会心のイラン戦勝利。課題を回収しながら決勝にたどり着いた、森保ジャパンの強み

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第78回

会心のイラン戦勝利。課題を回収しながら決勝にたどり着いた、森保ジャパンの強み

By 清水 英斗 ・ 2019.1.30

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まさに会心のイラン戦。3-0までリードが広がったのは相手の自滅ゆえだが、それでもこの試合、0-0の時点ですでに日本優位だったのは確かだ。シュート数に差がなくても、自分たちの絵を描くことが出来た日本と、その絵をことごとく潰されたイラン。当然、疲労の色は異なる。ポゼッション率のみならず、この差は大きい。時間の経過と共に、じりじりと日本へ傾くであろう、試合内容だった。


特に日本のビルドアップが改善されたことは、イランに重くのしかかったはず。


日本は準々決勝のベトナム戦で、[5-4-1]で待ち構えた相手に対し、効率の悪い攻撃を繰り返してしまった。あまりにもロングボールや長いクサビを蹴りすぎた。もっと丁寧に一列ずつ剥がし、引いた相手を真綿で締めるようにパスを回したかったが、それが明らかにうまく出来たのは、ベトナム戦は後半に入ってからだった。


鍵を握るのは、相手1トップと中盤のすき間でパスを受けること。柴崎岳、あるいは遠藤航を経由して、相手の中盤を引きつけ、横へ振り、縦パスが通るスペースを空けること。ベトナム戦では柴崎や遠藤がフリーでも、縦、縦と急いでカットされる場面が目立ち、相手が嫌がる攻撃にはならなかった。


一方、イランは[4-5-1]だが、相手1トップの裏と、かみ合う中盤のマーカーがいない点では、ベトナム戦と状況が似ている。日本は経験を生かし、このスペースで柴崎や遠藤がボールを受けて、相手ブロックに揺さぶりをかけた。ベトナム戦で得たビルドアップの課題が改善に至ったことは、イラン戦の大きなポイントである。


課題を回収しながら勝ち進む


この件に限らず、森保ジャパンは、この大会で様々な課題を回収しながら勝ち進んできた。


たとえば、初戦のトルクメニスタン戦で課題となった、幅の作り方。中島翔哉を欠いたために直面した問題とも言えるが、この課題を、森保ジャパンは実戦の中で回収した。


左サイドは原口元気が幅を取り、長友佑都は抑え気味のポジションにつく。その一方、堂安律は中へ入ってプレーし、酒井宏樹は外からオーバーラップを増やす。『右高左低』のバランスだ。ザックジャパン時代の長友と内田篤人とは反対のバランスが、原口と堂安の特徴から逆算され、一つの形に落ち着いてきた。


そしてラストピース、大迫勇也である。


ビルドアップが機能し、幅の作り方でバランスが整っていても、結局、縦パスを入れた先のアタッキングサードで何も出来なければ、ボールを回すだけになってしまう。大迫の復帰は、それを劇的に改善した。というより、その片鱗は、やはりベトナム戦の途中出場の時点で見えていた。


彼は“早い”。相手の間に生じるスペースを見つけるのが早い。前を向くのが早い。仕掛けのイメージを持つのも早い。ターンしたその瞬間から、ディフェンスライン攻略の筋が見えている。


逆に前を向いても、攻略に時間がかかる選手は、とても多い。サイドアタッカーの原口はそのタイプ。前を向いたように見えても、実は目線が下がっていたり、奥まで見通せていなかったりと、攻略イメージを持つまでに、もう1タッチ、2タッチかかってしまう。堂安はそれより巧いが、ターンの技術、ファーストタッチの駆け引き、相手に身体を預けた後の入れ替わりなど、やはり大迫は次元が違った。


森保ジャパンは、試合ごとに課題を回収しながら、ここにたどり着いている。そして、並外れた個である大迫を焦って復帰させず、じっくりと溜めて、イラン戦にスタメンで送り出した。


この悲観されたイラン戦が、互角に、むしろ日本優位に導かれたことは、森保ジャパンの大会マネージメントを抜きには語れない。交代の遅さ、固定メンバー、守備固めなど、批判や疑問も多い森保采配だが、それらは違う視点、つまりメリットの面でも振り返る必要がありそうだ。


イランが陥った自滅


そして、この試合のポイントはもう一つ。いったいイランに何が起こったのか。


森保ジャパンはたしかに優れていた。とはいえ、本来ならば、それは圧勝までを意味しない。イランの自滅がなければ、0-0あるいは1-0で競った試合が、終盤まで繰り広げられたはず。イランはロシアワールドカップでも、スペインに0-1、ポルトガルに1-2と、ぎりぎりの勝負を演じている。もともと簡単に勝ち切れる相手ではない。3-0まで広がったのは、明らかにイランの自滅だ。


このアジアカップ、イランは絶好調だった。そのあまりの好調さが、逆に日本戦で「うまくいかないストレス」を増大させたのではないか。ビルドアップのローテーション連係は、日本のプレッシングに潰され、“戦術アズムン”も、冨安健洋と吉田麻也に完封されている。今大会絶好調のイランだけに、「うまくいかない!」という焦りは、外部から見る我々以上に重かったはず。


さらにもう一つ、重くのしかかったのは“事故”だ。


後半序盤のイランは、割り切ったロングボールで圧力をかけてきたが、そんな折の後半11分、南野拓実の死んだふりダッシュとクロスから、大迫勇也のゴールが生まれた。


もちろん、その原因を作ったのは、審判へ抗議して足を止めてしまったイラン自身であり、自滅だが、当の彼らとしては「いったい何が起こったんだ…」と、目の前で起きた現象を受け入れられなかったはず。「パニックに陥った」と試合後に語る選手もいる。


あれは実にタチの悪いゴールだった。


もし、日本が完璧に崩し切って先制ゴールを決めたのなら、彼らはそれを受け入れ、開き直って、再びロングボール攻勢を強めたかもしれない。だが、(少なくとも彼らにとっては)事故のような失点を喫し、大事なゲームの均衡が破られたことは、あまりにも後悔が大きく、受け入れがたかったはず。


ぼくはロシアワールドカップのベルギー戦を思い出した。あのフェルトンゲンの反撃弾……。


「えっ!? それで決まっちゃうの!? そんな頭のクロシューみたいなやつが!」と感じてしまう、事故のような失点。タチが悪いのだ、ああいうゴールは。イランほど大崩れしたわけではないが、あのときの日本も、軽いパニックに陥ったと思う。そこから3失点したのは、共通点だ。


だが、サッカーでは当然、起こり得る事象なわけで。こういう苦い経験を、しっかりと積み重ねなければいけないんだろうなと、改めて感じた。


ミスを断ち切ったGK権田


これを個人に置き換えるなら、前半にGK権田修一は致命的なビルドアップのミスを犯したが、その後悔に引きずられることなく、その直後の流れから好セーブを見せ、その後もハイボール処理等、好プレーを続けた。ミスに引きずられないメンタリティ。反省は試合後に、試合中は忘れろ。GKコーチがよく言うことだ。その守護神足るメンタリティを、チームとしても備えておきたい。


この試合でイランに起きたことは、一般化できる。


好調さゆえのおごり、セルフジャッジという怠慢、そして、今に集中できなかったこと。決して他人事ではなく、歴史を振り返れば、同じように日本が崩れたケースはあった。つまり、誰にでも起こり得るということ。


今回は他山の石として。次に落とし穴にはまるのは、自分かもしれないから。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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