戦略の時代へ突入したJリーグ。C大阪、浦和の未来はどうなる?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第121回

戦略の時代へ突入したJリーグ。C大阪、浦和の未来はどうなる?

By 清水 英斗 ・ 2020.12.29

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60、72、72、63、66、72、72、64、63、63、74、74、72、69、70、83。


これは2005年以降のJ1王者が獲得した勝ち点を並べたものだ(2014年、2015年は年間勝ち点首位)。今年の川崎が得た勝ち点83は飛び抜けているが、そもそも直近6年間は安定して高かった。J1の優勝ラインは高止まりしつつある。


また、この4年間で3回優勝した川崎、あるいは昨季優勝した横浜F・マリノスを見ると、一貫性のある戦略を持ったクラブの活躍が目立つ。監督が変わるたびにチームを作り直すのではなく、一貫した戦略の下で、戦術、補強、育成といったチーム強化の効率を上げていく。


そうしたクラブカラーにサポーターが誇りを感じるようになると、目先の1試合に、単なる勝ち負け以上の価値が生まれる。クラブとの結びつきが強まり、SNSでのポジティブな発信も増える。良いこと尽くしであり、戦略に芯が通ったクラブと、無戦略のクラブの差は決定的に広がっていく。


Jクラブは戦略の時代へ


すでにJクラブは戦略の時代。川崎や横浜FM以外では、鳥栖も良い戦略を持っている。2020年は財務やコロナ対策にリスク管理の甘さが出たが、育成を柱に据えたクラブ戦略は成果を挙げ始め、降格無しとなった今シーズンは10代や20歳前後の多くの若手をJ1へ送り出した。いずれ彼らの中から、世界的なクラブへ羽ばたく選手も出るかもしれない。


下部組織を充実させ、トップチームもまた、育ってきた選手を積極的に起用する。鳥栖は人口約7万人の小さな町だ。クラブの運営規模で勝負しても、J1では相手にならない。スペインのビジャレアルやレアル・ソシエダ、ドイツのマインツやフライブルクのように、地方の育成型クラブとしてトップリーグに立ち位置を築く。鳥栖は極めて妥当な戦略を立て、実践している。


C大阪はどうか。昨季5位、今季4位と好成績を残したロティーナ監督との契約を更新せず、監督業から離れていたレヴィー・クルピの復帰が決まった。正直驚いた。


その理由について、「ロティーナは守備的だから云々」の報道は行われたが、おそらくそれだけではない。C大阪は育成を重視するクラブなので、今季の西川潤があまり出場機会を得られなかったことは、少なからず影響しているのではないか。


若い彼がロティーナの戦術的要求に応えられなかったことは、出場した試合を見れば想像はつく。組織的にまとまった守備をする『ロティーナ・セレッソ』において、西川は悪い意味での異物感があった。


組織的な守備、11人全員が水準を満たさなければならないロティーナのチームでは、攻撃的な若手がなかなか出場機会を得られない。そんな考えもあり、監督交代に至ったのではないか。


ただし、ロティーナの戦術的要求は彼のカラーではなく、現代サッカーの基本。そう考えれば、変えるべきは監督ではなく、育成の落とし込みのほうだ。むしろ西川のような選手こそロティーナの下でしっかりと頭を鍛えるべきだと個人的には思うが、風間八宏氏を技術委員長に招聘した傾向を踏まえれば、C大阪はロティーナとは違う方向へ進みたいのだろう。


その戦略は吉か凶か。


サポーターや周囲を「えーっ!」と驚かせるのは、悪いことばかりではない。ある意味、戦略観が無ければできない決定でもある。コンサドーレ札幌も3年前は、見事な残留を成し遂げた四方田修平監督をミハイロ・ペトロヴィッチに代えるという電撃的な発表があり、少なからず周囲を「えーっ!」と驚かせた。しかし、あれから3年。札幌はすっかり攻撃的なスタイルが板についている。結果を残した人物を代えるのは、クラブに戦略観が無ければできないことだ。


ただ、C大阪の場合、その戦略観が強化責任者によって変わるのが一番の問題だろう。ロティーナを招聘した大熊清氏は昨季にクラブを去り、今季チーム統括部長となった梶野智氏の下で、新たな戦略へと舵を切り直した。そして大熊氏は清水エスパルスのGMとなり、ロティーナを再び招聘する。戦略が人と共に、これほどコロコロ変わっては、もはや戦略の意味がない。戦術、補強、育成を効率化させる目的を果たせないからだ。1歩進んで1歩戻る停滞感の中で、C大坂は降格枠が4に増える来季をどう戦うか。


変革を目指す浦和


一方、浦和はそのような戦略観をどうにかクラブに植え付けようと、もがいている最中だ。今季は『3カ年計画』を発表し、その初年度となった。


大槻毅監督の下では、主に4-4-2の守備を精錬して鋭いカウンターを繰り出すことに力を注ぎ、一定のチーム型は見えた。ところがシーズン半ば以降は「ボールを持たされる状況」に苦しみ、逆に被カウンターで失点を繰り返すなど、ポゼッションフェーズに起因する問題を最後まで解決できなかった。


来季は徳島のリカルド・ロドリゲス監督の就任が決まっているが、浦和のテーマは『ハイブリッド化』になりそう。大槻監督の下で目指したプレッシング&カウンターに、ポゼッションを加えて、ゲームの様々な状況に対応できるようにする。リカルド・ロドリゲス監督は徳島でも同様のステップを踏み、戦術的にバランスの良いチームを作った実績があるので、状況的には適任と言える。


浦和は曹貴裁監督の招聘を断念するなど、報道によれば理想一本の選考ではなかったようだが、最終的には良い監督に落ち着いたと思う。


初年度のミッションは型づくり


ただし、不安が残るのは、「大槻監督の下で目指した4-4-2の守備、プレッシング&カウンター」が、本当に土台として成立しているのかどうかだ。


前半戦はそうした形がはっきりと見え、柴戸海といった新しいスタイルの申し子となる選手も出てきた。しかし、ポゼッションの問題が明らかになった後半戦は、チームとして目指す方向性がぼやけ、ハイプレスも鋭いショートカウンターも、どんどん薄まって行った。とりあえずマルティノスに預けるだけ、最後はそんなチームだったと思う。


浦和の公式HPでは、今シーズンの振り返りとして、「苦しい展開の際に、立ち返るべき『型』がなかった」と記されているが、3年計画の初年度にそれがなかったのは痛い。むしろ、その立ち返るべき『型』を、はっきりさせることこそ、初年度の最大のミッションではないか。逆にそれが課題になってしまったのは苦しい。


そもそも、ビルドアップの向上は時間がかかる。中途半端に取り組めば、下手にボールを持ってカウンターを食らいやすくなるだけ。キャンプから守備中心で取り組み、選手もそれに沿って起用してきた今季の浦和にとって、ポゼッションはあまりにも難題過ぎた。しかも、史上類を見ないほどの過密日程の中で、その難題に取り組む。絶望的だ。


目先の課題に意識を引っ張られ、アレモコレモになったことが、今季浦和が目指した堅守速攻のチーム像が薄まった、最大の要因ではないか。


浦和にかかるプレッシャー


ポゼッションフェーズが問題なら、割り切って、蹴り飛ばせば良かった。幸い、キープ力に長けたFWが居るのだから。主導権を握って崩すとか、そういう難しい課題、今季あまり取り組んで来なかった課題は、来季に持ち越したほうがいい。これがミハイロ・ペトロヴィッチなら、守備の弱点には一切触れず、自分の目指す方針をひたすら突き進んだだろう。そういった割り切りが無ければ、戦略に一貫性を与えることはできない。


割り切れないのが浦和。降格なしのルールで、世代交代が必要と言われているクラブなのに、若手起用を思い切って増やせない。戦術も思い切って貫くことができない。割り切れない。


その要因はやはり、「浦和レッズに課せられた使命として、毎シーズン何らかのタイトル、そしてACL出場権の獲得が求められます」と公式HPに書いてある一文に集約されるのだろう。この一文に込められたプレッシャーがあるからこそ、浦和は目先のことに振り回され、戦略観を失いがち。


ただ、ある意味、それはどうしようもない。クラブへの期待値が高いのは幸せなことであり、それを下げようと考えるほうが無理な話だ。


外国人監督の方が良い?


浦和は外国人監督のほうが良いのかもしれない。育成に長けた監督であっても、戦術に理念がある監督であっても、外国人監督は、常に目先の結果を意識している。どんなに素晴らしい考えがあろうと、監督は結果を残さなければクビだと、その皮膚感を持って仕事を続けているからだ。それはスーパーロマン派のミハイロ・ペトロヴィッチでさえ、言えること。


木を見て森も見る。理想も現実も追う。そんな指揮のバランス感が求められる浦和だからこそ、外国人監督のほうが適応力は高そうだ。リカルド・ロドリゲスの挑戦がどうなるか、楽しみではある。


戦略を確立したクラブ、あと一歩のクラブ、戦略はあるが戦術が追いつかないクラブ、戦略を築こうと苦しむクラブ。あるいは、戦略の必要性にすら気付いていないクラブ。J1も様々だ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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