強豪相手に3戦全敗のなでしこジャパン。アメリカ戦のミスは、未来に繋がるか?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第107回

強豪相手に3戦全敗のなでしこジャパン。アメリカ戦のミスは、未来に繋がるか?

By 清水 英斗 ・ 2020.3.15

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シービリーブスカップ2020。なでしこジャパンはスペインに1-3、イングランドに0-1、アメリカに1-3と、無念の3連敗で大会を終えた。


「世界の中でトップレベルのチームとなかなか試合をする機会がない中で、そういうレベルの本気の相手と戦ったらどうなるのか、手探りの状態だった。これぐらいはできるが、これぐらい無理をするとやられる。それを選手が肌で感じたことが大きい。我々のチームは中盤でシンプルにボールを回すのが得意だが、中盤で手数をかけすぎると、逆にカウンターを受ける。そこのさじ加減、判断を選手ができるようになった。それが一番大きい」


上記は2010年南アフリカW杯、グループステージ突破を決めたデンマーク戦後の岡田武史氏の言葉だ。東京五輪の後、これが高倉麻子監督のコメントとして出てくればいいのだが。


できることと、できないことに線を引く。そのさじ加減は最終的なキーポイントになる。


ただし、1戦目のスペイン戦はそれを語る段階に達していなかった。さじ加減どうこうの前に、4-3-3でハイプレス、ビルドアップを試みる相手に対し、何ができるのか不明なままでプレーしていた。さじ加減もへったくれもない。


狙われた左サイドバック


その点は2戦目のイングランド戦、3戦目のアメリカ戦で改善されたと言える。特に大きく変わったのはサイドバックの立ち位置だろう。


スペイン戦に左サイドバックで先発した遠藤純は、プレッシャーの標的にされ、何度もボールを失った。技術に優れた純正の左利きを置けば、中盤への配球はスムーズに進むだろうと思いきや、どん詰まりだった。守備でも相手に競り負け、1失点目のきっかけを作ったが、元々が攻撃の選手だけに、守備のマイナスは想定できる。しかし、遠藤を置いたのに、攻撃がそこで詰まってしまっては、彼女を起用した意味がない。


その後ミスを犯せば犯すほど、時間と共に自信を失っていく。それがさらに事態を悪化させた。


思い切って寄せてやろうと、手ぐすねを引く相手から、怖がって離れる。下がってパスを受けようとすると、より深く相手に追撃され、結果として自陣の深いゾーンで捕まり、より危険な場所でボールを失ってしまう。サメににらまれた状態だ。獰猛な牙は、獲物が逃げようともがけばもがくほど、その肉に深く食い込む。スペインの連動したプレッシングは非常に印象的だった。


だったら、逃げるのではなく、相手の死角へもぐり込むしかない。逆にサイドバックが高い位置を取って、対面した相手ウイングの横や斜め後ろに入る。相手のプレスの基準をずらす。


そのサイドバックの動きに、相手ウイングが釣られてポジションを下げれば、すき間にサイドハーフが下がって縦パスを受けられる。あるいは釣られなければ、ウイングの頭越しにミドルパスをサイドバックへ通すか、縦パスをボランチやサイドハーフに当て、フリーのサイドバックに落としてもいい。


改善が見られたアメリカ戦


そうしたビルドアップの試みがはっきりと見えたのは、3戦目のアメリカ戦だった。


2戦目のイングランドは後半途中までそれほどハイプレスをかけて来なかったため、そもそもサイドバックが前へ行くのは容易だったが、アメリカ戦では明確な改善の跡が見えた。


サイドバックに入った三宅史織、土光真代が高い位置を取り、GK山下杏也加から相手ウイングの頭越しにロングキックを受ける。あるいはサイドハーフに入った籾木結花、田中美南らがサイドバックに入れ替わって下がり、すき間でパスを受ける。相手のプレスを外す手順が明確だったのが、アメリカ戦だ。


ビルドアップに変化が見られたのは、サイドバック絡みだけではない。左センターバックの南萌華も印象的な縦パスを通した。


アメリカはスペイン同様の4-3-3。インサイドハーフは日本のダブルボランチ、杉田妃和、三浦成美を1対1で捕まえる。相手センターフォワードは日本のセンターバックと1対2だが、日本の緩慢なバックパスや横パスなど、機を見てウイングの片方が中へ絞り、ワンサイドへ限定しながら2対2に合わせてくる。


特にアメリカの左ウイング、ラピノは前へ行く意識が強く、立ち位置が日本のセンターバックに近かった。反面、背後の右サイドはスペースが空きがち。そこへ左センターバック南から、ダイアゴナルに右サイドへ縦パスを通していく。つまり、ワンサイドへ絞ろうとする相手のプレスに、反対向きの矢印でパスを突き刺すわけだ。プレスの仕組み上、そこは必ず空く、という場所。これは効果的だった。



“返し手”が明確にあった試合


その南や熊谷紗希からの縦パスの受け手として、左利きの籾木が右サイドで起点を作り、機能した一方、左サイドはサイドバックにセンターバックタイプの三宅史織が入ったこともあり、連係は今ひとつだった。


中島依美もあまり中盤に絡めなくなった。とはいえ、右サイドは司令塔タイプの籾木、左サイドは中島がストライカー気味に斜めに飛び出す。ザックジャパン時代の香川真司と岡崎慎司を思い出すようなアシンメトリーなバランスは、かえって試合に安定感をもたらした。



後半13分に生まれた岩渕真奈のゴールも、起点となったのは南の縦パス。ラピノの裏に空いたスペースへ、南から斜めにパスを送り、ボールを受け取った杉田を経由してゴールが決まった。


1-3で敗れたが、アメリカ戦の内容は良かった。前述したように相手の4-3-3プレスに対し、サイドハーフがすき間で受ける、サイドバックがロングキックを受ける、という返し手が明確にあったからだ。


このような戦術が明確にあってこそ、「できる、できないに線を引く」ことが意味を持つ。1失点目はサイドハーフの田中がボールを奪われ、犯したファウルからフリーキックで決められた。2失点目は、GK山下のミスキックから喫した。これらは組織の問題ではなく、個人の問題だ。


田中は自陣で拾ったボールを処理するとき、相手のカウンタープレスを食らう状況で判断に誤り、ドリブルして危険な位置でボールを奪い返された。杉田の動き出しは早かったが、それが見えていなかったのかもしれない。


前に進む礎にしたい


一方、GK山下はこの試合で何度も通していたロングキックを失敗した。相手FWの寄せが気になったのか、あるいは逆サイドで手を挙げる右サイドバック土光を認知するのが遅れたのか、この場面ではボールを置く位置が浅かった。甘い踏み込みで、そのまま逆サイドへ強引にねらった結果、ロングパスが短くなり、ラピノに引っかかった。


判断に迷いながら蹴るような形だったが、状況的に逆サイドへもって行くのが不可能なら、同サイド(左サイド)に蹴るしかない。そこは繰り返すが、「さじ加減」になってくる。相手のプレスの勢いを加味しつつ、正しい判断を下せるか。


スペイン戦はやることが不明瞭なまま、ミスを繰り返した。アメリカ戦はやることが明確な中で、さじ加減を誤った。一般的には「3試合共にミスで自滅」という言われ方になるが、内容は違う。アメリカ戦で喫したのは、未来につながるミスだった。


兎角、日本ではダメだったこと、欠点ばかりに目が向けられる。しかし、アメリカ戦はポジティブに捉え、前へ進む礎にしたほうがいい。


決定機は幾度となく作った


後半13分の岩渕の得点に対しても、「アメリカが落ちていた」という見方がある。それは正しい。実際、MFジュリー・アーツは直前の接触で足を気にしており、守備に全く関わっていなかった。そして得点は、彼女が担当するDF前のスペースから、岩渕によって叩き込まれている。アメリカが落ちたから、日本は点を取れた。それは確かだ。


しかし、なぜアメリカは落ちたのか。それはコンディション的にきつい中、前半からハイプレスを敢行したからだ。ハイプレスをかけなければ、アメリカは落ちなかったはず。しかし、その場合は日本の1失点目、2失点目も無い。実はどっちもどっち。ゲームは一進一退でつながっている。後半に落ちたアメリカも、前半のラッシュで2点を奪ったアメリカも、同じアメリカである。


暑さと中2日の条件は、東京五輪も同様だ。アメリカ戦と同じように、後半に間延びした状況が訪れる可能性は高い。そこできっちりと複数人が関わって攻撃し、1点のみならず、2点を奪って追いついてもおかしくない決定機を作ったことは、間違いなくポジティブだ。


アメリカ戦のパフォーマンスを基準に


それにしても、恐るべきはアメリカの決定力である。日本の『さじ加減』の誤りを見逃さず、FK、ループシュート、CKで3点を奪い取った。


東京五輪でも最終的に勝敗を分けるのは、『さじ加減』だろう。今後、それをどこまで磨くことができるか。2010年の岡田ジャパンがそこにたどり着いたのは、本当にギリギリの瀬戸際だった。そのきっかけとなったのは、「俺たちはヘタクソなんだから泥臭くプレーしようぜ!」と一喝した男の存在である。なでしこジャパンにもそういう刺激が必要だろうか。


もちろん、そうした最終段階にたどり着くためには、少なくともアメリカ戦のパフォーマンスが基準でなければならない。スペイン戦ではダメ。『さじ加減』を論じるに値しない。今回、1戦目や2戦目を通じて、なでしこジャパンは何を修正できたのか。これはくどいほど確認したほうがいい。


次の出発点がスペイン戦に戻ってはいけない。アメリカ戦からリスタートできるように。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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