六兎を追う者は一兎をも得ず。森保ジャパン、11月シリーズの誤算

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第100回

六兎を追う者は一兎をも得ず。森保ジャパン、11月シリーズの誤算

By 清水 英斗 ・ 2019.11.28

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二兎を追う者は一兎をも得ず。欲を出して二つを同時に行うと、どちらも失敗することの喩えだ。


とはいえ、日本代表のレベルで、平凡な諺に落ちてほしくはない。二兎追って、二兎とも狩ってみせる。一般人の集まりではないし、そのくらい要求されるのは当然だろう。


しかし、それが二兎ではなく、三兎、四兎、五兎、いや、六兎だとしたら?


11月は3つのチームが組まれた。


ワールドカップ2次予選で結果を得るため、ほぼベストメンバーを揃えたキルギス戦のAチーム。その後、主力9人と国内組を入れ替え、テストマッチ色が強くなったベネズエラ戦のBチーム。その間でU-22コロンビアと戦ったU-22チーム。すべてを兼任監督、森保一が指揮し、“三兎追い”を決行した。


メリットはたくさんある。A代表の主力のクラブ事情に配慮し、かつキルギス戦の結果重視の姿勢と、ラージグループの強化を両立させた。さらにU-22では堂安律や久保建英を初めて同時にチームに組み込んだ。やりくり上手だ。


しかし、その反面、1チーム当たりの活動密度は薄まった。公式戦は各1試合ずつしか組めていない。代表チームは試合後、選手が即時解散してクラブへ戻るため、1試合だけではチームとしての濃密なミーティングができず、その後のフィードバックも試せない。A代表の新戦力の発掘、久保や堂安のU-22への組み込みは、この方法で充分だったのか。


準備とフィードバックの時間が足りず


また、森保監督は日程が被った3チームを行脚し、指揮を執ったため、1チーム当たりで過ごす時間は短かった。これで試合の準備は充分だったのか。“三兎追い”により、準備とフィードバックの両方が弱まったのは確かだろう。


それでも代表選手なら、適応するべきかもしれない。


しかし、森保ジャパンは“臨機応変”がテーマだ。選手がピッチ内で判断し、コミュニケーションを取って対応することが求められる。それには選手が共に過ごし、活発な時間を共有することが必須だが、準備とフィードバックが弱い中での“臨機応変”は、単なる無秩序に等しい。


選手に対応力を求めるのなら、尚更1試合ではなく2試合を取り、マッチ・トレーニング・マッチでチームを活性化させたいが、この11月はそれができなかった。


混乱を生んだ、システムの違い


融合については、システムの違いが困難な状況に拍車をかける。


A代表の主要システムは4バック、U-22代表は3バックだ。森保監督はこれらを“柔軟”に使い分けること、またシステムばかりにとらわれず、攻守で局面の戦い方が伝わるようにコンセプトを指導してきたそうだが、試合を見ると、あまりそういう感じはしない。


むしろ、選手はシステムの立ち位置を拠り所にしている。たとえばU-22コロンビア戦の1失点目は、相手FW2人に対し、5バックが全員残り、スカスカに空いたバイタルエリアから、クロスのこぼれ球を押し込まれた。


この場面は堂安がサイドのクロッサーへ寄せたので、日本の中盤にすき間が生じていた。しかし、5バックはお尻を下げっぱなしで前に出ない。とりあえず、ポジションに着いた格好だ。相手や状況が見えておらず、システムの奴隷になっていた。同様のポジショニングはベネズエラ戦でも多く見られる。スタートポジションにとらわれており、柔軟とは言えない。


臨機応変、柔軟なシステムの使い分け。こうしたキーワードは、メンバーを固定して試合をこなすことで磨かれる。クラブチームが良い例だ。しかし、そのやり方は代表チームでは限界がある。4年スパンで選手を探し続けなければならないし、ワールドカップ等の短期過密日程は11人では乗り切れない。


代表は選抜型であることがベースだ。クラブのようにメンバーを固定し、一辺倒に積み上げるわけにはいかない。だからこそ、11月のA代表は新たな発掘を行った。


むしろ、うまくいくほうがサプライズだ。監督は兼任、システムも兼用、戦術は対応力、選手も発掘。さらに3チーム同時稼働で、各1試合のみ。この11月は固まったものが何も無かった。


一つずつは悪くない方針かもしれない。しかし、全部重なれば、全部ご破算。オーバーワークだった。


メリットはわかる。だが、あまりにも色々なものを同時に追いすぎた。六兎を追う者は、日本代表であっても一兎をも得ず。


注目が集まる、E-1選手権でのパフォーマンス


今後は12月に入り、A代表はE-1選手権が行われる。また、U-22代表は年末のジャマイカとの親善試合と、年始のAFC U-23選手権が控える。これらは日程が被らず、試合数も期間も充分だ。おそらく、今回の11月のように兼任のデメリットは表面化しないはず。


マネージメントが気になるのは、来年3月のほうだ。


ワールドカップ2次予選の二回り目となるミャンマー戦とモンゴル戦があり、同じ期間で五輪代表も強化を行うはず。つまり、今回の問題が再燃する可能性がある。森保監督はどのようにチームを編成するのか。また両チームを行き来するのか。兼任のデメリットは忘れた頃にやってくる。


今回のベネズエラ戦は、欧州クラブで出場機会に恵まれない選手と国内組を交えた編成だった。これは残りの2次予選を想定した部分もあるのではないか。


日本は4連勝で勝点に余裕がある。今後のワールドカップ2次予選はベネズエラ戦のように主力を休ませ、控え選手の向上と、新戦力のフィットを重視する。主力の五輪のオーバーエイジ招集に関わる交渉を含めて。あるいは柴崎岳など現時点でオーバーエイジ候補に挙げやすそうな選手は、3月は五輪代表に招集してもいいかもしれない。


だが、3月の諸々の青写真を吹き飛ばす不安が、ベネズエラ戦にあったのも確かだ。あまりにも連係不足で、チームの戦術方針も不明瞭だった。これで2次予選に送り出せるのかどうか。


もし、E-1選手権で良いパフォーマンスを出せれば、国内組主体のチームで、残るワールドカップ2次予選を戦う自信が付くかもしれない。3月を踏まえ、A代表と五輪代表共に、12~1月にどんな試合ができるか。まずは目先に注目しておこう。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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