この戦略で間に合うか? 森保ジャパンのチーム作り

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第117回

この戦略で間に合うか? 森保ジャパンのチーム作り

By 清水 英斗 ・ 2020.10.29

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『ポジティブ』という言葉が苦手だ。それなりに頻度が高く、何の気なしに使われる言葉だが、あまりピンと来ない場面が多い。


そもそも目の前の物事は、そのままの状態があるだけ。それをポジティブとかネガティブといった意味づけは、個人的にはほとんど意識したことがない。


ただし、何かの発言や行動があったとき、それが周りから「ポジティブだね」と評価されるのはわかる。自分にそのつもりがなくても、他人から、そう見えることはあるだろう。ところが、その他にこんな言い方もあって困ってしまう。


「ポジティブにお願いしまーす」


これが苦手だ。本来、自分の中ではポジティブもネガティブも無く、見たこと、感じたことを自分の目線と温度で正直に話すだけ。それを「ポジティブに」と偏向指定されると、本来の感覚を変えて、「嘘をついてくれ」と言われた気になる。


最近は適当にスルーするが、かつては何かの番組で放送直前に言われて、「え? ポジティブにお願い? 嘘をつけってこと?」とバカ正直に戸惑うこともあった。若かった。


もっとも、今でもポジティブやネガティブはあまり好きな言葉ではない。そこから解き放たれるのが一番良い。


久しぶりの代表戦中継で感じたこと


ふとそんなことを思い出したのは、おそらく久しぶりに地上波で、サッカーの日本代表戦を観たからだろう。


まるで「ポジティブにお願いしまーす」と示し合わせがあったかのような雰囲気作り、目の前の試合状況と合わない一本調子の雰囲気作りに、ああ、やっぱり自分は苦手だなと、アノ感覚がよみがえった。


でも、なつかしい。追憶も含めて、久々の代表戦は楽しかった。もちろんJリーグも楽しいが、一つの試合に対し、ファンの話題がこれほど広く合う機会は他にない。あーだこーだと言い甲斐がある。カメルーン戦とコートジボワール戦の開催に尽力してくれた方には感謝しかない。


最近は欧州で再ロックダウンが広がりつつあり、11月に予定されているパナマ戦とメキシコ戦が今後どうなるかはわからない。ただ、やはり代表戦があると、サッカー熱が定期的に一つにまとまる感じがあり、良いものだなと改めて感じた。


経験の積み重ねは?


さて。久しぶりの森保ジャパンをどう見ただろうか。カメルーンに0-0、コートジボワールに1-0。内容はそれなりに楽しめたが、個人的には正直、「間に合わないんじゃないか?」という不安を抱く2戦でもあった。


4-4-2の日本は、序盤早い時間帯にカメルーンのビルドアップが3枚回しに変わると、うまく対応できず、前半45分を無駄にした。


昨年のアジアカップ、約1年半前の決勝カタール戦でも3枚回しに苦しめられたが、それほどメンバーが変わっていないにもかかわらず、当時の経験が生きていないのは残念だった。


そこから修正し、コートジボワール戦では3枚回しの相手に対し、2トップが遮二無二追いかけず、少し待ち構える形を取った。この点については吉田麻也や柴崎岳らが守備の修正点を洗い出し、森保監督にも確認を取っている。


攻撃面でも、相手の薄い中盤を利用してうまくボールを運び、GKシュミット・ダニエルの足元を利用したビルドアップもあった。


自立型を目指す、森保監督


様々な改善は見られたが、前半の終わり頃にコートジボワールがシステムを4-3-3に変え、攻守で中盤の厚みを高めた戦術に修正してくると、やはり戸惑い、後半16分の南野拓実投入まで相手にペースを握られ、危険なシーンもあった。変化に弱いのは相変わらずだ。


日本人の特徴として、準備した計画は見事に遂行するが、相手が戦術を修正するなど、前提条件が崩れたとき、柔軟なアドリブが利かないことはよく挙げられる。


あるいは状況が変わったにもかかわらず、計画通りに進めることが大事だからと、本末転倒で誤った道をどんどん進んでしまう。


それを改善するため、監督からあまり細かい指示を与えず、戦術修正をできるだけ選手主導に委ねていくのが、森保監督のやり方だ。


「修正が遅い」と指摘されることも多いが、そこには選手の様子を見てアクションを待つ、という戦略的エクスキューズもある。最終的に、自立型の呼吸を持ったチームになるために。


でも、間に合うのだろうか。


クラブチームならわかる。いつも一緒に練習や試合を行うので、監督があれこれ言わなくても、ピッチ内で選手が主導できるだけの阿吽の呼吸が生まれるからだ。


ところが、ここは代表チーム。クラブと違って時間が無いだけでなく、アジアカップ決勝、カタール戦の課題がカメルーン戦で生きなかったように、経験自体がぶつ切りなので、積み上げも難しい。たとえ積み上げても、メンバーが変わった途端にご破算かもしれない。


西野ジャパンとの違い


おそらく、森保監督にはロシアワールドカップの西野ジャパンの印象が強く、その選手主導のスタイルを引き継ぎつつ、システム変化などの肉付けをしたチーム像を描いているのではないかと思う


しかし、西野ジャパンに阿吽の呼吸のようなものがあったとすれば、それは2010年のザックジャパン時代から一緒にプレーしているベテラン中心のメンバーだったことが大きい。だとすると、代表で阿吽の呼吸系、選手主導のチームを作ろうとすれば、少なくとも8年かかることになる。


この戦略では「間に合わないのでは?」と危惧するのは、そういう理由だ。このチーム、4年で完成するのだろうか。ワールドカップや最終予選に間に合うのだろうか。あるいは過去のスペインやドイツと同じように、連係の取れた中核メンバーを同じビッグクラブから集合させれば熟成の助けになるが、日本は現実的ではないだろう。


果たして今後、森保ジャパンの時計の針はクロップアップするのか。そんなところに注目しつつ、次戦も楽しみたい。(文・清水英斗)

写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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