格上相手に"獣のように"戦って勝つ。ハリルジャパンの手本になる、ニューカッスルの戦法

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第59回

格上相手に"獣のように"戦って勝つ。ハリルジャパンの手本になる、ニューカッスルの戦法

By 清水 英斗 ・ 2018.2.16

シェアする

「10回のうち、1回だけ勝つチャンスがあるかもしれない。その1回にしたい。そういう準備をしたい」


日本代表のハリルホジッチ監督は、昨年の欧州遠征(ブラジル、ベルギー戦)を前に、そう語っていた。ところが、結果は9回のほうだ。日本代表は下馬評通りに2連敗している。


もし、その1回のチャンスをつかんで勝つとしたら、どんな試合内容になるのだろうか。どんなチームが、どんな選手が、その1回をつかむのだろうか。


先週末に行われたプレミアリーグ第27節、ニューカッスル対マンチェスター・ユナイテッド(1-0)を見たとき、「これだ!」と衝撃が走った。まさにハリルホジッチが言う、「1回だけの勝つチャンス」を目の当たりにしたからだ。


ジョゼ・モウリーニョ率いるマンチェスター・ユナイテッドは、世界最大級のビッグクラブ。ロメル・ルカク、ポール・ポグバ、フアン・マタ、ダビド・デ・ヘアなどに加え、今冬には週給約7000万円でアレクシス・サンチェスを獲得した。リーグ順位も2位につけている。


一方、ニューカッスルは昇格組であり、降格圏ギリギリに沈む。ケチなオーナーの消極的な補強に足を引っ張られ、なかなか戦力が整わないのが現状だ。直近ではホームで8試合も勝てていなかった。指揮を執るのは、ラファエル・ベニテス。連動する4-4-2の守備ブロックは機能性が高く、名将の指導力を感じさせるが、如何せん、ビッグクラブとは個の力に差がありすぎる。


積極的な守備で格上を押さえ込む


ところが、ニューカッスルは驚くほどアグレッシブだった。キックオフ直後からユナイテッドに対して強度の高いハイプレスを仕掛け、最終ラインも思い切って上げ、連動して敵陣に押し込む。相手のゆるいバックパスを見逃さず、すぐにラインを上げてコンパクトにプレッシングを仕掛ける。


特に序盤の15分間は、ユナイテッドを圧倒した。ニューカッスルは今季のプレミアリーグで、デュエルの発生回数が最も多いクラブ。これは球際に激しく、アグレッシブな守備のスタイルを示す数字だ。


それでも試合が落ち着き、ユナイテッドがポゼッションを始めると、4-4-2の守備ブロックは自陣に下がらざるを得ない。中央を閉め、高いラインをキープし、ユナイテッドの攻撃陣にプレッシャーをかける。コンパクト性をキープするぶん、上下動やサイドへのスライドで負担は大きいが、ニューカッスルは90分間、キレの良いプレッシングを保った。


ニューカッスルの指揮官、ベニテスは試合前にこんなことを語っていた。


「我々は守備的なチームではない。守備をしなければならないチームだ。この2つは似ているようで異なる」


ユナイテッドに質で劣る以上、守備はしなければならない。だが、決して引きっぱなしにならない。むしろ、できる限り、チャンスがあったら、すぐに前へ出るアグレッシブな姿勢を、全員が持ちながら守備をしている。前へ、前へ。似たようで異なる"守備"の意味。これはキーワードだ。


彼らは獣のように戦っていた


それでもユナイテッドは、徐々にニューカッスルの激しい守備網をかいくぐり、FWルカクのキープ力を起点に決定機を作り出していく。しかし、最後の最後でDFに身体を投げ出され、GKにもスーパーセーブされ、点が入らない。この流れは後半に入っても続いた。どんなに決定機を作っても、至近距離のシュートを打っても、ニューカッスルの決死のブロックに遭ってしまう。多くの決定機を作ったにもかかわらず、結局、ユナイテッドはクリーンシート(無得点)を許した。


モウリーニョは試合後、「彼らは獣のように戦っていた」とコメントしている。


「もちろん、これはフットボールでは良い意味であり、彼らが褒め言葉として受け取ることを願う。持てる力をすべて出し、フットボールの神様も彼らの味方をした。それはフットボールの良い部分でもある。我々は10時間攻めても得点できなかっただろう」


10時間攻めても得点できない。その感覚は、見ている自分も共有した。ニューカッスルの守備は激しいだけでなく、とても小まめに動く。ポゼッション率36%で、たくさんのデュエルを仕掛けたにもかかわらず、イエローカードは0枚だ。守備は大胆なだけでなく、研ぎ澄まされた集中力があった。


やられているのに、やられる気がしない。稀にそういう試合に出会う。不思議な感覚だ。


セットプレーに活路を見出す


一方、そんな守備とは異なり、ニューカッスルの攻撃は、お世辞にも素晴らしいとは言えなかった。高い位置でボールを奪うことに何度となく成功し、ボールを運ぶこともかなり出来ていた。ところが、アタッキングサードに入ると手詰まりになる。クロスを上げてもDFに完璧にクリアされ、ミドルシュートを打っても、GKデ・ヘアに防がれる。ユナイテッドのDFが早めにラインを下げてスペースを埋める傾向もあり、そこを崩すアイデアは出て来ない。


一歩も引かない内容の素晴らしさとは裏腹に、攻撃を仕上げるアイデア、質不足は否めなかった。決定機の数では明らかにユナイテッドが上回り、ニューカッスルは守備で持ちこたえるものの、このままでは永遠の0-0だ。


そんな折、後半20分のニューカッスルに、思いがけずチャンスが舞い込んだ。ハーフウェイライン付近で、相手DFスモーリングのシミュレーション行為でフリーキックを得ると、逆サイドへハイボールを蹴った。これを頭で折り返し、中央でもう一度落として、最後はマット・リッチーが至近距離からフリーでシュート。ついに先制に成功した。


必然の積み重ねで勝利をつかむ


なぜ、このビッグチャンスを作ることができたのか。それはショートパスで再開すると思い込んだユナイテッドが、空中戦に対応するのが遅れ、中盤もまったくプレスバックしなかったからだ。バッサリ言えば、油断である。


実際のところ、GKデ・ヘアの牙城を破るための本当の意味での決定機は、この一本くらいしかなかった。ほんの一瞬、相手が与えてくれた千載一遇のセットプレーを、ニューカッスルはモノにしたわけだ。


ベニテスが語る、守備の意味。獣のように、かつ、研ぎ澄まされた集中力でイエローカードは0枚。DFのスーパーブロックと、GKのスーパーセーブ。そして、相手の隙を見逃さなかった千載一遇のセットプレー。


10回に1回どころか、下手をすれば100回に1回のチャンスをつかんだ勝利だったかもしれない。しかし、それは偶然そうなったわけではなく、さまざまな必然に引き寄せられた。


この試合はぜひ、いろいろな人に見てほしい。ハリルジャパンのお手本になるチームだから。パリ・サンジェルマンだの、バイエルンだのをお手本にするより、よっぽど現実感があった。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事