好調C大阪。「憂鬱の指揮官」ロティーナが見せる、絶妙な采配

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第114回

好調C大阪。「憂鬱の指揮官」ロティーナが見せる、絶妙な采配

By 清水 英斗 ・ 2020.9.19

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そうは言っても、ね、やっぱり快感だと思う。みんなが「エーッ!」と驚くような采配を、驚きの早さで決断し、試合の流れを見事にひっくり返す。劣勢からの勝ち点3へ。


もちろん、主役は選手であり、頑張ったのも選手だ。それは間違いない。だが、そのストーリーを描いた者である『監督』にも、幾ばくかの快感はあるだろう。


みんなが「エーッ!」と驚く采配にはさまざまなケースがあるが、たとえば、活躍していたはずの選手、あるいは期待されていた選手を、早いタイミングで交代させてしまう。「○○、良かったのに。なんで?」と。典型的なサプライズ采配だ。


J1第14節、C大阪対浦和(3-0)のハーフタイムに柿谷曜一朗が交代したのも、おそらく、その一つだっただろう。前半の彼は局面で光るものを見せていた。1対1で対峙した柴戸海を手玉に取るようにかわし、さすがと唸らせるテクニックを披露した。それだけに、何で交代?と。ともすれば、対戦していた浦和のサポーターのほうがそう感じたかもしれない。


しかし、いかに局面で輝いたとしても、試合全体を見れば、前半のC大阪が崩し切れたチャンスは少なく、浦和にペースを握られていた。柿谷が相手をかわす形も、観客を沸かせるシーンではあったが、その中央の打開が、効果的にチャンスにつながったわけではない。


早々の戦術変更で優位に立つ


後半のC大阪は、攻撃の矛先を明確にサイドへ向けることになる。前半も4-4-2で従順に構える浦和に対し、C大阪はサイドチェンジで大きなスペースを得ていたが、そこから先は単純なクロスであっさりと終わることが多かった。


そこへ、前半は中央にしぼり気味だったサイドハーフの坂元達裕を開かせ、1対1でサイドから仕掛けさせる。中央で無理してかわすまでもない。チーム戦術のかみ合わせで、サイドは容易にスペースを得られるのだから。そこを狙えばいい。付け加えるなら、この試合で坂元が対峙した山中亮輔も、決して守備が良い選手ではなかった。


この戦術変更のために、個人のパフォーマンスとしては悪くなかった柿谷が下がり、C大阪はよりシンプルなサイド攻撃に帰結した。守備面でも柿谷から運動量に長けた奥埜博亮に代わったことで、プレス強度も増している。


効果はすぐに現れ、後半3分の都倉賢、29分のオウンゴールはどちらもサイド攻撃、坂元の仕掛けから生まれたものだった。粘っこく引きずるような坂元のキックフェイントは圧巻のクオリティだったが、一方でそのストーリーを描いた、ロティーナ監督の脚本も見事だった。


10人で神戸に勝利


こうしたサプライズ采配は、9月16日に行われた、25節の神戸戦にも見られた。


C大阪は前半33分に都倉賢がレッドカードで退場し、10人での戦いを強いられたが、ロティーナ監督は直後に動く。GK前川黛也の治療が終わり、38分にプレーが再開されると、C大阪は都倉が消えた形の4-4-1ではなく、5-3-1に変えて構えていた。さらに41分には右サイドハーフから3センターの右にポジションを変えていた西川潤を下げ、片山瑛一を投入。


前半が終わるのを待たず、あっという間に修正が終わった。幅を使った攻撃がうまい神戸の質を考えると、たしかに4-4-1で構えるのは無理がある。おそらくその場合、サイドで神戸にスピードに乗られる場面が増え、後ろ向きの守備が増えるだろう。そう考えると、5-3-1で構えたほうが、相手の前進の勢いを緩やかにし、前向きで構えやすくなる。


ただし、問題は3センターの人選だ。明らかに負担が高まる形であるため、西川にそれを任せるのは厳しい。正直なところ、西川の守備は4-4-2の右サイドハーフの時点でも異物感があった。


C大阪と言えば、スペースを消すのがうまいこと、全体がまとまってボールを奪いに行くこと、無理をしないことなど、組織的に安定した守備を誇る。ところが、その意味では、西川はスライドが甘かったり、急にボールを奪いに出てあっさりと2対1でかわされたりと、C大阪のまとまり感の中では、悪い意味での異物感があった。


それでも試合に起用されるのは、彼の攻撃能力とポテンシャルの高さに他ならないが、一方で、この試合を任せられる状況では無くなった。


こうした現実的な決断が功を奏し、C大阪はクリーンシートを達成。さらに後半にはフリーキックから柿谷がヘディングシュートを決め、1-0で勝ち点3まで持ち帰った。試合時間の半分以上を10人で戦ったことを考えれば、アウトパフォームの結果と言っていい。


神戸戦に関しては、5-3-1に変えたことも、西川から片山に代えたことも、当然と言えば当然の采配ではある。しかし、都倉退場というアクシデントに際し、前半終了を待たずにシステムを変え、期待の西川も下げ、一気に手を打ち尽くすスピード感は印象的だった。


ベンチでは伏し目がち。額に手を当て、いつも何かを心配している。ロティーナの表情が冴えることはめったに無い。『憂鬱の指揮官』が書く脚本に、今後も釘付けになりそうだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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