西野ジャパン、得点への道。「本田に合わせて遅く」ではなく「香川に合わせて速く」

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第67回

西野ジャパン、得点への道。「本田に合わせて遅く」ではなく「香川に合わせて速く」

By 清水 英斗 ・ 2018.6.11

シェアする

『く』に、思わず頭を抱えてしまった。


堅守を破れなかったスイス戦、後半26分の出来事だった。カウンターから本田圭佑が中央を進み、右サイドを駆け上がった原口元気へパス。原口はドリブルで相手に近づき、左足へ切り返してシュート。しかしボールに力は無く、GKビュルキに難なくアンダーハンドキャッチを許した。


なぜ、力の無いシュートになったのか? バックスタンドに座った筆者の角度からは、原口の切り返しが、きれいな『く』に見えた。かなり大きく、マイナス角度にボールを運んでいる。斜め後ろへボールを追いながら、腰を回して、どうにかシュートに行く。利き足ではない左足で、ペナルティーエリア外から。それが可能性を感じられないシュートになることは、打つ前から明白だった。


前半42分にPKを取ったスイスのエンボロは、そんなコース取りをしていただろうか。彼のコース取りは、もっと角度が浅い。吉田麻也の足が届くか届かないか、ギリギリのところへ切り込んでいる。だからこそ吉田は足を出し、PKっぽいシーンになった。


比較すると、原口のドリブルは相手にカットされる心配がほとんどない。逆にエンボロのドリブルは、相手の足が届くリスクがある。さて、利益を得たのはどちらか。エンボロだった。虎穴に入らずんば虎子を得ず。ギリギリのポイントを突けば、ボールを奪われ、ファンから「アー…」とため息が出るリスクを負う。しかし、それをやらなければ、このレベルの守備からゴールは奪えない。


本田はフィニッシュの意識が強いが…


一方、本田はギリギリのポイントにボールを置き、フィニッシュに行く意識が強い。だからこそ、日本代表でも多くのゴールを決めてきた。……しかし、如何せん、プレーが遅い。ポゼッションサッカーでゴールを奪いたいのなら、致命的なほどに遅い。決め方を知っている本田は遅く、速い選手は決め方を知らない。その結果、日本は誰も決定力を生み出せない。


前半33分にペナルティエリア外から左足でミドルシュートを打った大島僚太は、「打たされている感じがした」と語った。それは的確な感覚だろう。スイスはバイタルエリアを攻略されても、焦ってボールに食いつかない。ペナルティエリアへラインを切り下げ、割り切って跳ね返す。GKの能力にも信頼があるので、遠めのシュートは構わず打たせている。前半25分の長谷部誠のミドルシュートも同じ。打たされていた。


チャンスが多いようで、実は少ない。本当にチャンスと言えるのは、こぼれ球からシュートに至った前半6分の原口、前半37分の本田、この2場面くらいか。


西野ジャパンで明確になった課題


西野ジャパンに変わり、ポゼッション志向というか、攻撃に手数をかけるようになったため、積年の課題がわかりやすく表れている。前半45分に本田のスルーから、原口がシュートを打った場面もそう。ボールを持った瞬間にシュートをイメージ出来ておらず、踏み込みの甘いシュートになった。


後半11分に投入された乾貴士も、ポゼッション時に幅を取るのは良いが、相手のプレスバックが間に合っていないカウンター場面でも、わざわざ幅を取ってしまい、後半18分のシーンでは裏のスペースを突き落とすタイミングを逃している。


相手の守備に合わせすぎ。自分たちの都合でプレーする意志がない。例えて言うなら、ワンサイドカットした相手に対し、はいそうですかと、別のサイドに踵を返して攻めて行くイメージ。一見、的確な判断だが、そればかりでは、相手が作った檻の中から出られない。


相手が本当に嫌がるのは、消したと思っているワンサイドを、強引に押し入られること。消したと思ったコースを、一瞬早く突破したり、浮き球で突かれたり、股抜きで通されたり。それをやられると、カバーリングする味方を含めてすべての守備がズレる。スイスで言えば、シャキリはそういうチャレンジをする選手で、周囲の味方もそれを理解していた。しかし、日本は現状、このような虎穴に飛び込む危険な選手がいない。攻撃が正直すぎる。


香川が見せた光明


唯一、その点で面白いプレーをしたのが、後半31分に投入された香川真司だった。後半42分に出した、速いテンポのスルーパスは出色。武藤嘉紀の動き出しが遅れ、GKビュルキに取られてしまったが、可能性を感じさせた。


原口は中央に入った本田との連係について、「一つ遅いタイミングで出て行くくらいで、ちょうど良い」と語る。ワールドカップ最終予選のアウェーのオーストラリア戦のときにも、そして最近も同じことを語っていた。


だが、それではダメだ。本田に合わせてタイミングを1つ遅くするのではなく、香川に合わせて、タイミングを1つ速くしなければいけない。その結果、日本は2つ速くなる。これができれば、今の西野ジャパンでもゴールは奪える。本田は自ら熱望したスタイルで、自らプレー機会を減らそうとしている。


岡崎のゴール感覚


その場合、武藤はフィジカル面で非常に魅力的な選手だが、香川のタイミングを感じることができるかどうか。これはやや不安。となると……西野監督が熱望した岡崎慎司か? やはり、彼に頼ることになるのか? こちらはこちらで、コンディションは不安だが。しかし、岡崎のゴール感覚は、中盤がチームを引っ張る存在感を強めている今こそ、本当の意味で日本に欠かせないものだ。


ワールドカップが要求するもの――。西野ジャパンの前にそびえ立つ壁は、インスブルックの街から見える、アルプス山脈のように高い。だが、あの山を越えなければ、勝機はつかめない。最後の親善試合、パラグアイ戦は12日に行われる。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事