10年、5大会ぶりの世界切符は、少々あっけない戦いの末に日本の掌中へ収まった。10月24日、バーレーン・ナショナルスタジアムで行われたAFC・U-19選手権準々決勝(対タジキスタン)は、開始8分にしてFW小川航基(磐田)がゴールネットを揺らしたことで一方的な展開に。最終的には4-0という大差で決着がつくこととなった。
10年ぶりの世界切符を得るためには、とてつもない死闘が待ち受けているものと思っていたのだが、得てしてこういうものなのかもしれない。重いと思われていた扉を軽々と開けたように見えるのは、タジキスタンという対戦相手に恵まれたという側面は確かにある。ただ、それも苦しい流れとなって前回王者カタールとの最終戦を前に「勝つしかない」と追い込まれながら、見事に勝って首位通過を果たしたからこそ得られたもの。決してネガティブに捉える必要はない。
今回のチームが成功を収めた要因はいくつかあるが、例年よりもコンスタントに試合へ出ている選手を揃えられたという一面はあるように思う。イエメンとの初戦に臨んだフィールドプレイヤー10名のうち、所属チームでまるで出場機会を得られていなかったのは小川くらいのもの。坂井大将(大分)や三好康児(川崎F)も少ないとはいえ、それなりの出場時間は記録している。
G大阪、C大阪がU-23チームをJ3に参加させていた効用も非常に大きく、堂安律、市丸瑞希、初瀬亮(G大阪)、岸本武流(C大阪)という選手がそこで実戦経験を重ねて、この年代にありがちな試合勘不足に陥っていなかったのは大きかった。この点は、日本サッカー協会とJリーグが協調しながら行ってきた施策の成果である。
コンディション重視の選考でアジアを勝ち抜く
同時に内山篤監督が選考の過程で試合勘を失い、心身のコンディション低下からパフォーマンスを落としている選手について、心を鬼にしてメンバーから外していったことも大きかった。昨年の1次予選から半数近い、10名が入れ替わっているのは象徴的だ。内山監督は今大会のポイントとして「コンディション」を大会前にも準々決勝後にも挙げていたのだが、そうした観点で選んでいったメンバーの中に、高校生を含めて普段から試合に出ている選手の割合が増えたのは必然だったとも言えるだろう。
もっとも、この選考はあくまでアジアを勝ち抜くための方法論。アジア予選に向けては勝負に徹して、リスクマネジメントをしてきた一面があるだけに、選手選考に関しては大会後から再び競争を始めることになるだろう。1次予選から最終予選にかけて10名が入れ替わったように、世界大会で半数近くが入れ替わっても驚きではない。そしてこれこそが、U-20ワールドカップに出て行く効用である。
新たな選手の台頭なるか?
当たり前だが、U-20ワールドカップに出たくない選手はいないだろう。同世代の世界のタレントの力を肌で体感できるし、自分が立身出世していく契機にもなる。日本が最後に出たU-20ワールドカップは2007年大会となるが、DF内田篤人はこの大会から欧州のクラブに注目されるようになり、シャルケ移籍へと至ることになった。こうした例は、世界大会に出て行くからこそ起こせる可能性だ。
となれば、その代表枠を巡る争いは自然と激烈なものになる。カギとなるのは新シーズンから新たにレギュラーポジションを奪い、Jリーグで存在感を示せるかどうか。今回、惜しくも落選してしまった選手たちはもちろん、まだ候補にも入っていない選手たち、特に来年から高卒ルーキーとして加入するようなプレーヤーには大きなチャンスが眠っている。この状況でモチベーションが高まらない選手はいないだろうし、こうして生まれる切磋琢磨は、必ず世代としてのレベルを一段押し上げる。何も世界大会へ出て得られる経験値だけが「ワールドカップ効果」ではない。
「10年の空白」を埋めるU-20ワールドカップ出場権確保は、若い世代にとって大きな刺激となる。それは5年後、10年後のA代表を必ず強くするだろうが、できればU-20ワールドカップ終了後から、A代表へステップアップするような飛び抜けた選手も出てきてほしい。東京五輪世代から、そんなブレイクスルーを遂げる選手が登場するのを心待ちにしたい。(文・川端暁彦)
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