東京五輪・サッカー男子総括。森保監督がターンオーバーに踏み切れなかった理由を考えてみた

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第145回

東京五輪・サッカー男子総括。森保監督がターンオーバーに踏み切れなかった理由を考えてみた

By 清水 英斗 ・ 2021.8.8

シェアする

五輪決勝のブラジル対スペインは、放送予定が二転(三転?)し、結局NHK BS1でディレイ放送となった。


しかし、その間にもネットではライブ放送が行われているので、時間軸がずれてしまい、近年のスポーツを盛り上げる一要素となった「SNS+ライブ」の楽しみは損なわれた。また、右往左往するうちに、キックオフから試合を見られなかった人も多い。


何の通告も無しに、楽しみにしていた決勝戦を雑に扱われ、サッカーファンは怒り心頭である。SNSに不満が溢れた。


五輪のサッカー人気


とはいえ、日本人の活躍以外にあまり興味を示されない五輪において、日本が絡まない試合でもこれだけの熱が沸くサッカーは、ちょっと異端だ。競技の文化的な基盤が強いと改めて感じた。


ロシアW杯でも、日本戦以外で10%越えの視聴率を取る試合は少なくなかったが、そうした競技への純粋な興味は、これまでにJリーグやJFA(日本サッカー協会)など、サッカーに携わる人々が積み上げてきた普及の成果なのだろう。


筆者自身、JFAに取材申請を行う際は、日本代表戦に限らず、日本が出場しなかった国際大会の取材実績も加味される。


JFAもそうした世界のサッカーの潮流を、取材して伝えるのは大事なことだと認識しており、申請書や広報担当者とのやり取りでも、そうした文言を見た記憶は何度かある。大事なことだ。今回は放送局に雑に扱われたが、サッカーの異端ぶりが、どこか誇らしかった。


五輪期間中に出たニュース


……とポジティブに語った後、ここからは苦言タイム。


個人的には今回の五輪の最中、怒りと失望を感じるニュースがあった。


それは準々決勝でニュージーランドにPK戦で勝った翌日、「森保監督のカタールW杯までの指揮が確実」と伝えられたことだ。


少なくとも大会中には見たくなかったし、このニュース、裏を返せば、もし今回の五輪代表がグループステージで敗退していれば、森保監督がA代表ごと解任されていた可能性を示唆する。


リスクを負えなかった理由


まさに兼任の悪いところが出た。もし、自分が森保監督の立場だったらと想像してほしい。JFA側からA代表ごとクビになる可能性をチラつかされる中で、グループステージ最終戦のフランス戦で、大胆なターンオーバーなどするだろうか。


あるいはニュージーランド戦で、思い切って勝ちに行き、消耗を避けようという発想になり得るだろうか。


無理だ。自分のクビがかかった試合で、ターンオーバーなんてリスクは負えない。


そんな足枷をはめられながら、徹底的に金メダルから逆算して戦略を考えることなど、不可能だ。五輪監督としてのパフォーマンスが、A代表監督としての評価にもつながってしまう、兼任の悪いところが出た。


JFAは次の五輪も「兼任監督がいい」と、早急な結論を出しそうになっているので、無自覚なのだろう。そのリスクに、天井の低さに。


徐々にパフォーマンスが低下


今回、日本がメダルに届かなかった要因として、ターンオーバーを敢行しなかったことを挙げるメディアは多い。


中2日の連戦がパフォーマンスを下降させることは統計的にわかっているし、実際、ニュージーランド戦を出場停止になって1試合休んだ酒井宏樹は、最後まで素晴らしいパフォーマンスだった。


日本がターンオーバーに踏み切れなかったことを、準決勝や3位決定戦の敗因に挙げるのは、妥当な見方だ。


森保監督はターンオーバーについて、現実的には不可能だったと言っている。しかし、そこに踏み切る余裕を失わせた要因は何か? リスクを受け入れて金メダルを目指せなかった要因は何か? 


筆者は「A代表の監督として、カタールW杯で指揮」をチラつかせたJFAに責の一端があると思っているし、仮に森保監督が関係ない、それは判断に影響はしていない、と言ったとしても、気にする監督やコーチは絶対にいる。


安易な兼任継続のニュースは、本当に不満だ。せめて慎重に検討を。今の技術委員会のメンバーで反論が出ないのなら、出てくるようにメンバーの入れ替えを。


守備は及第点


森保監督について、個人的にはギリギリ及第点。


守備は良かった。強化試合のパフォーマンスからも一段階上がり、連係が素晴らしかった。3位決定戦のメキシコ戦以外は、延長戦を2つを含む5試合で、2失点しかしていない。これは評価されるべき。


選手のモチベーションも高かった。「金メダル」と明確に目標設定したことを含め、マネジメント面は大きな効果を発揮した。


もし、「森保監督は何もしていないのに、チームが回っている」と見えるとしたら、それも絶妙なマネジメントだ。下手な監督は、要らない手を出してチームを壊す。手を出すより、出さないほうが難しい。


単発な攻撃


ただし、オーバーエイジ3人をすべて守備陣に使ったこと+選手主体のマネジメントは、最終的にデメリットがあった。


堂安律や久保建英は、自分たちだけで試合を決めようとしすぎた。個人的にはニュージーランド戦で日本のビルドアップが詰まったとき、彼らが中盤を助けるプレーが少なかったことに不満を持っている。


それでも彼らは決定的な仕事をするかもしれないと、期待させる能力を持っていた。しかし、効率の悪い攻撃ばかりでは、最高峰にたどり着けないことも明らかになった。


守備の粘り強さが、攻撃にもあればよかったが、攻撃は単発で終わって消耗を繰り返すことが多かった。


森保式マネジメントの弱点


西野朗式を受け継いだ、森保式マネジメントの弱点も出たと思う。このチームは直前の強化試合と、最初の南アフリカ戦とメキシコ戦で結果を残したことで、堂安と久保のチームになることが確定。思った以上にそれが強かった。


選手主体のマネジメントでは、中心選手が「自分が」「自分が」と暴走を始めると、止められない。特に守備とは違い、日本の攻撃はカチッとした決まりごとが少ないので、基準がなく、引き締める要素が少ない。


オーバーエイジも攻撃陣にはいない。あるいは結果として「日替わりのヒーロー」が生まれる展開になればよかったが、上田綺世や三笘薫のコンディションが今ひとつだったこともあり、それも望めなかった。


兼任にせよ、森保監督のマネジメントにせよ、すべてを否定するわけでも、すべてを肯定するわけでもない。当面は守備同様の細かさ、粘り強さ、約束事によって攻撃を構築することが、戦術だけでなく、マネジメントも安定させるのではないか。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事