レアルを追い詰めた鹿島に見る、石井監督の絶妙な采配と裏目の采配

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第32回

レアルを追い詰めた鹿島に見る、石井監督の絶妙な采配と裏目の采配

By 清水 英斗 ・ 2016.12.22

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クラブW杯決勝のレアル・マドリード戦を終え、鹿島アントラーズが世界中から称賛されている。特に注目されたのは、柴崎岳、昌子源、曽ヶ端準の3人だろう。実際、彼らのパフォーマンスは本当にすばらしかった。


その一方、試合の勝敗を最終的に分けたのは、鹿島のサイドハーフだ。このポジションの変化が、勝負のあやだった。


右サイドハーフの遠藤康は出色のパフォーマンスで、特に守備が印象的だった。サイドバックの西大伍がタッチライン際へ寄せるときは、中に絞りつつ下がり、西のカバーポジションを取る。このポジションに遠藤が入ってくれれば、センターバックの植田直通がサイドへ出て行く場面が減り、ディフェンスの安定感がぐっと上がる。


そうやって中のカバーに気を利かせつつ、マルセロのオーバーラップを西と共に防ぎ、なおかつ、低い位置でボールを受けるトニ・クロースにも、前へスプリントして寄せる。


遠藤はこれらの守備タスクをこなしつつ、攻撃時には裏のスペースへ飛び出したり、惜しいシュートを打ったりと、獅子奮迅の活躍を見せた。技術のある選手が、これだけ守備をしてくれれば、チームとしては大きい。


延長戦に入ると、遠藤の消耗は疲労の色が濃い鹿島の中で一段と厳しいものに見えたが、それは彼がいかに、チームプレーに走り回ったかの証明でもある。


一方、左サイドハーフの柴崎もよくやっていた。


しかし、鹿島が2-1と逆転してから、レアル・マドリードは3バックに変形して両サイドバックを上げ、前線に人数をかけたため、身体能力の高いカルバハルやL・バスケスの飛び出しに対し、マークする柴崎が遅れる場面が目立ってきた。


レアルの左サイド、C・ロナウド、マルセロ、クロースのほうは、ベンゼマが絡んで来ない限りは、それほどの脅威はなかったが、L・バスケス、カルバハル、モドリッチの右サイドは、より連係に優れており、鹿島は何度も突破を許した。後半13分に与えたPKは、その結果である。この試合で唯一、鹿島が一方的にレアルに殴られ続けた時間帯だった。


石井監督の絶妙な采配で息を吹き返す


苦しいとき、さらに怒涛の失点を喫して敗れるのが、Jクラブに限らず日本代表にも通じるイメージである。しかし、鹿島は違った。ここで石井正忠監督が打った一手に、舌を巻いた。


後半22分、小笠原満男に代えて、ファブリシオを投入。柴崎をボランチ、土居聖真を左サイドハーフへ移し、ファブリシオと金崎夢生の2トップへ。


絶妙。


ひとつの効果は、攻撃に欠かせない柴崎が、最終ラインに下がるケースを減らしたこと。また、押し込まれる展開になると、FWが孤立しがちで、ボールを収めるにはパワーが必要になる。そこでファブリシオだ。土居もサイドへ飛び出し、相手のラインを押し下げるプレーを得意とするが、レアルが3バックに変形したことで、そのスペースを見つけづらくなっていた。


さらにファブリシオは、守備のタスクも負っている。それは2トップの左側へ入り、モドリッチを見ること。PKを与えたシーンで柴崎が振り切られたとき、永木亮太と小笠原のカバーが利かなかったように、ボランチの意識がモドリッチに向くと、左サイドや背後のバイタルエリアをケアできなくなる。


そこで、ファブリシオが少し下がった位置でモドリッチを見る。おかげで永木は、無理に前へ出る必要がない。このちょっとした修正で、鹿島は左サイドの安定感を取り戻した。


小笠原→ファブリシオは、実に優れた采配だった。


そして、中央に移った柴崎の縦パスは、レアルのプレッシングをかいくぐる質があり、金崎とファブリシオのパワーコンビは、レアルのDFに対して戦うことができた。試合は落ち着き、再び鹿島もチャンスを生み出して行く。欲を言えば、もう少しこの交代が早ければ、さらに良かったが。


鈴木優磨の左サイドハーフ起用は良かったのか?


しかし、そこから20分程度が経過し、90分の終盤を迎えると、もう一つの問題が鹿島を襲い始めた。


遠藤と柴崎のプレーに見られるように、この試合の鹿島は両サイドハーフにかかる負担が大きすぎた。遠藤は時間とともに技術的なミスが増え、柴崎に代わってサイドハーフに入った土居も疲労の色が濃い。


そこで後半43分、石井監督が打った一手に注目したい。土居に代えて、鈴木優磨を左サイドハーフに投入した。


結果論で言おう。これは失敗だった。


試合のペースを取り戻したことで、石井監督はサイドハーフの疲労問題を解決しつつ、さらにゴールを挙げて再逆転する一手を考えたに違いない。そこで鈴木だった。


鈴木の投入には、戦術的な変化があった。遠藤や柴崎のように、中央のカバーに気を利かせるマルチ守備を行うわけではなく、鈴木はカルバハル“だけ”を見ていた。あまり中央に絞らず、サイドに留まったまま。守備から攻撃へ移るとき、左サイドに開いているのでカウンターへ移りやすい。


これは石井監督の積極采配と言える。おそらく、ジダン監督がL・バスケスを下げ、イスコを入れたことが、判断を後押ししたのではないだろうか。イスコは中盤でボールを持つ力はあるが、カルバハルとL・バスケスのように、サイドの突破力はない。鹿島の左サイドをスピードで崩される脅威が減ったため、あとはカルバハルを抑えればいい。それなら鈴木でも構わない。


土居→鈴木。これも面白い采配だったし、その通りにはまるチャンスは何度かあった。鹿島が3-2で逃げ切る可能性は充分にあったのだが……。


延長前半8分、ついに石井采配が裏目に出た。


金崎の飛び出しがオフサイドになった後、クロースがボールを持った。モドリッチを見ていたファブリシオだが、金崎がまだ自陣に戻っていないため、自分が寄せるべきかと右へ寄って行く。するとモドリッチが空くため、後ろの永木は左に寄ったポジションを取り、ほんのわずかだが、中央を空けた。ここが、勝負のあやだった。


サイドハーフを中心とした、鹿島の駆け引き


なぜ、この微調整が必要だったのか? それは前述したように、サイドハーフに入った鈴木が左サイドに張っていたからだ。仮に遠藤や柴崎、土居がそこにいれば、永木は彼らと連係し、もっと中央に絞れたはず。


その空いた中央にベンゼマがすっと下り、クロースから縦パスを受ける。永木は急いで寄せるが、ベンゼマはすぐに前を向き、右アウトサイドでスルーパス。C・ロナウドに決められた。先制点といい、PKを奪ったワンツーのアシストといい、このスルーパスといい、レアル最大のキープレーヤーは、最後までベンゼマだった。


鈴木ではなく、中村充孝などのMFをバランス重視でサイドハーフに投入すれば、あるいは2-2でPK戦に持ち込む結末があり得たかもしれない。だが石井監督は、鈴木の一発に賭けた。鈴木自身も、それを決断させる迫力を持っていたのだろう。


勝利はつかめなかったが、シビれる采配だった。敗れたのは結果論であり、石井監督は何度この場面に遭遇しても、同じ一手を打つかもしれない。


ただし、ひとつだけ課題を挙げるなら、延長戦で4人目の交代が可能になった新ルールを、鹿島が生かしたとは言えなかった。


3人目、4人目を代えたのは、試合が4-2とほぼ決してから。サイドハーフは共に疲労の色が濃く、全体的にも鹿島の足は止まっていたので、もっとベンチが早く動くこともできた。


それは選手層の問題もある。延長後半7分になり、ようやく右サイドハーフの遠藤を下げ、西をMFに移し、サイドバックに伊東幸敏を投入したが、このような采配を2-2で競っているうちにできなかった。それは監督に決断させられなかった、ベンチの選手にも向上の余地がある。


サイドハーフを中心とした鹿島の駆け引き。負けた試合を「試合巧者」と褒めてしまえば、鹿島の選手やサポーターに、「ふざけんな!」と怒られるかもしれない。でも、僕は本当にそう思った。語り継がれるべき、名勝負だった。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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