バトンを渡す走者が、突然消えてしまう。無形の財産を失いつつある鹿島が直面する問題

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第111回

バトンを渡す走者が、突然消えてしまう。無形の財産を失いつつある鹿島が直面する問題

By 清水 英斗 ・ 2020.8.2

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2020年は極端に短いオフの後、新監督のザーゴを迎えてキックオフ。選手は各クラブの主力級を補強し、層は充分だ。しかし、AFCチャンピオンズリーグのプレーオフに敗れたことで、充実のスカッドは過剰なスカッドに変わり果て、のっけからつまずいた。


その後、J1が開幕すると、コロナ禍の中断を挟み、リーグ4連敗。5節の横浜FM戦で初勝利を挙げたが、6節は湘南に惜敗。7節もFC東京とドローに終わった。決して最下位に沈む陣容ではないが、2020年は何かと歯車が噛み合わない、鹿島アントラーズである。


ポジショナル、ポゼッション、主導権…。新監督のスタイルを紐解くキーワードはいくつか出ているが、横浜FM戦を見ると、それとは真逆のカウンターサッカーで初勝利を挙げた。特に後半のキックオフ、鹿島は相手ゴールへロングボールを蹴り出したが、正直、ボールを捨ててまで守備から入るサッカーを徹底したのには驚いた。ボールを持つスタイルと思いきや、この試合は捨てることにこだわり、横浜FMの隙を突くことに全精力を傾けた。


選手起用の方針を変更して勝利


この横浜FM戦で言えば、選手起用にも驚きがあった。遠藤康がトップ下に入ったことだ。彼の技術を知る人からすれば、何を今更と思うかもしれないが、新監督のザーゴは遠藤を軸にチーム作りを進めたわけではない。4節までトップ下を務めたのは、ファン・アラーノや染野唯月だ。飛び出しに長けたFW寄りのアタッカーを選択している。


ミハイロ・ペトロヴィッチの浦和や札幌、あるいは昨季まで渡邉晋が率いた仙台がそうだったように、前線にアタッカーを並べ、連係で相手の守備をずらし、ダイレクトに背後のスペースを突いていく。そうした狙いの中では、FW寄りのファン・アラーノや染野が選ばれるのは自然であり、逆に遠藤のように「一旦ボールを受ける」というタイプは適合しない。実際、遠藤のトップ下は後半のオプション止まりだった。


しかし、横浜FM戦はその毛色が変わり、遠藤がトップ下でスタメン出場。プレッシングとカウンターを徹底する中、上田綺世と遠藤は、エヴェラウドとファン・アラーノの2トップを遥かに凌ぐ強度で守備を引っ張り、横浜FMのビルドアップを追い詰めた。結果、4-2の勝利をもぎ取っている。


見えない、新監督のカラー


この5節を境に、トップ下のスタメンは遠藤や白崎凌兵といった、足元でボールを受けるプレーが得意なMFタイプが選ばれるようになった。エヴェラウドやファン・アラーノはサイド起用となり、システムは4-4-2から、4-3-3か、4-3-2-1などの1トップ気味へ。選手に合わせた試行錯誤が伺える。


しかし、正直なところ、現有選手に合わせ、対戦相手にも合わせてサッカーをする中で、ポジショナルやポゼッションと語られたザーゴの色がハッキリと見えない。というか、色が薄い。「ザーゴのスタイルとは何か?」という記事や話題も見かけるが、個人的にはそれがトピックスになること自体、肩透かしだ。


これはクラブの戦略に関わる話。


今まで常勝軍団・鹿島のアイデンティティは、「プロとは何か」を植え付けたジーコの加入を皮切りに、人のリレーで受け継がれてきた。勝つために何をするべきか。それはクラブに細かい規律や戦術の型があったわけではなく、選手に委ねた部分が大きい。


圧倒的なプロ意識、技術のディテール、球際のこだわり、勝者のメンタリティーなど、それらは先輩の背中を見ながら、あるいは教えを受けながら、「鹿島の選手なら当たり前」と世代を越えてつないだ、無形の財産だ。鹿島というクラブがもたらす以心伝心でもある。


しかし、それは持続可能なのだろうか。


昨季の鹿島は鈴木優磨、安部裕葵、安西幸輝らが揃って欧州へ移籍し、20代前半で主力を張っていた選手たちが、ごっそり抜けた。欧州市場が拡大する中、ステップアップを望む若手を国内に留めるのは簡単ではない。その対抗し難い流れを受け入れ、逆に欧州への登竜門としての魅力を提供することで、国内の有力な若手を次々と獲得しているのが、今の鹿島である。


だが、その戦略により人材の流動性が高まったチームと、人のリレーで受け継がれてきた無形の財産は両立するのか。個人的には難しいと思う。バトンを渡す走者が、突然消えてしまうのが今の鹿島だ。明確にリレーが途切れるわけではないが、リレーの血は徐々に薄まる。それはすでに起きていることかもしれない。


鹿島が直面している問題


だからこそ、ザーゴだと解釈していた。属人的な継承は、今のクラブ戦略では限界がある。そこで、戦術の型がある監督を招聘したのだろうと。選手が変わっても、選手が抜けても、クラブの形や決め事になるものを、次に引き継げるように。


ところが、監督の色が思ったよりも薄いのだ。そこが肩透かし。なぜ薄いのかは、ザーゴ本人だけでなく、クラブや選手との関わりもあるかもしれないが、少なくともアンジェ・ポステコグルーやミハイロ・ペトロヴィッチなら、「彼のやりたいサッカーがよくわからない」といった話題は出ない。


「その戦術で勝てるの?」とはよく言われるが、色は特濃だ。常にハッキリしている。それに比べるとザーゴは薄い。その点がクラブの状況から察する期待に合わず、肩透かしだ。


選手の出入りが激しくなることを前提とした、クラブの戦略は理解できる。しかし、今のままでは、鹿島は無形の財産を失い、新たに型を築くことも中途半端なまま。選手の売り買いを積極的に進めるだけの、普通の中堅クラブになるのではないか。今、鹿島が本当に直面している問題は、そこだと思う。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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