柏木陽介の躍動と柴崎岳の不在。カンボジア戦に見る、ハリルホジッチの計算と“痛恨のミス”とは?

COLUMN清水英斗の「世界基準のジャパン目線」第12回

柏木陽介の躍動と柴崎岳の不在。カンボジア戦に見る、ハリルホジッチの計算と“痛恨のミス”とは?

By 清水 英斗 ・ 2015.11.19

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カンボジア戦の前半は、わざと「できないこと」をやらせたような試合だった。


山口蛍と遠藤航は、ダブルボランチとしては守備的だ。引いた相手に対して、攻撃を組み立てるタイプではない。フリーでボールを持てる状況だったが、前線に縦パスを入れられず、入れたとしても、強引な鬼パス。結局、香川真司が引いてボランチの位置でボールを受けていた。これでは攻撃の厚みが出ず、香川自身も得意なスペースでプレーできない。


一方、シンガポール戦のダブルボランチは、柏木陽介と長谷部誠だった。長谷部は経験と共に、攻守バランス型になりつつあるが、柏木は明らかに攻撃タイプだ。相手が引いて守る試合では、この組み合わせが理にかなっていた。なぜ、グループ最下位のカンボジアとの試合で、山口と遠藤のセットになるのか? 不可解だった。


ボランチだけでなく、両ウイングのセレクトも不可解だ。


中央でうまくボールが回らないので、有効な攻撃は、同サイドを崩してからのクロスが多くなったが、そこに走り込むのは1トップの岡崎慎司ひとり、というシーンが多発した。カンボジアは、GKとDFの間へ送られるクロスに対し、かなり甘い対応をしていたが、両ウイングのドリブラー、宇佐美貴史や原口元気がそのスペースに走り込んでおらず、どうにもならない。本田圭佑や武藤嘉紀なら、迷わず飛び込んで行くところだが。


また、人工芝という環境で、裏へのボールにブレーキがかかりやすい。普段ならば、ゴールラインを割るようなボールでも、ピッチ内に残るケースが多くなる。グラウンダーで回しづらい人工芝のピッチではあったが、それを逆手に取れば、裏へのボールを有効に使うこともできた。


だが、宇佐美も原口も、裏への飛び出しは巧くない。トライの数も足りないが、行くときも、直線的に行くだけで、相手のマークを外す駆け引きが少ない。本田のやり方をみると、外にふくらんだり、チェックの動き(逆方向へのフェイント)を入れたり、あるいは相手を振り払って体を押し入れるなど、さまざまなパターンを駆使していた。


なぜ、このダブルボランチ、両ウイングなのか?


対戦相手がシリアなど攻撃的なチームなら、この布陣は理解できる。山口と遠藤航の守備力は、より存在感を放っただろう。宇佐美と原口は、ロングカウンターに推進力を与えたに違いない。だが、カンボジア戦を鑑みるなら、あまり効果的な布陣とは言えなかった。


「リスクを負って起用する」というハリルホジッチの言葉から推測するに、わざと苦手なことをやらせて、反応を見たのだろうか。それ以外に、“不可解”を解く鍵は見当たらない。結果として、改めて出来ないことがハッキリしたのは、収穫なのかもしれないが。


カンボジア戦は勝点を落としてもOKな試合だった!?


6月のシンガポール戦に0-0で引き分けて以来、このようなメンバーを試す余裕は、なかなか見られなかった。しかし、このカンボジア戦は、勝ち点を落としても、最悪、何とかなる試合ではある。


それはつまり、こういうことだ。ワールドカップ最終予選に進むためには、この2次予選でグループ首位になるか、あるいは2位かつ8グループ中4位以上の勝ち点を稼ぐか、どちらかを満たす必要がある。


この2位争いだが、インドネシアがFIFAから資格停止処分を受け、グループFが1チーム減ったため、グループ間の勝ち点は、4チーム分で計算される。そのため、グループF以外は、最下位チームとの対戦成績を除外して計算することになるのだ。


日本のグループEでは、おそらく最下位はカンボジアだろう。すると、仮に日本が2位に落ちたとしても、グループ間の勝ち点を争うとき、カンボジアとの対戦は除外されるので、この試合で勝ち点をこぼしても、影響はない。


つまり、このカンボジア戦は、リスクを負ったメンバー起用をしやすい状況ではあった。シンガポール戦から8人を入れ替えた判断にも、多少は影響したのではないか。


しかし、だったら柴崎岳を呼んでくれよ、という話だ。


6月のシンガポール戦で、長谷部と組んでボランチで出場した柴崎は、確かに良いパフォーマンスではなかった。それは、今回の柏木と比べると一目瞭然だ。柏木は試合の状況を見ながら、シンガポール戦ではサイド攻撃を増やしたり、カンボジア戦では裏へのボールを増やしたりと、ゲームビジョンを伴った、司令塔足るプレーを披露した。これは柴崎にはないクオリティーだ。遠藤保仁の“ロス”は、柏木が埋めた。


柴崎のレベルアップは日本代表の強化に必要不可欠


本質的に言えば、今の柴崎は、“使われる側”のプレーヤーだ。


たとえば柏木の様子を見ると、ただパスを出すだけでなく、味方に対して「もっと高い位置へ行け」「開いて足元で受けろ」「裏へ行け」といった要求を、ハンドサインで示し、パスを配っている。誰に対しても、まったく遠慮しない。本田に対しても試合中に要求している。“使う側”のプレーヤーだ。


柴崎もパッサーなので、“使う側”と捉えがちだが、どちらかといえば、味方を動かすよりも、味方の動きにサッと合わせるシーンのほうが多い。柏木や遠藤も、もともとは2列目の選手だが、彼らがアンドレア・ピルロのような“ディープ・プレーメーカー”として、中盤の底に下がったケースとは異なり、柴崎の場合は、2列目のアタッカーがそのまま下がっただけ。(もちろん、守備は向上させているが)


それだけに、たとえばカウンターシーンなど、相手の隙を突く“縦の速さ”に関して、柴崎は、遠藤や柏木を超えるクオリティーを発揮するが、逆に、試合がこう着して動きが出ないとき、プレーメーカーとしての試合構築力は、遠藤や柏木に及ばない。


しかし、だからこそ、柴崎を使って欲しかったのだ。


カンボジア戦でこれだけのトライをするのなら、6月のシンガポール戦の“追試”として、試して欲しかった。直前に柏木のプレーを見て、何か感じるものもあったはず。新たな可能性を切り開く、機会になったかもしれない。ハリルホジッチ、なんともったいないチャンスを逃したのだろう。


柏木は、確かに素晴らしいプレーを見せた。だが、これから世界との戦いを見据えたとき、より大事になるのは、柏木ではなく柴崎であると、筆者は感じている。


それはつまり、遠藤保仁に起こったことが、そのまま柏木に起こると危惧するからだ。2013年のコンフェデレーションズカップ以降、強豪チームとの対戦が増えると、相手の強烈なカウンターへの対処、バイタルエリアや最終ラインのカバーなど、遠藤の守備の不足が、大量失点の一因になった。柏木にも、同じ問題は起こるだろう。


その経験から学ぶのなら、スピードや敏捷性など、対人守備力をより高く備える柴崎は、守備面について、柏木よりも期待できる。前述したように、カウンターに出て行くスキルも重要だ。守る時間帯が増える、強豪チームとの対戦ではポイントになる。


世界を見据え、柴崎を育てて欲しい。このカンボジア戦で柴崎を起用できなかったことは、ハリルホジッチの痛恨のミスだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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