メキシコとの差が現れた“6分間”。森保監督の交代策を読み解く

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第118回

メキシコとの差が現れた“6分間”。森保監督の交代策を読み解く

By 清水 英斗 ・ 2020.11.21

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あの“6分間”に、日本とメキシコの差が現れてしまったのではないか。そんな気がする。


後半12分、日本は柴崎岳と鈴木武蔵に代え、橋本拳人と南野拓実を投入した。その6分後、ラウール・ヒメネスの強引な突破とトーキックで失点。そこからメキシコのゲームコントロールにはまったことを考えれば、やはり先制を許したのは痛い。


前半の日本は良かった。「悪くなかった」と自嘲気味に言う必要はない。掛け値なく、良かった。ボールこそ持たれても、メキシコがパスを回すのは、日本の守備ブロックの外ばかり。相手にチャンスを与えず、逆に日本は決定機をいくつも創出した。2得点してもおかしくはなかった。


しかし、0-0で折り返した後、フラストレーションを溜めたメキシコはハーフタイムを経て、戦術に手を加えてきた。システムを[4-3-3]から[4-2-3-1]に変更。中盤をダブルボランチにした。


最も大きなねらいは、鎌田大地への対策だろう。ライン間でボールを受ける技術、さらに逆サイドへの展開力も備えた鎌田は、ハイプレス志向のメキシコにとって、まさに天敵。前に行けばライン間で受けられ、ワンサイドに絞ろうとすれば、逆サイドへ展開されてしまう。


この鎌田をアンカー1人では抑え切れない。だったらダブルボランチに組み替え、中盤の底のスペースをあらかじめ潰そうと。実際、後半の鎌田は存在感が薄まった。


守備のやり方を変えたメキシコ


ただし、日本も後半の序盤は悪くなかった。酒井宏樹や柴崎岳のドリブルなどで相手陣内へボールを運び、そのままメキシコを押し込む場面がいくつかあった。


普段はダブルボランチを好まないメキシコにとって、[4-2-3-1]は妥協案でしかない。システム変更で鎌田を捉えやすくなった反面、メキシコは前の人数が減ったことで、ハイプレスの威力が弱まり、少しずつ寄せが遅れた。逆に日本はかみ合わせ上、余裕を得やすくなった酒井や柴崎が起点になり、後半3分、10分には鋭く持ち運んでビルドアップに成功している。


しかし、それもメキシコにとっては想定内というべきか。ダブルボランチに変えたことで、リトリートした状態の守備は安定感を増した。メキシコは第一プレス、第二プレスと繰り出した後、かいくぐられたらDFラインは後退し、スペースを埋めて日本の攻撃スピードを受け止める。


この点、前半とはやり方が変わった。ダブルボランチはセンターバック前のスペースを埋め、最終ラインのカバーリングも丁寧に行う。日本はアタッキングサードでスローダウンさせられ、前半ほど、気持ち良く攻め切れなくなった。


この辺りの時間帯、後半5分~18分辺りは、試合が揺れていた。ここでのゲームマネージメントが、試合の核心だろう。


勝負の行方を分けた、選手交代


森保監督は後半12分、鈴木と柴崎に代えて、南野と橋本を入れた。2試合トータルの出場時間を考慮した上で、ある程度は想定通りのカードだ。しかし、交代のタイミングは12分と早い。もし、鈴木と柴崎をこの形で出来るだけプレーさせたいのなら、ぎりぎりの20分過ぎまで引っ張ったはずだ。


12分という早めのタイミングを踏まえるなら、この交代カードは単なるメンバーのやり繰りに留まらず、積極的な修正に動いたと見るのが妥当だろう。たとえば、パナマ戦の遠藤航や原口元気の投入のように。


では、森保監督は何を意図して交代したのか。


それはやはり、ハイプレスだ。橋本を入れる以上、被ポゼッションの強化であるのは間違いないが、南野を最前線に入れてリトリートはあり得ない。ハイプレス一択だ。事実、日本は交代直後のプレーから、南野をエンジンとしてプレッシングラインを上げた。直後は、交代の意図が出やすいもの。日本はハイプレスに舵を切ろうと試みた。


ここが勝負の分かれ目だった。


ダブルボランチに変え、少し腰を引いたメキシコに対し、圧力を掛けるのは戦略として成立している。


しかし、ボールを奪えなかった。いや、奪えないだけならまだいいが、両サイドから簡単に縦に運ばれてしまった。ここが肝だったと思う。投入された橋本も、相手をどんどん前に捕まえて行こうとする様子は見えたが、両サイドが簡単に入れ替わられ、縦に進ませてしまうので、プレスがかからない。


後半12分に伊東純也が入れ替わられた場面、あるいは交代前の後半3分にも原口が入れ替わられた場面があったが、あそこは絶対に、進ませちゃいけない。


結局、日本は押し下げられてしまった。そしてこうなると、「なぜ柴崎を下げたんだ」という話になる。


柴崎不在の影響


パナマ戦の前半にビルドアップの機能不全を起こす一因となった柴崎だが、個人的には彼をプレーメーカーとは思っていない。一刺しのパッサーだ。


ロシアワールドカップのベルギー戦の原口元気へのスルーパス、あるいはセネガル戦の長友佑都へのサイドチェンジのように、柴崎は低めの位置から一発で差し込むキラーパスに特長がある。だからチームが守備的で、カウンターを狙う展開のほうが、柴崎はそのスキルを発揮する。


ハイプレスがはまらず、結局押し下げられるのなら、柴崎が残ったほうが良かっただろう。彼のような選手がいなければ、推進力を出せる選手が減り、押し込まれっぱなしのサンドバックになる。


あるいは、きれいにビルドアップできなくても、一旦クリアして流れを断ち切り、もう一度プレッシングからはめ直してもいい。だが、原口のクリアも中途半端で、苦境を脱せない。ハイプレスの空振りを含め、無駄にエネルギーを使っているので、動きがどんどん鈍る。



悪いなりの戦い方を身につけたい


メキシコ戦の失点までの流れは、何度も振り返るべきだろう。なぜ、ハイプレスは失敗したのか。また、たとえ意図がはまらなくても、強豪なら悪いなりにプレーしている。一度流れを切ってやり直したり、あるいは割り切って耐えたり。


だが、日本はふわふわしていた。体力的な問題なのか、ハイプレスがはまらなかった故の精神的な問題なのかはわからないが、明らかにボールへの出足が鈍った。あの時間帯こそ、全集中の呼吸で臨むべきなのに。


前半の決定力不足も痛かったが、悪い時間帯を切り抜けるしたたかさが無ければ、仮に1~2点決めたところで、結局、相手のペースになれば逆転されてしまう。個々の改善は必要だ。


この試合をロシアワールドカップのベルギー戦と同じと捉える人も多いが、あそこまで無策の試合ではない。今更あの試合と比べなくてもいいし、「またか」と落ち込む必要もない。


ただし、交代がはまらなかったのは事実で、あの揺れた時間帯の意思統一は甘かった。球際も甘かったし、クリアも甘かった。甘いものだらけの後半序盤はしっかり反省しなきゃいけない。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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