指揮官の手腕に正当な評価を! 大競争時代に突入したハリルジャパン

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第30回

指揮官の手腕に正当な評価を! 大競争時代に突入したハリルジャパン

By 清水 英斗 ・ 2016.11.17

シェアする

やっぱり、やらないか。3バック。ハリルホジッチは、サウジアラビア戦でいつも通りに4-2-3-1を用いた。中盤を逆三角形にすることはあるが、基本的には4-2-3-1に固定。2トップも、試合途中からのオプションに過ぎない。


サウジアラビアは、4-4-2で守備ブロックを組むことが想定できた。それを崩すために、3バックは有効な手段だ。3枚のセンターバックでカウンターを食らうリスクを抑えつつ、前線にも幅を作って人数を送り込める。しかも、昨今の日本代表はサイドバック不足であるため、3バックで左ウイングMFに原口元気を起用するなど、配置の仕組みを変えることも一つの手だった。


ところが、やらない。


ザッケローニの場合は、サブシステムとして積極的に3バックにトライしたが、ハリルホジッチはやらない。その代わり、この監督は新人の抜てきにアグレッシブだ。


活動期間が限られる代表チームでは、戦術の細分化と、新人の抜てきの両方は難しい。戦術を細かくすれば、新人をフィットさせづらい。ハリルホジッチの場合は、システムを固定し、ベース戦術を単純にすることで、新しい選手、あるいはポジションの違う選手が、スムーズにプレーしやすくなっている。


箱の型ではなく、選手の個性により、チーム戦略に幅を持たせる。ハリルホジッチの指揮は、“人”がベースだ。


今回はスタメンに久保裕也を起用し、序盤からのハイプレス戦術に向く11人を採用した。そして、1-0とリードした後半は、守備ブロックを下げて試合をコントロールするため、ハーフタイムに本田圭佑、続いて香川真司を投入した。


システムは変えないが、人は変える。箱を統一することで、新しい選手がフィットしやすく、混乱が少ない。一方、ザッケローニの頃は「このチームのやり方を思い出してもらわなければならない」というのが、メンバー発表時の常套句だった。戦術が細かく、複雑なので、新しい選手がフィットするのに時間がかかる。既存の選手も、招集されるたびに復習からスタートする。そのため、馴染みのメンバーがピッチに並ぶことが多かった。


ハリルホジッチの場合は、復習もへったくれもない。システムはいつも同じでシンプル。その対策運用については、相手によって毎試合変わる。つまり、既存の選手のアドバンテージが少ないのだ。


そう考えると、今回は久保が抜てきされたが、今後も継続的に起用される保証はまったくない。負傷した武藤嘉紀がマインツでトレーニングを再開しており、小林悠も戻ってくるだろう。


あるいは、これから先のアウェーの環境、あるいは暑熱環境でも、今回のようなハイプレス戦術が果たして有効だろうか? そうなると、逃げ切り以外のシチュエーションで、本田が再びスタメンに返り咲く可能性も大いにある。


2017年の日本代表は、大競争時代に突入する見込みだ。


ハリルホジッチ解任論に呆れる


そんな時代が訪れたにもかかわらず、この期に及んで、まだハリルホジッチの解任論が出ていることに驚く。日本代表は3勝1分け1敗で、ワールドカップ・アジア最終予選の半分を折り返し、2位につけている。この結果にどんな理由を付けて、プロの監督を解任できるのだろうか。


ハリルホジッチの人間性が気に入らない、という話はよく出る。この監督に不満を持つ人はメディアだけでなく、選手やクラブの中にもいる。見事な嫌われっぷりだ。しかし、性格の好き嫌いにより、結果の良し悪しを上回る判断が下されたとすれば、プロとして恐ろしいことだ。パフォーマンスの基準が、最初から設けられているのなら、話は別だが。


また、誰からも好かれるリーダーがいるとすれば、そのリーダーは仕事をしていないのと同義だ。


ピッチに立てるのは11人しかいない。チームを最優先に考えれば、不遇をかこつ選手が出るのは当たり前だ。チーム以上の選手は存在しない。リーダーならば、覚悟を持って重い決断をくだすときが来る。今回の本田圭佑、香川真司、岡崎慎司の3人をベンチスタートにしたのも、そのひとつだ。


ハリルホジッチの場合は、そういうところで変な期待を持たせず、バッサリと遠慮のない言葉で斬って行くので、選手のプライドが傷つけられる。選手だけでなく、日本のサッカー全体にも遠慮のない言葉が飛ぶ。たしかに、こんな人は日本の社会では浮くに決まっている。


だが、その姿勢がブラジルワールドカップ以降、停滞した2年に終わりを告げ、大競争時代の扉を開けたのも事実だ。誰にでもできることではない。もっと、ハリルホジッチを公正に評価したいものだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

シェアする
清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

このコラムの他の記事