデータの前提条件を意識する機会がないからだ。


ドイツには昔から『ツヴァイカンフ』という、1対1の勝率を示す伝統的なデータがある。日本ではあまり見かけなかったので新鮮だった。しかし、あるとき思った。身体にまったく触れるチャンスすらなく、ドリブルで置き去りされるようなシーンはどうなるんだろう? 1対1に入るんだろうか? と。


最初にその疑問を持ったのは、2013年のコンフェデレーションズカップのブラジル戦だった。遠藤保仁がネイマールにまったくついて行けず、間合いを詰める前に、ドリブルのコース取りで置いていかれる場面があり、そのとき「これって1対1に入るのかな?」と小さな疑問が生まれた。


ブンデスリーガの公式サイトでは試合中の全事象について詳細なデータが示されていたので、試合で似たような場面を探して確認したことがあるが、やはり同じように、接近なしで置き去りにされるようなシーンは、1対1に入っていなかった。


また、去年、データを扱う有名な会社の人と話す機会があったので、その疑問をぶつけてみたが、「それは……データを採る人の判断」と言っていた。やっぱり、人次第だ。もちろん、その主観的な判断を近づける努力はしていると思うけれど。


クロスなのか、ショートパスなのか?


あるいは欧州サッカーでは、カウンターによるゴールが何点など、パターンによって分けた得点データがある。それも微妙で、どこからどこまでがカウンターなのか。たとえば、相手がカウンタープレスを得意とするチームなら、ダイレクトに縦パスを入れるよりも、一度横につないで、ファーストプレスをかわしてから縦にスピードアップしたほうがいいだろう。その場合、これもカウンターに含めるのか。個人的には含めてほしいが。


この点について、日本の『データスタジアム』は明快だ。「カウンター」などという曖昧なデータを使っていない。「奪ってから何秒以内に決めたゴール」という形を取っている。以前、担当者に聞いたことがあるが、データを取る人によって基準がブレないように、客観的に取れる数字は、そうしているらしい。なるほど。


ほかにも定義がハッキリしない数字は多い。たとえば最近のサッカーでは、ペナルティーエリアの角をえぐるサイド攻撃が増えているが、そこから折り返される短いグラウンダーのボールは、クロスなのか、ショートパスなのか。「このチームはクロスからのゴールが多いです」と紹介されても、映像で確認しないとイメージが沸かない。


データの前提を考え始めると…


なぜこんなことを書くのかと言えば、個人的な実感として、数字をまともに信じすぎる人が多いと感じるからだ。


自分はどちらかと言えば、データをよく使う書き手だろう。しかし、データがあっても、その数字の前提を考え始めると、疑問がキリなく沸いてくるし、そのすべてを検証するのは不可能だ。だから結局、自分の目で見た印象で裏付けないと、データを信用できないので、試合そのものを見返すことになる。


最近はデータも複雑化していて、細かい数字が出ていると思うが、どんなデータだけでなく、どうやって出したデータなのか、定義がもっと併記されていればありがたい。ちょっと愚痴っぽい話になってしまった。数字は魔境だ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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