物議をかもした高校選手権でのロングスロー。期待したい、GKの成長

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第122回

物議をかもした高校選手権でのロングスロー。期待したい、GKの成長

By 清水 英斗 ・ 2021.1.20

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『ロングスロー祭り』になった今年の高校サッカー選手権だが、元々この大会は、セットプレーが重要な位置を占めている。それは一発勝負のトーナメントでは典型的な傾向であり、試合の流れに関係なく繰り出せる飛び道具の存在は、若いチームに安定感をもたらす。


ごく自然にセットプレーが重視される選手権。そこで今更のようにロングスローが注目された背景には、フリーキック(FK)の影響も多少はあるのだろう。


選手権といえば、ゴールをねらえる位置で直接FKを得たとき、壁の前や間で膝立ちをして足の隙間を埋めるなど、相手GKの視界を奪うような駆け引きが多く見られてきた。


特に有名なゴールは、2016年の決勝で東福岡が決めたトリックFKだろう。壁の前に選手を3人立たせ、さらにキッカーの前にも3人立たせて、二重壁を作る。実際は味方の壁もあるので、三重壁だ。相手GKとしては、かなりの視界を奪われた格好になる。


そこからキッカーが助走に入ると、前の壁が後ずさり。蹴る瞬間に全員がしゃがみ込み、シュートコースを空ける。そこへキッカーが低弾道で打ち込み、GKの反応を遅らせて見事にゴール、という算段だった。Jリーグ以上に細かい工夫を凝らしたトリックFKを、選手権では目にしてきた。


ところが、2019-20シーズンの競技規則改正で、『3人以上の壁を守備側が作った場合、攻撃側は1メートル以上壁から離れなければならない』、という条文が加わり、壁を利用したトリックFKは困難になった。上記の東福岡で言えば、後方の壁はルール違反になるので、前の壁だけになる。これでは効果は薄い。


ルール改正以降、奇抜系FKが困難になって減少したことも、今年ロングスローに注目が集まった遠因だろう。


実は危険な膝立ち


ところで今更だが、なぜ上記の件、FKの壁についてルールが改正されたのか。


一番大きかったのは、壁周辺の小競り合いが絶えなかったからだ。攻撃側はどうにか壁を割ろうと、守備側は割らせないようにと、争いが起きる。その結果、時間を浪費して見苦しい姿を見せ、競技の魅力を損なうだけでなく、暴力的な危険もあった。日本サッカーでそこまで激しい小競り合いは見ないが、海外のサッカーは特に激しい。


実は膝立ちの姿勢も、日本では一般的だったが、審判関係者からは「危険ですよ」と話を聞いていた。レガースを装着していないふくらはぎやアキレス腱を露わにし、危険にさらしている、と。壁から飛び出そうとした相手選手に踏まれたり、小競り合いの中で蹴られたり、ともすれば苛立ちを覚えた選手が意図的にスパイクすることもあり得る。


壁周辺の膝立ちは、自分の身を危険にさらすプレー方法であり、違反なのだと。実際、欧州サッカーでは主審から「そのまま(膝立ちを続ける)なら守備側の間接FKにする」と注意が与えられたそうだ。だから、チャンピオンズリーグなどの欧州サッカーでは、日本で見られた壁前の膝立ちを目にすることが少なかった。


そもそも日本のサッカーでは、そこまで激しい壁周辺のバトルが起きないので、膝立ちに対し、懐疑的な目が向けられなかった。ところが、世界のサッカーでは危険なプレーと認識されており、膝立ちどころか、最終的には壁に近づくこと自体がルールで禁じられることになった。


ロングスロー云々は日本特有


FKは激変が起きたわけで、ルールは常に変わる可能性がある。ロングスローも例外ではない。


「現在を見て話すか、未来を見て話すか。それによって変わる」。元日本代表DF、今はサッカー指導者の岩政大樹さんが時々使うフレーズだ。端的かつ的確な表現で、個人的には気に入っている。


ロングスローも今は問題ない。だが、将来はわからない。ルールは変わるかもしれない。時間を浪費するプレーであるのは間違いないし、何より、あれを防ごうと思えば思うほど、ゴール前では特にGK周辺の小競り合いが増える。コーナーキック以上に。それが問題視されれば、ルール改正の根拠になり得る。


だが、その可能性は極めて低いだろう。ロングスロー云々はあくまでも日本特有、選手権特有の話であり、世界ではロングスロー自体が全く流行していないからだ。改正の動機がない。


FKの壁に関するルール改正は、日本にとって差し迫った改正では無く、膝立ちすら普通に行われていたほどだった。逆にロングスローは、日本国内で色々言われても、世界にとっては議題にすらならない。


何か可能性があるとすれば、昨今言われている脳震盪に端を発する安全上の理由で禁じられることくらいか。しかし、コーナーキックや通常のクロスに同様のリスクがある中、ロングスローだけ禁じるのは合理性がない。


また、育成方針でローカルルールを作るにしても、教育活動の一環とされている高校サッカーに、サッカー界の育成方針を持ち込んでプレーを制限するのは違和感がある。そんなこんなで、ロングスローはこれからも選手権にあり続けるのだろう。


求められるGKの成長


期待したいのはGKの成長だ。JFAの反町康治技術委員長もコメントしているが、ロングスローを防ぐためには、GKがキーポイントになる。ロングスローはふわっとした球筋なので、ヘディングは攻守共に難しい。手を使えるGKが最強。圧倒的に有利だ。


だが、今大会を見る限り、飛び出しには消極的なGKが多かった。今後、ロングスローが台頭すればするほど、アグレッシブに飛び出し、アタックできるドイツ的GK像が、選手権では求められるはず。もちろん、そのスタイルを指導できるGKコーチも。


それは結果的に、GKの育成を掲げる日本代表にとって大きなプラスだ。選手権のロングスロー祭りで揉まれ、空中戦の強いGKに成長し、やがて日本代表へ入っていく。重宝されるのは間違いない。


ルール改正の期待ではなく、GKの成長によって選手権からロングスローが消える日が来れば、おそらくそれが最大のハッピーエンド。来年の選手権は、スローワーではなく、GKの動きに注目してみたい。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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