ハリル解任により、日本代表はカオス的状況に。“失われた4年間”を取り戻すために、今からできることとは?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第63回

ハリル解任により、日本代表はカオス的状況に。“失われた4年間”を取り戻すために、今からできることとは?

By 清水 英斗 ・ 2018.4.19

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西野朗が率いる日本代表=インスタント・ジャパンは、目先の試合、つまりW杯で勝てる可能性が充分にある。


火事場のクソ力というやつだ。ハリルホジッチ解任は選手と監督のコミュニケーション不足。そして信頼関係が崩れたことが原因であると、日本サッカー協会の田嶋幸三会長によって説明された。つまり、原因の片側が選手にあり、責任は重い。そういう結論になった。


しかし、実際はそこまで単純ではない。以前から日本のサッカー関係者、Jクラブの強化担当者には、ハリルホジッチに対して否定的な人が多かった。また、有名選手をあっさりとスタメンから外すため、テレビの視聴率が伸びず、スポンサー受けも悪い。


できればハリルホジッチを解任してほしい――。そう思っていた関係者は多いはず。新体制でわざわざ『オールジャパン』と、排他的な宣言が飛び出したことも、それを裏付ける。本来、日本人スタッフで固めることは、時期を考えれば当然だが、『オールジャパン』などと名付ける必要はなかった。ハリルアレルギーを起こしたのは、一部の選手に限らず、内部関係者にも山ほど居たのだろう。


ハリル解任による、怪我の功名


それにもかかわらず、状況は一方的だ。解任の責任は選手ばかりに押しつけられ、実際に絡んでもいるため、否定はできない。しかし、怪我の功名と言うべきか。この退路を絶たれた状況は、アスリートの闘争本能を呼び覚ます。誰もが「責任」というキーワードを口にし、メラメラと燃えている。


また、あまり注目されていなかったロシアW杯と日本代表が、一気にメディアのトピックスに上がった。ネガティブな話は、あっという間に広がる。


外が騒がしくなればなるほど、中が結束していくのは、チームマネジメントにおいてよくある話だ。味方を作るよりも、共通の敵を作るほうが簡単。選手に向けられる外部の目、西野ジャパンに向けられる外部の目が厳しくなればなるほど、見放されれば見放されるほど、メンタル的にはハリルジャパンを越えるものを出せるだろう。


逃げ場を失ったアスリートは強い。火事場のクソ力で、結果を出す舞台は整った。


ポーカーの5枚チェンジと同じ


だが、こんなやり方は邪道であると、何度でも蒸し返したい。日本はロシアW杯が終わり次第、勝とうが負けようが、すぐに邪道から引き返し、長期戦略、中期戦略を立てる必要がある。


今回の行き当たりばったりの解任は、ポーカーの5枚チェンジと同じ。何度か変えてみたが、うまくいかないから、最終ターンでやけくそになり、全部ひっくり返した。もしかしたら偶然、ストレートやフラッシュが、揃うかもしれない。そして味をしめ、次の機会でも「5枚チェンジ!」を高らかに宣言し、ブタ(役なし)に終わる。実に愚かだ。5枚チェンジで成功しても、ポーカーの腕は上がらない。


前回のコラムでは、元チェス世界王者、ガルリ・カスパロフの言葉を紹介した。


「チェスでは、良い戦略が悪い戦術のせいで失敗するケースも、その逆のケースもよく目にする。きわめて優れた構想も、一度の戦術的過ちで台なしになりかねない。長期的に見てもっと危険なのは、悪い戦略が、良い戦術やまったくの幸運のために成功するケースだ。一度はうまくいくとしても、二度起きることはめったにない」


現状にぴたりと合う至言だが、この言葉には続きがある。


「だからこそ、成功にも失敗と同様に、厳しく問いを投げかけることが重要である」


成功にも、厳しく問いを。


おそらく自分は、W杯で西野ジャパンが負けても、チームを強く批判することはない。相手は格上、日本はゴタゴタ。当然の結果だ。批判よりも、この3年でハリルホジッチがやってきたこと、最後に西野さんが修正したことを、できるだけポジティブに取り上げたい。


だが、幸運も手伝って、日本が勝ったときは別だ。一時の成功に味をしめてほしくない。次も5枚チェンジなんて、絶対にさせないように、厳しい問いを重ねて投げかけることが重要だと考えている。


成功の中にも失敗が、失敗の中にも成功がある


そういえば去年、私の原稿について、知り合いがこんなことを言ってきた。「いつも人と違うことを言おうとする」「逆張りが好きだね」と。酒の席だから笑って聞き流したが、まったく、心外革命もいいところだ。


もちろん、勝った試合で厳しく、負けた試合で甘めに書くことは、結果として多いかもしれない。それは常々、考えているからだ。


成功の中にも失敗があり、失敗の中にも成功がある。それこそが、物事を前に進める力だと。


成功したときほど、出来なかったことに目を向けるべきだし、失敗したときほど、出来たことに目を向けるべき。そうしなければ、人もチームも進歩しない。表面的なところだけを見れば、この視点は「逆張り」かもしれないが、そんなくだらない意図ではない。


その意味で、私の印象に残っているのは、ミハイロ・ペトロヴィッチだ。この監督は勝った試合ほどネガティブなことを言い、負けた試合ほどポジティブなことを言う。札幌に行ってからは、あまり追跡できていないが、浦和時代の記者会見は、大半がこのパターン。ピンと来ない人もいるし、「何言ってんだ」と怒る人もいたが、チームを前に進める監督としては、実に正しい姿勢だったと思う。


失われた4年にならないために


日本代表にも、そういう視点は必要だ。


なぜ、日本代表が長期的視点を欠き、4年ごとに右から左へ、極端にブレるのか。世間的には「総括が甘い」と言われているが、私はまったく反対だと思っている。反省しすぎるのだ。負けたこと、悪かったことばかりにフォーカスするから、次の方向性が、右から左へとブレる。


たとえ負けても、出来たことにフォーカスしなければ、継続的な発展はあり得ない。ザックジャパンを思い返すと、ブラジルW杯敗退の原因は、コンディショニングの失敗と、戦術的柔軟性の欠如。この2つに集約されると思う。当時の技術委員長、原博実氏も同様に述べていた。


しかし逆に、ザックジャパンの良かったこと、4年間で積み上げたものに、果たしてどれだけの目が向けられたか。それが上手くいかなければ、4年ごとにブレるのは当然。もちろん、敗因を分析し、修正するのは大事なことだ。しかし、同時に出来たことを継続するのも、絶対に必要。そうでなければ、4年ごとにゼロに戻る。


だから、今はハリルホジッチが監督として、出来たことを拾い集めるべきだ。戦術の分析。戦略の分析。バックナンバーを読み返すだけでもいい。特にハリルアレルギーがある人ほど、それをやってほしい。


W杯直前の監督解任という悪手により、状況はカオスだ。しかし、今からでも成果を整理し、引き出しとしてメソッド化すれば、この4年が“失われた4年間”になることを、少しでも防ぐことができる。そのために、技術委員会があるのではないか。レポートを文書化し、誰にでも閲覧できる状態にして欲しい。


It’s never too late!(文・清水英斗)

写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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