中島翔哉はピッチの誰よりも遊ぶ

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第82回

中島翔哉はピッチの誰よりも遊ぶ

By 清水 英斗 ・ 2019.3.29

シェアする

オランダの歴史家ホイジンガは、人間という存在の根源を、「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」と定義した。遊びは人間にとって本能的な活動、それ自体が目的であり、何かを得るために遊ぶわけではない、と。


中島翔哉は、ピッチで遊んでいた。あっち向いて……ホイ! 残念、カットインでした~。コロンビア戦でもボリビア戦でも、歴戦の南米DFが、次々と中島の遊びに引っかかる。


もう、楽しくて仕方がない。ボリビア戦の後半31分には、決勝ゴールも決めた。ドリブルで持ち込んで、左足で打つと見せかけ、ターン。だが……そう来ると思ったぜ! とばかりにDFは踏ん張り、シュートコースに足を出す。万事休すか!? ……おろろ、そこでニア股抜きしちゃうのね! ずっこけたDF、思わず「そんなのアリ~?」。中島、「サッカーでは何でもアリだよ~」と大笑い。ボリビアから長旅、おつかれさまでした~!


もし、私がこの試合のハイライト番組を作るとしたら、上記のナレーションを全部、みのもんたさんに言ってもらうことになるだろう。


3人に囲まれたら、どうする? 行く。失敗したらどうする? 次も行く。何があっても、中島は遊ぶことをやめない。日本代表という場で、これほど遊べる選手を今まで見たことがない。彼がナンバーワンだ。


賢く守り、余剰エネルギーを得た


遊ぶ人が見せる笑顔はまぶしい。だって、人間だもの。遊びは人間ならではの活動でもある。


ホイジンガの思想を読み解いたフランスの社会学者カイヨワは、「遊びとは、生命活動に必要な量を越えた、余剰エネルギーを消費するための活動」と定義した。だから動物は遊ばない。生命活動に費やした後の余剰エネルギーがないからだ。裏を返せば、余剰エネルギーがなければ、人間も遊ばない。


この2試合で、中島は守備の向上をコメントしていた。たしかに、縦パスのコースの切り方はうまくなった。ハメス・ロドリゲスの縦パスを引っ掛け、インターセプトもした。それ自体に遊びの要素はあるが、一般的に点を取り合うサッカーにおいては、守備は生命活動と言える。


守備が整理されていなければ、いちいち最終ラインに引っ張り込まれたり、行ったり来たりを繰り返し、余剰エネルギーがなくなってしまう。これでは遊べない。良い遊びは、良い守備から。


賢くゾーンで守って余剰エネルギーを得た中島は、より遊べるようになった。自分がコースを切ることで、味方が奪いやすくなり、ボールを預けてもらえる。その余剰エネルギーがあるからこそ、チームメイトが与えてくれるからこそ、中島は目一杯に遊ぶ。


ブラジルで言えば、ロナウジーニョとか、今ならネイマールとか、遊び人はたくさんいたが、日本代表にもこんな「ホモ・ルーデンス」が出てくるとは。なかなか想像できなかった。


自由に遊ぶ中島


ハードワークに長けた選手は、生命活動を行う動物としての研ぎ澄まされた本能で戦う。一方、ホモ・ルーデンス中島は、遊び人たる人間の本質を、プレイで表現する。


人としての共感。中島がひときわまぶしく見える理由は、そこにある気がする。生活がどんどん便利になる現代人にとって、遊びはより身近にある活動だ。遊び方を知らない人間は、エネルギーを持て余す。


だが、中島にその可能性は1ミリもない。誰よりも人間らしく、自由に遊ぶ。家族を背負い、日本を背負い、何万人もの観衆がいる前で、中島は遊ぶ。何がすごいって、そこがいちばんすごい。AIガー、働き方改革ガーと言われる現代において、彼は人のお手本かもしれない。


カタールのアル・ドゥハイルへ移籍したことも、ホモ・ルーデンス中島にとっては、本当に違和感のない決断だったのだろう。今の欧州トップのサッカー界は、あまりにも生命活動に厳しく、余剰エネルギーを得られない環境。そう映ったのではないか。彼の透き通ったプレイを見ていると、そんなことを思う。


カタールへの移籍と、今回の代表戦2試合を含めて、私は中島にあこがれに近い感情を抱くようになった。それは、共感の向こう側。人間の本質は遊びだ。遊ばなければ、そのクオリティーを発揮することはできない。


私は中島になりたい。彼のように翼を持ち、空を自由に飛び回りたい。誰の価値観に影響されることもなく。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事