五輪とA代表の兼任はベストの策なのか?  森保監督体制のメリットとデメリット

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第68回

五輪とA代表の兼任はベストの策なのか?  森保監督体制のメリットとデメリット

By 清水 英斗 ・ 2018.7.31

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“兼任”は、とても甘い響きだ。五輪代表とA代表の垣根が低くなるのは間違いない。選手の行き来がスムーズになり、戦術アイデアも共通している。メリットだらけだ。


それはわかるが……。


「2つの代表を監督するのは、本当に困難なことだと思います。1人でやるのであれば不可能なことだと思いますが、日本サッカー界、日本代表を支えてくださる多くの方々のお力をお借りしながらチームを作っていけば、その不可能が可能に変わり、2つのチームを同時に見ていくことが、大きな成果につながると思っています」(森保一監督、就任会見より)


この言葉を聞いて、不安を覚えた。それは監督としてのプレゼンス(存在感)だ。


その昔、1950年代までのイングランド代表は、選挙によって平等かつ公平にメンバーが決められていた。ポジションごとに委員会で投票を行い、得票数の多い選手をフォーメーションに当てはめていく。連係やスタイルという発想がなく、1対1でサッカーのすべてが考えられる時代だった。


しかし、そこに圧倒的な組織力を持つ伝説のチーム、ハンガリー代表が現れる。マジック・マジャールと呼ばれたチームは、異次元のコンビネーションプレーで、個の発想を抜け出せないイングランドを打ち破ることに成功した。ハンガリーのポイントは、監督1人に全権があったこと。選手の個性をいかに組み合わせ、コンビネーションを生み出すか。監督の独断ですべてを動かせる“偏り”が、チーム戦術をより細かく、高次元のコンビネーションに昇華させた。


監督1人の全権。それが不可侵であることは、サッカー界、いやスポーツ界では常識だろう。だからこそチームは尖り、強くなれる。


戦術的フルスイング


2017年8月、ロシアワールドカップ・アジア最終予選のオーストラリア戦。日本は2-0で勝利し、ヴァイッド・ハリルホジッチが採ったアグレッシブなハイプレス戦術は、世間を驚かせ、絶賛された。しかし、アイデア自体は特に驚くようなものではない。実際、僕は試合前にほぼ同じスタメンと戦術を示したプレビューを専門紙に書いた。それがオーストラリアに有効で、かつハリルホジッチの志向にも合うと思ったからだ。


だから驚いたのは、戦術の中身ではなかった。その割り切りだ。戦術的フルスイング。自分が確信を持ったことに、リスクを恐れず、すべてを傾けた。ワールドカップ最終予選、最後の大一番で。その決断の強さに、感銘を受けた。


実際、僕はハイプレス戦術を推しつつも、オーストラリアがそれを避けるために、ロングボールで変化を付けてくる可能性も、2割くらいは考えていた。逃げ道を作っていたのだ、2割は。


しかし、ハリルホジッチにそれはなく、選手に与えた指示は極めてシンプルだった。当時の相手監督アンジェ・ポステコグルーの性格を読み切った部分もあるのだろう。自分の分析を信じて、突き抜けた。オーストラリアの試合を、自分が満足するまで繰り返し分析し続けたからこそ、その確信を得られたのかもしれない。


どれだけのプレゼンスを出せるのか


当時のコーチ陣からは、ハリルホジッチが提示した戦術に異論や反対も強かったそうだ。僕と同じように、可能性の濁りがあったのだろう。もしも、その意見を平等に、公平に聞き入れていたら、あのオーストラリア戦はなかった。完璧な2-0は、ハリルホジッチという監督の全権と、強烈なプレゼンスがあってこそ、突き抜けて得た結果だった。


それが森保一にできない、とは思わない。むしろ、できる監督だと思っている。しかし、この兼任の状況ではどうだろう? 


兼任について、「1人でやるなら不可能」と森保監督本人が言った。しかし、監督という仕事は、1人だからこそ、孤独だからこそできること、やらなきゃいけない決断がある。それは本当にギリギリの試合で、勝敗を分けるポイントだ。「1人でやるなら不可能」という状況で、果たして監督がどれほどのプレゼンス、すなわち存在感を出せるのか。僕が不安を覚えた理由を、わかって頂けるだろうか。


たとえば、ハリルホジッチはコロンビアの試合を10回見た、と言っていた。もし、森保監督がスケジュールの都合で3回しか見られなかったら、どうだろう? スカウティングから“濁り”を取り除くほどの自信を持ち、コーチの進言を退けるくらいに、勝負事のプレゼンスを発揮できるのだろうか?


8月にはU-21日本代表が臨むアジア大会がある。9月のA代表選考にあまり時間を割けない状況だ。選手に対しては、厳格に、真摯に、公平に、活発にコミュニケーションを取る森保監督が、心の何処かに、視察に全力を尽くしてやれなかった“申し訳なさ”を抱えていたら? それで監督のプレゼンスは発揮されるのだろうか。正しい競争ができるのだろうか。


プレゼンスの弱まりは大きなリスク


一方、五輪代表のほうも、U-21日本代表が出場した5月のトゥーロン国際大会では、森保監督がロシアワールドカップにコーチとして帯同したため、指揮を執れなかった。横内昭展コーチが監督代行を務めている。同じスタッフとはいえ、監督は常に最終である。森保監督がいないトゥーロン国際で何かしらのアピールの手応えを得た選手がいたら、その選手は今後の扱いによって、不満を覚えることがあるかもしれない。結局、来てなかったじゃないか、と。兼任は、常にチームや選手を見きれるわけではない。それが前提になってしまう。監督のプレゼンスの弱まりは、大きなリスクだ。


また、今後のA代表の成長も、今ひとつ道筋が見えない。ジャパンズウェイをあれほど出し切ってベスト16止まり。しかも1勝しか出来なかったのだから、その先に続く道を示す必要がある。


森保監督は「臨機応変に、状況に応じて勝つために、流れをつかむことを選手が判断して、選択できるサッカーをしていきたい」と語った。状況に応じて勝つこと。それは今後のA代表が成長させるべき、最も大きなポイントであり、ロシアワールドカップの敗因でもある。


しかし、その対応力を「臨機応変」「選手が判断」と選手に投げるのは、すでに限界を迎えている。西野ジャパンの選手たちは、充分に対応力を発揮した。ベルギー戦で2-0からオープンに攻め続け、攻守が分断して間延びし、とても2-0とは思えないような試合をしてしまったのは、選手というより監督やチームの試合戦略に問題がある。良くも悪くも、西野ジャパンはピーターパンのようだった。


大人のチームに成長しなければならない。ロシアワールドカップで見せたサッカーがジャパンウェイだとしたら、多様性を身に着けなければ、ベスト16の壁は破れない。それは明らかだ。しかしそのアイデアは、JFAや技術委員会からは出てこなかった。しかも西野ジャパンをベースに、日本代表を大人のチームに昇華させるべき鍵を握る監督が、今回は兼任になってしまう。監督のプレゼンスが弱まってしまえば、一体、A代表は次の4年間で何を成長させるのか。世代交代? それは成長ではない。


A代表に漂う無風感


ジャパンズウェイの自己満足もあり、これからの2年間では、A代表に何も起こらない無風感が漂っている。ヨーロッパのようにハイレベルな大会や予選が日常的に組まれる環境があれば、それだけで話は変わってくるが、アジアの日本の場合、その勝負感は養えない。


外国人指導者を呼んだ場合、そのメソッドや哲学自体が刺激になり、日本代表が多様性を身につけることにもつながるが、今回はそういう手も打っていない。そして、森保監督も兼任でチームを掛け持ちする状況であり、おそらくこの2年は五輪代表の成長に力を注ぐだろう。この様子では、A代表は停滞し、平坦な2年間を過ごすイメージしか沸かない。ゆでガエル、かもしれない。


森保監督の兼任は、外見的にはメリットの多さが際立つ。しかし、果たして中身がそう思い描いたように進むのだろうか。メリットに比べると、これらのデメリットは沈黙しつつ、静かにチームを蝕み、成長を止める。


「1人でやるのが不可能」という前提なら、最初から2人用意したほうがいいのではないか。中南米の代表チームで兼任が行われているといっても、日本とは強化スケジュールが違う。


そもそも日本のA代表と五輪代表で、今まで選手の取り合いがあったこと自体が不思議だった。上位はA代表であり、五輪代表からA代表に招集される選手がいたら、そのステップアップは喜ばなければならない。欧州の場合、その世代で本当に優れた選手は、すでに五輪代表にはいない、という共通認識がある。技術委員会が基準を示せば、取り合いなど起こらないのだが、基準がなく属人的だから、取り合いになる。


兼任はデメリットの方が大きいのでは


もし、東京五輪は特別に重要ということなら、この2年間は五輪が優先と、基準を決めればいい。この2年間だけは、その条件をA代表監督に呑ませる。わざわざ兼任にしなくても、技術委員会が整理すれば、解決できる話に思えるが。


あるいは兼任なら兼任で、そのメリットを最大化させるとしたら、A代表の親善試合やアジアカップに、五輪代表のチームで臨むことも考えられる。オーバーエイジ候補の海外組を招集できるのは、かなり大きいメリットだ。世界中を見回しても、ここまで五輪に向けて準備ができるチームはない。しかし、さすがにそんなことをしたら、A代表へのダメージが大きすぎるし、ワールドカップ予選が不安になる。さらにアジアカップにそんなチームが出場したら、AFCも激怒するだろう。もしできれば、ものすごい準備にはなるが。


果たしてメリットとデメリット、どちらが上回るのか。現状はむしろデメリットが大きいのではないか。本来は技術委員会のコミュニケーションで解決できる問題まで、わざわざ兼任という安易な方法に頼っている。これで本当に良いのか。


鍵を握るのは、森保監督の強化戦略だ。2チームを動かせるメリットを、どこまで最大化できるか。それは自身の過去の実績とは異なる、総監督のようなセンスが求められる仕事だ。新・森保に期待してみよう。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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