オールジャパンでリスタートに挑む日本代表。西野新監督の言葉から読み解く、現時点での見通し

COLUMN河治良幸の真・代表論 第9回

オールジャパンでリスタートに挑む日本代表。西野新監督の言葉から読み解く、現時点での見通し

By 河治良幸 ・ 2018.4.13

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4月9日、日本サッカー協会(JFA)はヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任し、後任にJFAで技術委員長を務めていた西野朗氏が就任すると発表。また、12日にはスタッフを全て日本人で固めた“オールジャパン”で編成することを表明した。


前監督の解任については田嶋幸三会長が「選手とのコミュニケーション不足」という、この時期の解任としては非常に曖昧な理由をあげていたが、西野新監督の会見で1つ共通するキーワードが出てきた。田嶋会長は「日本らしいサッカーをやりたい」と語っていたが、西野新監督も「日本化した日本のフットボール」と語ったのだ。


「先月(3月)末に会長から、今回の打診をいただきました。そのときは正直、私自身も間違いなくハリルホジッチ監督を支えていきたいという、今までどおりの気持ちでいっぱいでした」


そう語る西野監督は「決して(チームの)現状がバラバラで、崩壊しているとは全く思っていませんし、しっかり戦えている」と主張。技術委員長として現場に最も近いところからハリルホジッチ氏と選手を見てきた西野監督は、会見の中で、前任者のことを繰り返し“監督”と表現するなど、配慮が見られた。一方で「監督の意図と選手のやりたいことがあって、そこのギャップを合わせていかなければいけないというのはありますし、その上でのやり取りがあります」と説明している。


ハリルが要求する課題との折り合い


「ハリルホジッチ監督は、自らW杯に参戦した上で非常に高い世界基準を知っている。言葉では“デュエル”や“縦”というシンプルなことですけれど、内容は非常に高度なもので、それを選手たちに強く要求していた」


西野監督が就任会見で語った上記の言葉を根拠とするならば、前監督が要求する世界基準の“デュエル”や“縦”といったスタンダードを選手たちが満たせないまま、本大会まで2ヶ月というところに来てしまったことになる。その基準をハリルホジッチ前監督が妥協せず要求し続けたら、そこに準備期間を費やしてしまい、チームが組織として仕上がらないまま本大会に入ってしまう。そうした懸念がマリ戦、ウクライナ戦で拡大してしまったということだろう。


もちろん、それらの基準に真摯に向き合い、それに近い所まで伸ばしていた選手はいた。現時点では世界基準に追い付いていないものの、事実を受け入れて伸ばそうとする姿勢が、最近のコメントや成長から見えた選手もいたことは挙げておきたい。そして彼らが“デュエル”と“縦”ばかり意識してプレーしていたわけでもない。ただ、そうした課題に向き合おうとするほど、自分の特徴を出していく余地が狭まってしまうのも事実だ。


残念なのは、ハリルホジッチ監督が「本大会で戦う3カ国については色々なアイデアがあるが、どう戦うかは最終的に本大会のメンバーが決まって固める」と語っていたことだ。これは筆者の推測になるが、その段階では選手に“デュエル”や“縦”の無理な要求に終始することなく、コンディションを優先しながら、メンバーができる最大限のパフォーマンス、戦術の落とし込みに切り替えたのではないかということ。


実際にそうだとしても、今となってはプランを会長や技術委員会と共有できていなかった、あるいはしなくても解任劇には発展しないという見通しが甘かった部分もあるだろう。もちろん、世界的にも前代未聞と言える段階での監督交代であり、常識的に考えても理不尽なわけだから、その流れを読み取れなかったのは仕方のないことでもあるのだが。


ハリルが提示できていなかった具体策


少なくとも、現時点で選手に無理な要求をしたというよりは、プレーのベースと世界基準に要求が偏ったことで、具体的な守備戦術や攻撃のバリエーションを十分に提示できていなかったことが“このままではロシアで戦えない”という不安を大きくしてしまったことは考えられる。それが西野監督の「やはり選手たちにはもっと自分のプレー、パフォーマンス、結果を求めたい」という言葉にもつながる。


解任の真相は定かではないが、現在の技術委員会も前回大会のアルジェリア代表を率いたハリルホジッチ氏の手腕を全く評価していないということはないだろう。ただ、それはあくまでアルジェリアの選手を率いてのもので、日本ではない。ハリルホジッチ氏としては、本大会で対戦相手の分析を踏まえながら、日本の選手たちに高いパフォーマンスを発揮させられると自信を持っていたに違いないが、選手だけでなく、技術委員会や協会内部までそれを事前に提示できなかった。


W杯で強国に対抗するプランの後退


問題は監督を交代することで、グループリーグ突破の可能性が、田嶋会長の主張する「1%でも2%でも上がる」のかということ。そこには現時点で疑念を抱かざるをえない。「まず自分を整える」と語る西野監督の実戦感覚や国際大会での経験値の差もさることながら、選手に高い要求をしながらすでに3カ国との対戦を見据えていた前任者から、“内向き”の課題を重視している新監督になったことで、コロンビア、セネガル、ポーランドにどう対抗するかというプランがかなり後退してしまったことは確かだろう。


「ゲームというのは色々な状況があります。オフェンシブに戦える時間帯もあれば、やはり総合的なチーム力によって、ディフェンシブな戦い方を強いられる時間帯が多くなる。そういう中で勝機を常に求めていく。ゲームの流れをコントロールできなくとも、勝負に対して“ここ”というところの全体的な意識があれば、こういうチームに対しても十分に戦える。勝機があるというところを。これはスタートメンバーだけでなく、いろいろな戦術変更やスイッチの中でも考えていきたい」


そう語る西野監督は、前監督が分析スタッフに課していた対戦国のスカウティングは活用していくというが、前任者が精力的に分析してきたと想定される蓄積は使えない。西野監督もこれまでの経験の中で“マイアミの奇跡”は言うまでもなく、固定的なスタイルというよりは対戦相手に応じて戦い方を変えてきているが、状況判断を選手に任せる度合いは前監督よりはるかに高い。


「あまり、個人のプレーに関しては制限をかけたくないと思っています。自チームでやっている普段のパフォーマンスを評価して選びたい。個人の力だけでなく、日本サッカーの良さ、強さはグループとしての強さだと思っています。連係、連続したプレー、そういったプレーができる選手を選考していきたい」


西野監督はそう語るが、日本より格上の3カ国との対戦でそのまま発揮できるだろうか。4年前は“自分たちのサッカー”が通用せず惨敗を喫したが、その時でさえザッケローニ氏の掲げた戦術的なベースがあった。それはチーム内での完成度は高かったが、日本を研究してくるW杯の対戦国に対して、自分たちのスタイルを発揮できない時にパフォーマンスが著しく低下してしまったことが問題だった。


選手の危機意識は高まる


今回はこの段階での監督交代であり、戦術ベースも霧散している状況から、西野監督とスタッフ、選手で形にしていかなければいけない。そうしたことから考えれば“ハリルジャパン”から1%でも2%でも可能性を上げるどころか“収支”はかなりマイナスと言わざるをえない。ただ、こうした状況下で、選手の危機意識が高まるのは間違いないところだ。


「勝つ確率を高めていくには、選手たちのプレー、本来持っているパフォーマンスをしっかり出させる。その上で結果が間違いなくついてくると思うので、そこを追求したいですし、選手たちにも強調したい」


西野監督は「間違いなく、こういう事態になって選手たちは、新たないろいろな気持ちを持っているはずです。これは1%、2%どころではない」と語る。そうしたものをコロンビア、セネガル、ポーランドといった相手に発揮できればいいが、現時点で見通しは明るいとは言えない。


西野監督の会見で最も響いた言葉がある。


「日本サッカーに対する強い気持ち」


この言葉をチームコンセプトに、外国人監督、外国人スタッフと別れを告げた“オールジャパン”はロシアに向けてリスタートする。(文・河治良幸)

写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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