西野ジャパンに猶予はない。求められる“反ハリル”ではないチーム作り

COLUMN河治良幸の真・代表論 第10回

西野ジャパンに猶予はない。求められる“反ハリル”ではないチーム作り

By 河治良幸 ・ 2018.4.27

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ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が解任されて、2週間が過ぎた。4月9日に日本サッカー協会(JFA)の田嶋会長が会見を開いてその事実を明かし、12日には前技術委員長の西野朗新監督が就任会見を行った。


西野新監督は“オールジャパン”と言われるスタッフをJリーグの各会場に派遣するなど、開幕まで2ヶ月を切ったロシアW杯に向けて始動しているが、27日には唐突の解任通告を不服とするハリルホジッチが来日し、記者会見を開く予定であり、筆者もすっきりと新体制の準備に集中できないのが正直なところだ。


ただ、すっきりしないのは解任の理由が曖昧で、ロジカルに整理できないといった理由だけでなく、3年間のチーム作りが本大会の直前に途切れてしまったこと、さらに本大会での見通しの暗さによるところも大きい。田嶋会長は監督交代の大きな理由に「1%でも2%でも(グループリーグ突破の)可能性を上げる」ためと語ったが、その説得力があまりにも乏しいのだ。


止むに止まれぬ事情で、ハリルホジッチの解任が避けて通れなかったとしても、本大会から半年以内に監督交代を経験し、W杯でベスト16に進出した例は94年アメリカW杯のサウジアラビアを最後に出ていない。そして、その成功体験をしたサウジアラビアは、ことあるごとに監督の首をすげ替える習慣が代表チームの成長を阻んでいる様子だ。


今回のJFAの人事もそうした“悪しき伝統”につながる危険をはらんでいるが、大会の結果がどうなろうと、日本サッカーに関わる人たちが今回の事態を美談にせず、教訓として未来に持ち越していけるか次第だ。


ハリルが築いたベースは継続したい


W杯で結果を出すために求められるのは、“ハリルジャパン”の3年間で選手たちが身に付けたベースを壊してしまわないことだと考えている。そもそも、この期におよんで基本的な戦い方まで大転換するのであれば、西野氏をハリルホジッチの後任として“内部昇格”させる意味がない。


会見の内容やここまでの経緯から、ハリルホジッチがコロンビア、セネガル、ポーランドに対してどのような対策をしていたのかは、前技術委員長の西野新監督にも具体的に知らされていなかったことが類推できる。4年前にアルジェリアをW杯でベスト16に導き、優勝したドイツを敗戦直前まで追い詰めた前監督の真骨頂がロシアで見られるチャンスは失われたわけだが、ここまで構築してきたベースの部分を大無しにしてやり直す必要があるだろうか。


西野新監督の就任会見から「日本化した日本のフットボール」や「オールジャパン」という何とも不可思議な言葉が先走って広まったが、西野新監督はハリルジャパン時代のすべてを捨て去るわけではないだろう。そうでなければ、コロンビア、セネガル、ポーランドとまともに勝負することすら難しいことは認識しているはずだ。


それでは何を引き継ぎ、何を変えるか。そこに本大会の成否がかかっている。


ハリルが選手達に求めたもの


西野新監督は、就任会見で次のように語っている。


「(ハリルホジッチ)監督のスタイルというのは、今まで日本のサッカーに足りなかった部分だと思います。1対1の強さを求めたり、縦の攻撃に対する推進力を求めたり。今までのA代表だけでなく、各カテゴリーが世界基準を知った上で、少なからずそういうものが足りないために、次のステージに進めなかった」


「ハリルホジッチ監督は、自らW杯に参戦した上で、非常に高い世界基準(を知っている)。言葉では『デュエル(球際の競り合い)』や『縦』というシンプルなことですけれど、内容は非常に高度なもので、それを選手たちに強く要求していた。そのスタイルは、現状の日本サッカーにとって、間違いなく必要なことではあると思います」


西野新監督はハリルホジッチが求めた要素が、世界を相手に戦う際に必要であることを認めている。ただ、3月のマリ戦とウクライナ戦まではそれらの要求が強く、メンバー選考の過程でもあるため、選手の積極性や自主的な判断などを発揮しにくい環境だったことは確かだ。


とはいえ、それらのジレンマはメンバーが決まり、W杯に向けた合宿が進む中、対戦国に応じたプランを監督が提示することで、チームが同じベクトルに向かうはずというのが筆者の見通しだった。しかし、田嶋会長や西野技術委員長を含む技術委員会は、当時の状況を前向きに捉えられなかったようだ。


少なくとも西野新監督は「縦への攻撃ということに関しても、間違いなく必要ですけれど」などと前置きをした上で「そのタイミングや瞬間とか、質を上げた上でそういうものを作り上げていく」と語っており、ポゼッションをベースに戦うとも、中盤の主導権を取ることにこだわるとも言っていない。


“デュエル”という言葉に対する誤解


一方で、ハリルホジッチの代名詞ともなっていた“デュエル”については、チーム内外で誤解が生じている部分があるかもしれない。西野新監督は「1対1の場面でも、パワーや強さは要求したいですが、なかなか体格的、フィジカル的な要素で戦えないところもある。そういうものに関しては別の角度から対応していく」と語っている。


だが、そこについてはハリルホジッチのコンセプトから大きくずれてはいないのだ。


確かに前監督は球際で激しく行くことも要求したが、基本的にファウルをしないこと、攻撃では時に相手からファウルをもらうことの大切さを説いていた。加えて1対1の局面では強さだけでなく、賢く闘うことも要求していた。つまり、デュエルの局面で負けなければいい。当たりの強さはベースの1つではあるが、全てではないのだ。


ハリルが伝えた様々なデュエル


このような誤解を象徴するものとして“デュエル”のことを“競り合い”と表現しているメディアが多いことが挙げられる。本来“デュエル”はラテン語で“決闘”を意味するもので、競り合いもその1つではあるが、駆け引きも含めた1対1を表している。ハリルホジッチもそのような意図で使用していたと考えられるが、残念ながら限定的に“競り合い”としか捉えられていない向きが見られた。


たとえば3月の試合を例に挙げるなら、中盤で先発した大島僚太が正面から当たることなく相手と距離を詰め、ボールコントロールをミスした隙を狙ってボールを奪ったシーンがあった。あれも立派な“デュエルの勝利”であり、攻撃ではウクライナ戦で柴崎岳がファーストコントロールの瞬間にアンカーのステパネンコをかわして惜しいチャンスに持ち込んだシーンも“デュエルの勝利”。さらに言えば中島翔哉のドリブル突破もそうだ。


“デュエル”で大切なのは、いかなる勝負にも逃げずに戦うこと。その方法は必ずしもパワーやコンタクトに頼ったものである必要はない。“デュエル”とひと言で言うと簡単に聞こえるが、この3年間でハリルホジッチは選手たちに様々なデュエルを伝えていた。その最たる例が槙野智章の成長だ。


槙野は3年前から高い身体能力を持っていて、コンタクトプレーも弱くはなかった。しかし、その当たり方やタイミングが代表クラスの選手としては大雑把で、意図しないファウルも多かった。その要因をハリルホジッチが見極め、細かい要求を積み重ねていった成果が、現在の“デュエル”に反映されているのは明らかだ。


3年間で身につけたものを生かす


ただ、そうした要素を突き詰めて伸ばしていくには、W杯まで時間が足りない。そのため、西野新監督は今出せる選手の能力を発揮させる方にシフトしようとしているに過ぎないのだが、直前合宿の段階では、ハリルホジッチもコンディショニングと対戦する3カ国の対策に時間を割き、より実戦的なアプローチにシフトしていたのではないか。その場に参加する候補を絞り込む見極めの場が、マリ戦とウクライナ戦だったと考えられるのだ。


ハリルホジッチの解任について槙野に聞くと、西野新監督が技術委員長としてチームに付いており、継続性があること。そしてプレーするのは選手であることを主張していた。ブラジルW杯に出場した選手の中には“自分たちのサッカー”が世界の相手に打ち砕かれた苦い経験があり、ハリルジャパンになってからメンバー入りした選手にも、ハリルホジッチに口酸っぱく植え付けられたベースはある。


確かに、日本代表の選手たちはハリルホジッチが要求する、世界基準の領域まで届いていなかったかもしれない。しかし、身に付けてきたものが全て捨て去られるわけではなく、そこは生かしていく必要がある。その上で足りない部分をどう補っていくのか。そこを本大会まで突き詰めていくことは、ハリルジャパンのままでもやっていたはずだ。


ハリルジャパンのベースに何を加えられるか


もうコロンビア、セネガル、ポーランドに対する、ハリルホジッチの作戦は手元に残されていない。西野新監督は「(ハリルホジッチ)監督自身も、本大会に向けて3チームのスカウティング、分析は強く求めていました。その蓄積はありますし、それは間違いなくベースになってくる」と話していたが、指揮官が去り、分析担当も代わった状況で、どう活用されるかは未知数だ。そこは非常に残念だが、前監督が3年かけて残したものは選手の中にある。


西野新監督は「ベースとなる選手たちは、現状も変わらないと思います。これからもその選手たちをベースとした上で、考えていくのがベスト」と説明している。もちろん監督が交代したことでセットバックされてしまう部分も少なからずあると考えられるが、3年間で培ってきたものをできる限り生かさなければ、本大会で結果を残すことのできる見込みは、限りなく小さくなるだろう。


ハリルジャパンの冒険は道半ばで終わってしまった。その失望感を無くすことはできないが、西野ジャパンがハリルジャパンの否定ではなく、そのベースを生かしながら何を加えていけるか。そこに、微かながら躍進の可能性が残されている。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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