コロナを乗り越えたとき、復帰した「サッカー」には何が期待されるのだろう?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第109回

コロナを乗り越えたとき、復帰した「サッカー」には何が期待されるのだろう?

By 清水 英斗 ・ 2020.4.16

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大病を患った人は、その後の人生観が変わると聞く。あり得る話だろう。僕自身が経験したわけではないが、もう10年以上も昔、その変化を近しい人に感じたことがある。


重い感染症にかかり、家族以外の接触が禁じられて数週間が経った後、完治して久しぶりに会った彼女は、人が変わったようだった。まるで赤の他人。掴みどころがなく、それまでに培った空気感が消えていた。別れを切り出されたのは、その次に会ったときだ。


当時は寂しく辛い思いをしたが、今にして振り返れば、彼女は正しい決断をしたと思う。有事の家族。感染症に苦しむ間、頼れるのは家族だけだった。何かあれば、最後は家族しかない。それは捨てられない。裏切れない。反対を押し切れない。


病をきっかけに、それに気付いたのか、踏ん切りがついたのか。人生観が変わるタイミングは突如訪れる。この新型コロナウィルスが猛威を振るう中、ふと昔のことを思い出した。


変わるとすれば、人。大病を患った後の世界は、思った以上に大きな変化があるのかもしれない。


もう一つ、思い出したことがある。


「日本代表が目指すべきは、美しさか、勝利か。君はどっち?」


2007年頃だったか、年長のサッカーファンに日本代表に対する価値観を問われたことがある。オランダ人とドイツ人のどちらか一つが絶対的な正解とか、そんなことは思わないが、この主観的な質問に対し、当時は「美しさ」と即答したのは覚えている。


我ながら意外と言えば、意外だ。どうもその後、日本代表がベスト16の壁を破れないまま、幾つかのW杯を過ごすうち、いつの間にか自分も結果寄りで、サッカー日本代表を思慮することが増えた。


あるいは美しさばかりだと、いつも同じ内容を書くライターになってしまう、という現実的な面もあったかもしれない。今は自粛生活で物事を考える時間が増えているが、色々なことを振り返るうち、自分は本来「美しさ」と答えるタイプだったな、と思い出した。


今、病を患っているわけではない。しかし、自粛生活のストレスはある。世間で不安が渦巻いているのも感じる。攻撃的な人が増えているとも感じる。情報収集は少し疲れた。個人的に何より辛いのは、子供に我慢ばかりさせていること。それが親のストレスにもなる。自分一人なら家の中で好きなだけ、やりたいことに没頭すればいいのだが。


明らかにサッカーどころではない日々。それはみんな同じだろう。この状況を乗り越えたとき、復帰した「サッカー」には何が期待されるのだろうか。勝利? 結果? なんかピンと来ない。そんなガチなものより、華やかなもの、豊かな感情にあふれた世界に戻りたい。勝っても負けても、そこにあることを楽しみたい。そんな気持ちだ。


ポスト・コロナの時代を想像する。


日本代表を振り返ると、これまで森保ジャパンは、戦略レベルで合理的な強化を行ってきた。コパ・アメリカやE-1選手権など、本来ならA代表のための舞台を、五輪の強化に流用し、兼任の立場を生かして大胆にマネージメントした。先を見据えれば、A代表としても今後の最終予選に向け、五輪代表を強化しておくのは理に適っている。若い選手たちが、時期尚早のステージを経験できたのは大きいだろう。


そのようにして多くの選手を起用する中で、複雑に戦術を作り込むことは避けた。組織力は物足りないが、チームを約束事で縛ることなく、個人の持ち味をシンプルに発揮させることを優先。これは森保監督だけでなく、ハリルホジッチ監督も同じやり方だった。ゆるい型で種をまき続け、最後に集めたチームで収穫し、一気に仕上げる。


活動そのものが少ない代表チームが、単体で継続性を得ることは難しい。それをやろうとしたザッケローニ監督は、招集のたびに戦術の復習が必要となることに頭を抱えた。代表強化は基本的に、メンバーの入れ替えを前提とした森保式、ハリルホジッチ式のほうが理に適っており、五輪やW杯などで結果を出すにはベターな方法だろう。


ただ…。この我慢の日々を終えた後、世間から期待されるのは、そういう日本代表なのだろうか。


たとえば、仮に来月にE-1選手権があるとしよう。五輪の強化のためにU-23の選手を並べるとすれば、正直ガッカリするかもしれない。そんなことより、JリーグMVPをスタメンで送り出し、目の前の試合を楽しませてほしい。今は特にそう思える気分だ。


森保式の1試合1試合は、戦略的強化がガチすぎる故に、練習試合を見せられるような退屈さが拭えない。もっと1試合1試合、わくわくしたい。対応力なんて退屈なものより、個性的な戦術を作り込んで、魅せてほしい。だとすれば、やはりクラブが一番なのだろうけど。


この大病を患った後、スポーツに求められるものは変化するのではないか。そんな気がする。日本でいえば、コロナで大変な時期に五輪で揉めたことも大きな影響があるだろう。


そのとき日本代表は、美しくあるべきか、結果最優先か。人生観が変わるタイミングは突如訪れる。(文・清水英斗)


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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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