W杯までの半年が勝負。前回大会のアルジェリアに見る、ハリル流強化プランとは?

COLUMN河治良幸の真・代表論 第4回

W杯までの半年が勝負。前回大会のアルジェリアに見る、ハリル流強化プランとは?

By 河治良幸 ・ 2018.1.30

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ロシアW杯の開幕まで150日を切った。日本代表は3月に予定されている欧州遠征を経て、5月30日の親善試合(日産スタジアム)の後に欧州入りし、6月8日のスイス戦を経て、ロシアW杯のベースキャンプであるカザンに入る。


そうした段階になってもなお燻っているのが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の"解任論"だ。アジア最終予選の間もハリルホジッチ監督の手腕への疑問は一部メディアでしばしば見られたが、予選突破後の欧州遠征で連敗、さらに12月に国内組で臨んだEAFF E-1選手権で韓国に1-4と大敗したことで"解任"という言葉が噴出してきたわけだ。


筆者の評価基準から見ても、E-1選手権の内容と結果については厳しい意見が出てしかるべきだし、選手のプレーにふがいない部分があったとしても、彼らを選んだ指揮官に責任があるのは当然だろう。ただ、半年後にW杯をひかえた状況で"解任"という言葉を出すのであれば、ここまでのチーム強化を分析した上で、本大会まで見据えて提言するべきだ。


問題は"解任論"そのものより、そうした筋の通った提言が見られないことだろう。協会の内部事情に踏み込まないまでも、交渉の余地がある指導者などの具体的な名前をあげられればより筋は通るが、少なくともW杯までの半年間の強化ビジョンは提言するべきだろう。


ハリルホジッチに課されたノルマは2つ


ただし、今回は筋の通らない"解任論"に苦言することが目的ではない。ハリルホジッチに課された明確なノルマは2つ。W杯アジア予選を突破して本大会に出場すること、そして本大会で結果を残すこと。前者については最低限のノルマだが、後者についてはそれがどこまでとするかは協会から公表されているわけではない。


ただ、躍進を期待されながら1勝もできずにグループリーグ敗退に終わった前回よりも良い成績、すなわちグループリーグ突破を果たすことが大きな目標になることは間違いない。その上で、これまで2002年、2010年と2度のチャンスで越えられなかったベスト16で勝利し、日本代表として初のベスト8に導くことができれば、あとは未知のステージへの挑戦ということになる。


それと同時にハリルホジッチ監督は「日本国民がサッカー日本代表を誇りに思える、美しいサッカーをしたい」と語っている。おそらく彼が思い描く"誇りに思える美しいサッカー"とは、華麗にボールを回してスペクタクルなゴールを決めるといったことではなく、いかなる強敵が相手でも諦めることなく攻守両面に渡って全員で戦い、勝機を見出すプレーをやり抜くことだろう。それを象徴しているのが、前回大会でハリルホジッチが率いたアルジェリアだった。


優勝したドイツを最も苦しめたアルジェリア


2014年のブラジルW杯において、アルジェリアは初戦でベルギーに奮戦しながら惜しくも敗れたが、続く韓国に勝利し、最終戦のロシアに引き分け、2位で決勝トーナメントに進出。ラウンド16では、グループリーグ初戦でポルトガルに4-0と大勝するなど、盤石の強さを見せていたドイツと対戦する。


堅守からのダイナミックなカウンターを武器に、ドイツの守護神ノイアーを破ればゴールというところまで何度も迫ったが、度重なるビッグセーブに阻まれ、0-0のまま延長戦へ。そこで体力の消耗を突かれて2点を失ったものの、諦めることなく1点を返した。


大会を通じて、世界王者に上り詰めるドイツを最も苦しめたアルジェリア。試合後に選手と抱き合ったハリルホジッチの涙は印象的だった。もちろん日本はアルジェリアと身体的な特徴も違えば、フランス語で流暢にコミュニケーションを取れる選手はGKの川島永嗣くらいしかいない。


前回のW杯を経験している監督と言っても、慣れないアジアの極東で選手にビジョンを植え付け、本大会に向けて"戦う集団"にしていく作業は簡単ではないだろう。実際にアルジェリアでの手腕を評価しながら「日本代表の指導には向かない」という見解を示す記事も見られた。


ただ、アルジェリア代表時の本大会までの試合内容や選手選考に目を向けると、日本代表での強化に対する見方も変わってくる。実はアルジェリアでもW杯アフリカ予選を勝ち抜いたにも関わらず、本大会に入るまでメディアや国民からの批判が絶えなかったのだ。


W杯メンバーに、当時無名のマハレズを大抜擢


その1つにメンバー選考があった。ハリルホジッチがアルジェリアの代表監督に就任したのは、2011年の6月。2014年のブラジルW杯から逆算すると、日本代表より3ヶ月ほど遅い時期になる。そこから1年半の強化を経て、迎えた2013年1月のアフリカネーションズカップはグループリーグ敗退に終わり、いつ解任されてもおかしくない状況でW杯予選を戦うことになった。


その大会に招集した23人のメンバーで、ブラジルW杯の最終メンバーに選ばれたのは11人だった。GKのライス・エムボリ、セドリック・モハメド、DFのファウジ・グラム、カール・メジャニ、メフディ・モステファ、ラフィク・ハリシェ、リアシヌ・カムダロ、MFのメフディ・ラセン、ソフィアン・フェグリ、FWのアル・アラビ・スダニ、イスラム・スリマニ。


つまり1年半で半数が入れ替わったことになるが、残った選手はアルジェリアをベスト16に導くベースの戦力となった。なかでもGKの2人とDFの5人が残っていることは興味深い。


さらに2013年11月に行われたアフリカ最終予選の最終戦のメンバーとブラジルW杯の最終メンバーを参照すると、5人の入れ替わりがあった。入ったのはDFのエサイード・ベルカレム、ラフィク・ハリシェ、MFのナビル・ベンタレブ、リヤド・マハレズ、FWのナビル・ギラスだ。当時19歳だったベンタレブは2014年3月のスロベニアとの親善試合で代表初キャップを踏み、一気に主力へと躍り出ることとなった。


そしてハリルホジッチの英断として語り継がれるのは、マハレズの抜擢だ。フランスの2部リーグから、当時チャンピオンシップ(イングランド2部)だったレスターでプレーする無名のアタッカーを初めて招集したのは本大会直前の5月。アルジェリア代表はまず30人のメンバーを招集し、直前合宿とテストマッチのアルメニア戦の後に最終メンバーの23人に絞り込む方式を取ったが、その唯一のチャンスでアピールに成功したマハレズが、最後の最後でW杯のメンバーに滑り込むこととなった。


本田、香川、岡崎に似た"復帰組"の姿も


一方で、ベルカレム、ハリシェ、ギラスの3人は過去に何度も招集され、一時は代表から外されたところからの"復帰組"だった。現在の本田圭佑、香川真司、岡崎慎司に似た境遇と言えなくもないが、確かなのは彼らが本大会までの半年間であらためて評価と信頼を勝ち取り、ベスト16進出に貢献するメンバーとなったことだ。特にベルカレムはドイツ戦で獅子奮迅の働きを見せ、グループリーグで3得点と絶好調だったトマス・ミュラーを封じる大仕事をやってのけた。


アルジェリア代表での3年間を見ると、予選後の半年間での仕事が本大会に直結するということだ。端的に言えば、この半年間のために招集された監督と言っても過言ではない。ハリルホジッチは「本大会で戦うチームは、最後の3週間で作ることができる」と語るが、それまでの半年間は信頼して本大会に連れて行くメンバーの見極めと対戦相手の徹底した分析、対策のプランニングに費やす時間なのだろう。


もちろん、予選を含めたそれまでの期間は基本的なメッセージを植え付け、ベースを固めていく大事な時間ではあるが、本大会を見据えれば、そこまでの期間で評価できるのは一旦の部分であり、結果としてのノルマは『W杯予選を突破すること』である。


W杯では、どんなサプライズが起きても不思議ではない


もしかしたら、世に出ている"解任論"の一部は、W杯出場に導いた監督が、この段階で協会から解任を告げられることはないという前提で、一種の悲観論に"解任"という刺激的な言葉を付けているにすぎないかもしれない。当然ながら、W杯ではグループリーグ敗退の可能性も少なからずある。ハリルホジッチはW杯を「最も美しく、最も危険な場所」と表現するが、そもそもW杯は、どの国にも勝利が約束された舞台ではない。


ブラジルW杯では、大会前に"3強1弱"と予想されたグループDで"1弱"のコスタリカがウルグアイ、イタリア、イングランドを上回る首位でグループリーグを突破し、ベスト8でオランダと延長PK戦にもつれ込む大善戦を見せた。


その一方でイタリアとイングランドがグループリーグで姿を消し、グループBでは前回王者のスペインがグループリーグ敗退となった。ロシアでも何かしらのサプライズが起こりうるが、それがどの組でどう起こるかは誰にも分からない。ただし、各国の指揮官はすでに本大会までの綿密なプランニングをしているはずだ。


試合に大敗し、大きな批判を浴びたEAFF E-1選手権の韓国戦で、いつもならテクニカルエリアに出ずっぱりで選手に指示を送り、1つ1つのプレーにオーバーリアクションするハリルホジッチ監督が、90分のほとんどをベンチに座って過ごし、2点リードされて迎えた後半もなかなか交代カードを切らなかった。それが何を意味するのか。ここからの選考、そして試合の中で明らかになっていくかもしれない。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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