「お前の持っている武器を出せ。武器を持っているから、俺はお前を選んだんだ」
U-15日本代表を率いる森山佳郎監督は、今年初めのチーム発足以来、一貫して同じメッセージを送っている。そこには「武器を持っている選手が、プロの世界で生き残る」という経験からくる確信と、「世界と戦える武器を持っている選手を選びたい」という明確なベクトルが存在している。
武器の中身は何なのかと言えば、練達の指揮官は「別に何でもいい」と笑う。単純なスピードでもいいし、適確な判断に基づくパスワークやキックの精度、ヘディングは絶対に勝つといった要素でもいい。「俺はこの武器で飯を食っていく」という気構えを、15歳の段階から求めている。誰が出ても同じサッカーは求めておらず、「お前が出ているからこそできることがあるだろう」と要求してきた。
一方で、選手には「弱点」もあるものだ。苦手なジャンルがあり、好きではない作業もある。森山監督は選手に対して「武器を出せ」と言うと同時に「自分の弱点から逃げるな」というメッセージも送り続けている。
「どんな人間にだって、苦手なことはあるもの。ただ、その弱点から逃げていては成長できない。課題を克服しようと取り組み続ける姿勢が大事。たとえば、どうにもコミュニケーションを取るのがヘタなやつはいる。『だからアイツはダメなんだ』と言う気はない。でも『苦手なので、コミュニケーションを取りません』ではなく『苦手なので、頑張ってコミュニケーションを取ろうとします』になれるかどうか」
指揮官の要求に応え、成長を見せる若武者たち
武器を出せ、長所を生かせと言いつつ、「武器だけ」になることは許さない。持つべきは挑戦心であり、冒険心。苦手なジャンルに挑んでいく精神性を15歳の少年に求めてきた。優しいだけではない指揮官は、そのマインドを欠いていると判断した有力な選手たちを、あえてメンバー外にする措置もとった。
「代表を外されて、チームに戻って変わったかどうかを観察して、良くなったらまた呼びます。どういう選手が呼び戻されるのかがわかってくれば、選手たちもまた変わっていく」
9月16日から20日にかけてモンゴルで行われたAFC U-16選手権予選は、そうした積み重ねの集大成と言うべき場だったが、選手たちの「成長」は強烈に実感できた。たとえばボランチの平川怜(FC東京U-15むさし)は素晴らしいセンスとテクニックを持つ一方で、球際の攻防に淡白な部分があった。だが、常にアラートしてインターセプトを狙い、ボールを狩りに行ける選手になってきた。FWの宮代大聖(川崎F U-15)も身体能力と技術を兼ね備えた選手ながら、守備への貢献度は非常に低かった。それが今や守備で利く時間帯もあるほどで、モンゴルとの初戦の先制点も彼の「守備」から生まれている。
「エリートは消えていく」という言葉の真意
選手個々の苦手なこと、嫌なことを理解しつつ、それになおトライする姿勢を持たせること。その上で「お前の武器を出してみろ。俺はそれが見たくて呼んだんだ」という発信も忘れない。選手の凸凹を許容しながら、常に高みを目指す意識を忘れさせない。このあたりのさじ加減は、さすがに育成年代を長く指導してきた森山監督ならではのものだろう。
チーム発足当初、森山監督は「この場に選ばれていない選手たちが猛烈に努力して成長し、お前たちみたいな(エリートの)選手は消えていくんだ」という強烈なメッセージを送った。そこにはあるのはもちろん絶望ではなく、「だからお前らは現状に満足せず、もっと努力して成長していかなくてはいけないんだ」という希望である。
2000年以降に生まれた選手たちで構成された「00ジャパン」。森山監督と新世代のエリートたちの成長物語がどこまで続くのか。あらためて楽しみになっている。(文・川端暁彦)
写真提供:川端暁彦