ハリルジャパンに足りなかった“チェンジ・オブ・ペース”と井手口陽介への期待

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第55回

ハリルジャパンに足りなかった“チェンジ・オブ・ペース”と井手口陽介への期待

By 清水 英斗 ・ 2017.11.17

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「君のスコア予想は?」


試合前にスタジアムでベルギー人のファンに話しかけられ、「2-2!」と答えておいた。ぼくの場合は平和的に、かつ面白そうな試合を期待して「2-2」のテンプレートで応えることが多い。


そうしたら、そのベルギー人。意外そうに「ふふん」と鼻で笑いやがった。FIFAランク44位が5位と引き分けるなんて、恐れ多いのか。2点も取るなんて、恐れ多いのか。


おいおい、ふざけんなよ、と。


歴史上一度も日本に勝っていないベルギーが、なんで試合前から横綱相撲みたいな気持ちになってんだ。何ならこっちは、本大会で同グループの第一ポッドがベルギーになったら、ラッキーと思っているぐらいだぞ。


…………なんて、彼に言わなくてよかった。だって、実際に試合がその通りだったから。横綱相撲のベルギーに立ち向かい、耐える日本という構図だった。4年前とは違った。


「日本は守備的なチームだね?」


試合後、ある屋台で他のベルギー人にそんなことを言われた。


「そうだね。ベースは守備だよ。ただ、本当はもっとアグレッシブな守備ができるはずなんだけどなあ……」


ゴニョゴニョと濁した。結果はともかく、内容は悪くない試合だったと思うが、この物足りなさ、すっきりしない感じはどこから来るのか。


連動しないプレス


日本のハイプレスとロープレス。その使い分けは非常に良かった。[4-1-4-1]で、前からはめるときも、後ろで構えるときも、コンパクトに連動できていた。


しかし、物足りなかったのは、チェンジ・オブ・ペース。


「時間帯によって使い分けた」という槙野智章の言葉のとおり、日本のハイプレスは時計で計ったかのように正確に、開始10分でミドルゾーンに下がった。


そして迎えた前半16分、日本は浅野拓磨が裏のスペースへ飛び出したが、ボールを奪われた。そのまま浅野はプレスをかけ、原口元気も続く。しかし、他の選手はついて来なかった。特に左インサイドハーフ、井手口陽介が出て行かなければ、このプレッシングは成立しない。ベルギーはGKまでパスを戻し、日本は自陣へ下がった。


コーチングエリアで手を広げて不満を示したハリルホジッチと同様に、ぼくものけぞった。せっかく苦しい状況に追い込んでいるのに、なぜ、わざわざ引き下がってしまうのか。


物足りないチェンジ・オブ・ペース


時間帯によって守備のゾーンを変えるのはわかる。しかし、たとえば相手のゴール前にフリーでボールが転がっているのに、「チーム戦術だから」と帰陣する馬鹿はいないだろう。そんなときはチーム戦術なんか関係ない。猛獣のように突っ込めばいいのだ。背中を向けたうさぎを、そのまま見送ってしまうお人好しのオオカミに、狩りはできない。


「ここぞ」を嗅ぎ分けて、アグレッシブに出る決断。チェンジ・オブ・ペース。それが物足りない。特に物足りなかったのは井手口だ。ブラジル戦のトップ下もそうだったが、彼のポジションは、プレスのスイッチを入れる役割が重要だった。しかし、その決断が鈍い。


ボールを奪ったとき、前へ運べずバックパスを選んでしまう消極的な判断を含めて、井手口については攻守の状況判断で物足りなさを感じる。


ブラジル戦の前半に比べれば、後半の井手口はもっと良かったし、ベルギー戦もその修正が利いていた。だが、まだまだ言われた通りにこなしているだけに見える。球際と走力を備えながら、技術もしっかりしている井手口は本当に魅力的な選手。しかし、ハリルジャパンの中では、まだまだ従順なオオカミに過ぎず、ワールドクラスの狩りをするのに足らない。


このクオリティーで、果たして本大会も井手口で行けるのか。かなり重要なキープレーヤーだけに、不安もある。もし、この2戦のパフォーマンスで止まるようなら、プレスのスイッチャーとして岡崎慎司か、あるいは低い位置からでもボールを前進させられる原口をインサイドハーフに置くなど、オプションを考えたほうがいい。


井手口に対する期待


チェンジ・オブ・ペース。自陣に引く時間帯であっても、チャンスと見れば、猛獣のように突っ込む決断。そういう変化がもっとほしい。


後半27分の失点を思い返すと、パス、パス、クロスでサイド攻撃を繰り返したベルギーが、あの場面では、ナセル・シャドリが中央をスルスルとドリブルで切り裂いた。この試合展開においては意外性があり、ドリブルに弱い日本の隙を突かれた。


あれがほしい。「ここぞ」を嗅ぎ分ける力。その一瞬だけは、チーム戦術をかなぐり捨て、スタジアム中に響く槙野の声を無視してでも前に出るような、圧倒的なパワーとひらめき。


ぼくは井手口に対する期待値が高い。かなり高い。彼は器の大きい選手。もっともっとやれると思う。あと半年で、誰よりも大きく伸びるポテンシャルを秘めた選手だと思う。


ぼくがイメージするハリルジャパンは、「守備的だね」なんて言われるチームじゃない。「何てエキサイティングなチームなんだ!」と拍手を浴びるチーム。ポゼッション率が40%弱しかなくても、みんなから「最高に面白い試合だった!」と喝采を浴びる、最終予選のオーストラリア戦のような試合だ。それを、まさに強豪相手だからこそ、やってほしい。


今回は親善試合、強化試合なので、頭でサッカーをする部分はどうしても大きかったのだろうけど。


ただ、本番もこんな感じでやられると困る。この違和感の正体について、チクリと言っておきたかった。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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