昨年のJ1上位5クラブが監督交代。“選手の心に寄り添う”監督が注意すべきこととは?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第47回

昨年のJ1上位5クラブが監督交代。“選手の心に寄り添う”監督が注意すべきこととは?

By 清水 英斗 ・ 2017.8.9

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昨年のJ1“トップ6”のうち、鹿島、浦和、川崎、大宮、広島と、G大阪を除く5クラブで監督交代が起きている。異変と言えば、異変だ。


このうち、鹿島、浦和、大宮には一つの共通点がある。それは今季が、結果を残した年の翌シーズンであること。そして、監督が選手の心に寄り添うタイプだったことだ。


ここでの「結果を残した」とは、タイトル云々に留まらない。目標を達成し、チームが達成感を得たかどうか。その意味では鹿島のみならず、浦和と大宮も当てはまる。


浦和は昨季ルヴァンカップを制してミハイロ・ペトロヴィッチ監督の無冠に終止符を打ち、さらにチャンピオンシップでは敗れたものの、目標としていた年間勝ち点1位に輝いた。自信と達成感はあったはず。大宮もJ1昇格初年度で残留を目指す戦いのなか、周囲の予想をはるかに越える上位進出(年間5位)を成し遂げた。やはり、自信と達成感を得たはず。


ジョゼップ・グアルディオラは、2008年にバルセロナのトップチームを率いたとき、記者会見で次のように語った。


「私の仕事は、走りたがらない選手に“走れ”と言うこと。それだけだ」


成功した次のシーズンこそ難しい


人間はしばし傲慢で、調子に乗りやすい。同じことをやり続けるのが苦手で、自信と達成感がマイナスを生み出すこともある。「(そこまで走らなくても)勝てるんじゃないか」「攻撃のためにエネルギーを残したい」と個々が考え始めたら、チームというダムの底に、小さな穴が空く。それは誰も気づかないか、あるいは「これを言って雰囲気が悪くなるくらいなら黙っておこう」と思う程度のほころびかもしれない。


もともと、ほんのわずかの出足の差で競り勝ってきたのに、なぜか同じ場面でことごとく負ける。あり得ないミスも犯す。その現象に気付いたとき、すでにダムの水は半分に減っているのだ。取り返そうと、焦れば焦るほど、結果は悪くなる。


チームは生き物。放っておけば自然劣化する。成功した次のシーズンこそ、マネージメントが難しい。特に、選手の心に寄り添う監督にとっては。


選手との距離の近さが障害に?


浦和のペトロヴィッチ前監督は、選手を「息子」と呼び、人望を集める存在だった。大宮の渋谷洋樹前監督も、鹿島の石井正忠前監督も、選手に対して愛情とリスペクトをもって接する人で、やはり人望を集めていた。大宮ホームの試合はよく取材に行ったが、試合後にロッカールームの前で、渋谷前監督が選手とフランクに、楽しそうに話す様子を何度も見かけた。それはとても清々しい光景だった。


しかし、その選手との距離の近さが、成功の翌シーズンというタイミングにおいて、障害になったのではないか。


自信を持った選手たちの鼻っ柱をボキッと折り、「走れ!」と威厳を示すこと。厳しい態度で、自然劣化を許さない。そして新しいアイデアを示し、ついてこられない選手を競争のふるいにかける。成功した後こそ、選手とケンカし、時にはチームを壊すほどの勇気が必要だ。現在の大宮を率いる伊藤彰新監督は、そのタイプに見えるが。


手腕に疑いはない。問題はタイミング


おそらく、浦和のペトロヴィッチ前監督もそれを理解し、選手に檄を飛ばしていたと思う。「クラブハウスの外に聞こえるほどの怒声」という報道もあったし、槙野智章を練習でスタメンから外すこともあった。しかしそんなことをしても、結局、試合ではいつもの選手を起用すると、誰もが思っていたのも事実。実効なしのハリボテの怒声では、選手に見透かされる。雰囲気が冷えてぎこちなくなるだけで、むしろ逆効果だったのではないか。


3人の指揮官共に、非常に優れた戦術家であり、その手腕に疑いはない。選手との距離が近いのも、基本的には良いことだろう。


しかし、問題はタイミング。選手の心に寄り添う指揮官と、成功した次のシーズンという、二つの条件が重なったら、我々は警戒すべきかもしれない。(文・清水英斗)



写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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