W杯アジア2次予選初戦の相手、ミャンマーは「アジア最後のフロンティア」

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第92回

W杯アジア2次予選初戦の相手、ミャンマーは「アジア最後のフロンティア」

By 清水 英斗 ・ 2019.7.22

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カタールワールドカップ・アジア2次予選の抽選が行われた。日本はグループF。キルギス、タジキスタン、ミャンマー、モンゴルと同組だ。ポッド2の強敵であるイラクやウズベキスタンを避けた意味では、クジ運は良かった。


ここで2次予選のレギュレーションを確認しておこう。


最終予選に進出できるのは、各グループ首位の8チーム、そして各グループ2位のうち勝ち点等で上位の4チームとなる。この12チームは同時に、2023年に中国で開催されるアジアカップの出場権を獲得することができる。ワールドカップとアジアカップ、両方の予選を兼ねているのが、この2次予選の特徴だ。


開催国としてワールドカップの出場権を持つカタールが、グループEに入っていることを不思議に思うかもしれないが、カタールはアジアカップの出場権を獲得するために、この2次予選に参加している。そのため、仮に2次予選を通過しても、カタールは最終予選には出ない。その場合は各グループ2位のうち、5番目のチームが繰り上げられることになる。


そしてグループ3位、グループ4位の上位チームは、ワールドカップ予選からは脱落するものの、アジアカップ3次予選に進むことができる。


アジアカップを目指す国々


モンゴルやタジキスタンにとって、アジアカップ初出場は大きな夢だ。ミャンマーも1968年に準優勝の記録はあるが、それ以降は本大会の出場すらない。アジアカップを現実的な目標として考える彼らは、日本戦に高望みをしないだろう。日本を相手に引き分けて、勝ち点1を取ることができれば、アジアカップを目指す他国への大きなアドバンテージになる。


つまり、日本は4年前の2次予選、スコアレスドローに終わったシンガポール戦のような試合を挑まれることを想定しなければならず、ベタ引きの相手にもきっちり勝ち切る必要がある。サッカーは意外とこれが大変。アウェーも大変だが、むしろ相手が極端に割り切って守りを固めてくる日本のホームこそ、落とし穴になり得る。それは国内のゆるい雰囲気も含めて。


1点目をサッと取れば、何てことない試合に落ち着くだろうが、油断せず戦いたいところだ


日本の初陣は9月のミャンマー戦


さて。日本の初戦は9月10日、アウェーのミャンマー戦が予定されている。


サッカーファンにとっても日本人にとっても、馴染みのない国が多い2次予選だが、個人的には今回、同組になった国の中で、唯一行ったことがあるのがミャンマーだ。2014年にU-19アジア選手権が開催された折、現地を訪れた。2~3週間ほど滞在したと思う。


印象に残っているのは3つ。タイムワープと、仏教と、犬だ。


ミャンマーは1980年代に誕生した軍事政権によって、20年以上も鎖国状態に置かれていた国。その間に経済発展で遅れを取り、世界最貧国にも入ったが、2007年の新政権樹立をきっかけに、民主化に舵を切って行く。外国資本が入って交易も行われるようになり、法律や金融も、時間をかけて整備された。


「アジア最後のフロンティア」と呼ばれたミャンマー。私が現地を訪れた2014年頃は、本格的に経済の開国が始まろうとしていた時期だった。当時ヤンゴン郊外の高速バスターミナルで見た光景は、今も鮮明に覚えている。


ある露店に目を向けると、壁掛けの電話があり、その横に料金表が貼ってあった。店番をする人もいる。有人の公衆電話屋さんだ。電話は『となりのトトロ』でカンタの本家にあった黒電話を思い出す。使った分だけを、店の人に直接払う仕組みだ。日本では公衆電話自体、街から姿を消すようになったが、ミャンマーは電話自体、持っていない人が多かったのだろう。


ヤンゴンの露店で見た、チェルシーの青


このような、いわゆる昭和レトロの雰囲気を感じることは、これまでにもベトナムなどいくつかの国であった。しかし、ミャンマーで驚いたのはその後だ。


有人の黒電話屋さんの隣に目を向けると、そっちの店ではなんと、チェルシーのスマホケースを売っているではないか。黒電話から、いきなりスマホ? 日本ではその間に、FAXとか馬鹿でかい携帯電話とかガラケーとか、色々な発展を経て今があるのだが……全部すっ飛ばしてスマホ。ミャンマーの20年以上の経済空白を象徴する、タイムワープを見た。


欧州サッカーの人気も、急速に広まったのだろう。たぶん他のクラブや、サッカー以外のスマホケースも並んでいたとは思う。しかし、あの舗装されていない土埃の舞うヤンゴン郊外の露店では、チェルシーの青色が、スマホの存在と共にあまりにも異様で、目に飛び込んできた。あのワンショットほど、ミャンマーの近代史を語るのにふさわしい画はない気がする。


ミャンマーの2つめの印象は、敬虔な仏教文化だ。


人々は9割が仏教徒。人口の13%は僧侶であり、その数は800万人と言われている。ただし、仏教と言っても、日本の大乗仏教とは異なる。上座部仏教と呼ばれる、スリランカや東南アジアで伝えられている仏教だ。


当時はヤンゴンからネピドーへ、高速バスで移動する機会があったが、途中、僧侶が車内に乗り込み、一周して出て行ったことがあった。状況が理解できず、ただ眺めるだけだったが、お布施を集めていたのだと、後からわかった。街中で僧侶を見かけることも多く、仏教が生活の中に深く浸透しているのを感じた。


ちなみに、その高速バスだが、各座席がモニター付きで、映画まで見ることができた。まるで飛行機のような設備だ。日本でさえなかなか見かけない最新設備が、おおよそ近代化とは程遠い砂利道を走る、アンバランス感。そして、そこに乗り込んでくる、質素な身なりの僧侶たち。SFのような国だった。


馴染みのない国との交流もサッカーの魅力


そして、もう一つ印象に残っているのが、犬だ。


今はどうかわからないが、ヤンゴンは本当に野犬が多かった。誇張でも何でも無く、本当にそこら中にウジャウジャいた。正直に言って、かなり怖い。狂犬病の致死率は、ほぼ100%だ。咬まれてすぐにワクチンを打てば助かるが、果たしてワクチンは、ヤンゴンで簡単に手に入るものなのか……。


そうやってATフィールド全開で野犬の様子を見ていると、近所のおばさんがご飯を入れた器を持って来る。餌を与えているのだ。ミャンマーでは、犬は大切な友達。飼っていようが、飼っていまいが、関係ない。人々は動物を愛する。


犬にとっては天国だ。そのせいか、日本で見る犬よりも、何となく態度がでかい。その辺の道端で寝そべっていたり、くにゃくにゃと歩いたり、雰囲気がダラけている。人が近寄っても、まったく避けないし、まるで警戒心がない。犬たちが伸び伸びと生きているのがよくわかる。


ただし、そういう犬に咬まれたら、狂犬病だけでなく様々な病気のリスクがあるのも事実だ。こうした野犬は、特に外国人に嫌がられるそうで、外資の受け入れを始めたミャンマーにとっては、深刻な問題だった。


するとミャンマー政府は、数千、数万単位で犬の殺処分を繰り返すことに。この野犬問題を解決しなければ、外国人旅行客は増えないし、経済も発展しない。仕方がない。そして各家庭には、面倒を見ている犬を差し出せと迫る。そんな犬を、家の中に匿おうとするミャンマーの人々もいて……。


ああ、経済発展とは何ぞや。グローバルの恐ろしさよ。


『アジア最後のフロンティア』と呼ばれた、彼の国。東南アジアとの交易や開発で、完全に遅れを取っていた日本も、後発のミャンマーの経済発展には大きく乗り出している。つまり、関係も責任もあるのだ。この国にさまざまな事実があることは、日本人として知っておくべきだと思う。


それもまた、サッカーなり。馴染みのない国ばかりの2次予選ではあるが、こうした交流が生まれることも、サッカーだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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