日本代表選手のケア、情報収集に期待。JFAが作る“欧州拠点”

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第105回

日本代表選手のケア、情報収集に期待。JFAが作る“欧州拠点”

By 清水 英斗 ・ 2020.2.18

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「緊張するよ…」と彼は言った。


何が彼を緊張させるのか? 代表選手と同じ空間を過ごすから? 相手が有名人だから? いや、そうではない。日本代表を背負った人間に、もしものトラブルが起きてはいけないからだ。


『欧州組』と一口に言うけれど、欧州は広い。全員が一緒に『欧州組』として行動するわけではない。行きは各クラブの試合日程が異なるので、バラバラに集まり、帰りの行程にしても、そもそも最寄りの空港が異なるため、移動は各自バラバラだ。『イングランド組』『ドイツ組』『イタリア組』といった形はあるが、『欧州組』というグループ分けは、実際には存在しない。


数年前のことだが、私は日本代表の海外活動に協力する、欧州在住の日本人と知り合った。


その人が任されたタスクは、日本代表に選ばれた欧州クラブの選手数人を車に載せ、空港へ向かうこと。選手の家へ直接迎えに行き、空港へ送り届け、確実にチェックインさせる。飛行機に乗せてしまえば、OKだ。あとは遠征先の空港で代表スタッフが迎え入れを行う。そして試合が終われば、帰りも空港へ選手を迎えに行く。確実に家へ送り届けるために。


その運転は毎度、とても緊張するそうだ。日本を代表する選手に、もしものことが起きてはいけないから。おそらく欧州の国ごと、地域ごとに、彼のような協力者がいるのだろう。JFA(日本サッカー協会)の職員でもない様々な方々に支えられ、日本代表が成り立っていることを、今更ながらに実感した出会いだった。


特に海外活動においては、その地を知る人々の協力は絶対に欠かせない。ブラジルワールドカップを思い返すと、合宿中に選手が食べる納豆などの和食材を集めるため、サンパウロ在住の日本人の皆さんが、商店や卸売業者を探し回ったそうだ。こうしたエピソードは、ほんの一部に過ぎず、人知れず行われてきた貢献は他にもたくさんあるのだろう。


欧州拠点の必要性


「JFAが欧州に拠点を作り、駐在員を置く」というニュースを知ったとき、真っ先に思い出したのが上記の話だった。


数年前とは状況が変わってきた。欧州でプレーする日本人選手は増え続け、50名を超えた。特に近年は若い選手の移籍が目立つ。ビッグネームの選手ならば、日頃から個人マネージャー等を抱え、そもそも運転手を依頼する必要がないかもしれない。しかし、若手はそうもいかない。慣れない海外で移動トラブルに巻き込まれ、招集に遅れることがないよう、確実に送り届ける必要がある。


欧州に選手が増え、若手も増え、そうした手配が以前にも増して大変になったことは想像に難くない。また、バドミントンの桃田賢斗が巻き込まれた事故の例もある。いくら手配が大変とはいえ、信頼の怪しい人間に任せるわけにはいかない。日頃から関係を築く必要があるし、時差のある日本から遠隔でお願いするのもフットワークに限界がある。JFAの欧州拠点の設置は、昨今の実務から言えば当然の措置なのだろう。


欧州拠点の場所は、ドイツのデュッセルドルフが候補に挙がっている。日本企業の進出が盛んな都市だ。日本の総領事館があるインマーマン通りは、日本人街としても知られ、約5000人の日本人が暮らしているという。地理的にはベルギーのほうが中心だとか、そういうことはあるかもしれないが、何より大事で難しいのは人だ。信頼できる協力者を確保し、連携を取ること。となれば、やはりデュッセルドルフなのだろう。


選手の精神面のケアにも期待


さらに今回の報道によれば、拠点設置の目的は、そうした移動手配やホテル等の総務的な仕事以外に、選手のコンディションチェックや、所属クラブとの連絡窓口を務める、といった目的もあるそうだ。


真っ先に思い浮かぶのは、昌子源のケースだろう。


右足首を負傷した昌子は、トゥールーズの医療対応でストレスを抱えた。日本での診察を希望したが、それも当初は認められず。極東の日本に飛んで診察となれば、どう短く見積もっても3日はかかる。クラブから了承を得ないわけにはいかない。そんな問答を繰り返すうち、昌子とトゥールーズの溝は、どんどん深まったはず。


クラブのドクターは、あくまでクラブに雇われた存在であり、選手がセカンドオピニオンを求める気持ちは理解できる。また、このような怪我に関わるストレスは、昌子だけが抱えるものではない。たとえばJFAが作った欧州拠点にトレーナーを置けば、選手の心身のケア、コンディションチェックと共に、昌子のような重大なケースでは欧州内で日帰りセカンドオピニオンを斡旋するなど、選手を助けることができるのではないか。


また、そうした直接の医療に留まらず、マッサージや鍼灸等を施すトレーナーは、Jクラブでも、選手の愚痴の聞き役になることは多々ある。場合によっては、監督が欧州へ飛ぶよりも、実態に即した情報が得られるかもしれない。特に海外経験の浅い選手にとっては重要だ。今までも、そういう存在を必要としていたのではないか、と思われる選手の顔は浮かぶ。


欧州拠点の設置は素晴らしい。


ただ、最近思うが、大概の戦略は、立てた段階では良いプランに見える。問題はそれが絵に描いた餅にならないよう、目的に合致した戦術を実践することだ。そして現地で協力をしてくれる方々には、改めて感謝しなければならないだろう。(文・清水英斗)


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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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