原口元気のボランチ起用は、ハリルジャパンが世界を驚かす秘策になるか?

COLUMN清水英斗の「世界基準のジャパン目線」第14回

原口元気のボランチ起用は、ハリルジャパンが世界を驚かす秘策になるか?

By 清水 英斗 ・ 2016.3.31

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29日に行われた、ロシアワールドカップアジア2次予選・シリア戦。久しぶりに大興奮した日本代表の試合だった。


その要因はもちろん、“ボランチの原口元気”だ。


この2次予選は、本田圭佑が言うように、チームの競争を計れる試合がほとんどなかった。5点を取ったアフガニスタン戦では、金崎夢生が良いプレーをした。昨年のアウェーのシンガポール戦では、柏木陽介のゲームメイクで引いた相手をうまく崩した。選手はそれぞれが良い仕事をした。でも、何一つ世界につながるイメージが沸かない。


瞬発力のあるフィジカルで圧倒する金崎だが、世界のレベルに出て、その優位が薄くなるときにどんなプレーをするのか。柏木にしても、浦和ではACLの試合になると普段のボランチから2シャドーに戻されるのに、その頼りない守備力で、最終予選やワールドカップを戦えるのだろうか。また、世界ではポゼッションで日本が圧倒するとは限らない。


どんなに得意なプレーを見せられても、「それ通用するのかなあ…」と思って終わり。


結局のところ、厳しい試合になれば、本田、岡崎慎司、香川真司、長谷部誠。世界のレベルを“肌で”経験しているヤツに頼るしかない。そのイメージは2次予選では変わらなかったし、変わるはずがないとも思っていた。


ところが、だ。


そんなモヤモヤとした2次予選の最後にして初めて、新しい“世界”のイメージが降ってきた。それが原口のボランチだ。これは面白い!6月のシンガポール戦で後半に柴崎岳に代わって投入されたときは目を疑ったが、先日のアフガニスタン戦でダイヤモンド型の右サイドハーフに入り、かなり起用の意図が見えてきた。


そして、シリア戦で確信した。これは世界でも武器になり得る。今までに誰か一人でも、これをやってみようと思った指導者がいたのだろうか。


ボランチに原口を起用する意図とは?


原口を中盤で使う価値は、一言で言えば“推進力”だ。スペースへボールを運ぶ能力。後半21分の香川のゴールは、GK西川周作からボールを受けた原口が、ドリブルで敵陣へボールを運ぶプレーが起点になった。


相手をドリブルで抜いてはいない。ボールを前に運んだ。相手のプレスバックよりも速く。そこから宇佐美貴史らを経由して、最終的に香川の回転ボレーシュートにつながった。またドリブルだけでなく、原口がフリーランで走り抜けてスペースを空ける動きも、香川、宇佐美、長友佑都らの仕掛けを引き出した。


かつてザッケローニは、原口がトップスピードでボールを扱う能力を評価し、A代表に招集したが、ハリルホジッチは、その能力を中盤で生かそうとしている。面白い発想だ。


そして、この仰天起用に、他の選手も呼応を始めた。


たとえば、ボランチでコンビを組む長谷部だ。自陣で味方がボールを持ったとき、原口のほうがボールに近くても、長谷部はできる限りボールサイドへ寄って左右のポジションチェンジを行い、パスを受けてさばいた。中盤のビルドアップを縦に分業し、原口をボールから遠いサイドへ行かせることで、サイドチェンジや本田のポストプレーから、前のスペースが開けた状況が与えられる。


守備時は横並びだが、攻撃は縦の関係になり、原口を攻撃寄りのMFである8番のイメージでプレーさせる。原口はハリルジャパンに初招集された昨年6月の時点で、背番号が8だった。サイドプレーヤーの番号ではない。最初から中盤起用のイメージがあったようだ。


原口をボランチに置いたことで、ハリルホジッチは馬鹿なんじゃないかと思った人が大勢いたはず。でも、もしかしたら相当良いアイデアかもしれない。馬鹿と天才は紙一重だ。


ボランチ原口に見る、ハリルジャパンが世界で戦える可能性


原口はかなり走れるし、球際もかなり強い。ザックジャパンの遠藤保仁と長谷部のダブルボランチは、攻撃は良かったが、世界に出ると守備に問題を抱えた。それに変わる組み合わせがなかなか現れず、個人的には柴崎が成長すればと思っていたが、意外な人物が名乗りを挙げた。原口のボランチは、日本代表が世界で戦える可能性を秘めている。


もちろん、ツッコミどころは相当多い。


原口はプレーエリアの判断がハチャメチャで、やってはいけない位置からドリブルで仕掛けてカウンターを食らう。これはアフガニスタン戦にも見られた。


パスのもらい方も悪い。角度を作って身体の向きを半身にすれば、相手ゴールへの視界を確保できるのに、それをやっていないので、誰もプレスに来ていないのにバックパスを返してしまう。これもアフガニスタン戦にも見られた。


どれもこれも、小学生年代で身に付けるべき技術と状況判断であり、いかに原口が少ないポジションしか経験して来なかったのか、よくわかるプレーだ。


それ以外に、守備に関してはボランチの位置を離れて、サイドにも前線にも自由にボールに釣られてしまう様子が目立つが、これは仕方がない面もある。チーム戦術との関わりがあるので、2~3試合で全部うまく行くはずがない。組織的な守備のポジショニングは、そのうち慣れるだろう。


だが、プレーエリアの判断や、DFからのパスのもらい方は、少なくとも中学生までには身に付けておくべき技術と戦術だった。この課題の行方が、ボランチ原口の成否を分けるのではないだろうか。それと同時に、原口に色々なポジションを経験させ、色々な技術、色々な戦術を習得させて来なかったこと。日本の育成にも省みるべき点がある。


同じことは本田にも言える。


本田もボランチの適性がある選手だが、少年時代に経験したことがなく、イメージが沸かないという理由で、ボランチ起用に本人が前向きではない。30歳に近付き、ベテランの域に差し掛かるとき、そんな一から始めるリスクは冒せない。その自身の経験があるからこそ、彼が経営するサッカースクールでは、子どものうちに色々なポジションを経験することが、大きな方針になっているそうだ。


しかし、原口の場合は、まだ遅くはない。なぜなら当の本人が「ボールにたくさん触れるし、やってみたらボランチも楽しかった」と前向きな気持ちを見せているからだ。


久しぶりに心が踊る試合だった。荒削りにも程がある。将来性をひしひしと感じるのに、現在がどうなるか全くわからない。だから、とってもワクワクする。


やるなあ、ハリルホジッチ。期待値がグッと上がった。(文・清水英斗)


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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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