内容に改善が見えた、なでしこのスコットランド戦。キープレーヤーはボランチ杉田妃和

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第88回

内容に改善が見えた、なでしこのスコットランド戦。キープレーヤーはボランチ杉田妃和

By 清水 英斗 ・ 2019.6.17

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女子ワールドカップ・グループステージ第2戦、なでしこジャパンはスコットランドを2-1で下した。スコアレスに終わったアルゼンチン戦からは、内容が改善したと評価されている。


何が変わったのかと言えば、まず、相手が変わった。


アルゼンチンは[4-5-1]で中盤を厚くする形。真ん中へのパスコースを遮断しながら、日本のパスをサイドへ誘導し、タッチライン際に追い込んでプレスを浴びせてきた。それに対し、日本は有効な選択肢を持つことができず。サイドバックからサイドハーフへ、相手の誘いにまんまと乗ってしまうビルドアップか、あるいは中央で無理なドリブルをして囲まれ、ボールを失うか。いずれにせよ、[4-5-1]に対する効果的な崩しのイメージは無かった。


一方、第2戦のスコットランドは[4-4-1-1]。2列目の22番FWエリン・カスバートは厄介だった。ポジション的に日本のダブルボランチとセンターバックのライン間でフリーになりやすい。仕掛けの迫力もあった。かといって、彼女をフリーにさせまいとセンターバックの熊谷紗希が深追いすれば、もうひとりのCB市瀬菜々がFWジェーン・ロスと1対1になるなど、バランスが崩れやすい。捕まえづらいカスバートへの対応は、日本にとっての課題だった。


しかし一方で、スコットランドが攻撃的な1枚を割く場合、それは同時に、守備の厚みが減ることを意味する。中盤の横幅を5枚で守ったアルゼンチンに比べると、中盤4枚のスコットランドの守備は、日本にとって楽に感じられたのではないか。2つの試合で何が変わったのか。まず、相手という要素はある。


ボランチ杉田が躍動


だが、それだけではない。日本のパフォーマンス自体も向上した。


特に目立ったのは、MF杉田妃和。ダブルボランチを組む三浦成美とは、攻撃時に縦関係になり、杉田はどんどん前へ出た。ライン間に入ってこぼれ球を拾い、フィニッシュ局面でも必ずゴール前に顔を出す。前半23分の岩渕真奈の先制シーンでは、左サイドの深い位置へ飛び出し、起点を作ってクロスを供給した。もちろん、前へ行くだけでなく、CBがプレッシャーを受けそうな状況では、三浦と同じラインへ下がってボールを受ける。


中盤にも、ライン間にも、ゴール前にも、サイドにも。いったい、この試合に杉田は何人いたのか? どこを見ても杉田がいる。そう感じてしまうほど、素晴らしいダイナミズムがあった。


杉田がライン間へ出て行くことで、入れ替わって下がるFW菅澤優衣香、岩渕がフリーになる。また、右サイドの中島依美も、杉田と入れ替わって下がり、フリーでパスを受け、サイドチェンジなど大きな展開でアクセントを付けた。杉田の運動量、中島の正確なキックなど、各人の個性が噛み合っている。シンプルに、テンポ良くボールが動いているので、スコットランドも守備の的を絞りづらかったはずだ。


課題が見えた、スコットランド戦の後半


日本はパスワークだけでなく、こぼれ球の回収、カウンタープレスで際立っていた。そのすべてを生み出したのは、ポジションのバランスだ。すぐに複数人がボールに関われる場所に立っていた。そのキープレーヤーが、ダイナミック杉田であり、リスクマネージメントをする三浦とのボランチコンビが絶妙に働いていた。


試合内容を改善した日本。しかし、課題は後半にありそうだ。相手の猛攻に対し、あわや同点という危機に陥ってしまった。


ビハインドを追い、当然のごとくハイプレッシングをかけてきたスコットランドに対し、日本は自陣でいくつかのパスミスを犯した。そのうちの一つが、後半43分の失点につながっている。スコットランドは守備のスタート位置を変えたが、日本のビルドアップはあまり変わっていない。後半21分にFW小林里歌子を入れたのは、おそらく相手の勢いに対し、シンプルに裏を突くねらいがあったのではないかと思うが、日本の攻撃に変化は見られず、前半同様だった。


Bプランの完成度を高めたい


また、FW小林を投入する際に遠藤純を下げ、岩渕を左サイドへ回しているが、これもズレを生んだのではないか。


左サイドに入った左利きの遠藤は、まずポジションの幅を取り、その後で、中へ行く選択肢を持っていた。ペナルティエリア左のニアゾーンをえぐり、中へ折り返す攻撃パターンなどは、まさに左利きならではのプレー。遠藤の特徴に合わせ、サイドバックの鮫島彩はインナーラップで内を突くなど、コンビネーションも見せた。


しかし、遠藤のポジションに移ってきた岩渕は、先に中へ入ろうとする。鮫島とは中、中のレーンでかぶる場面もあり、幅を生かせなかった。徐々に修正されたが、多少のノッキングは感じた。


小林の投入と、岩渕のポジション移動については、相手や時間帯に合わせて戦い方を変えようとした監督のねらいと、前半通りに同じ戦いを続けようとした選手の間に、ズレがあった印象を受ける。


強敵とのしのぎを削る戦いでは、Bプランの完成度が勝敗を分けることは充分にあり得る。「2-0になることを想定していなかった」とワールドカップを去ることがないように、このグループステージ第2戦でBプランが課題にあがったのは、幸運かもしれない。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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