スーパースター、若手ブレイク候補、隠れた注目国。W杯を楽しむ3つの視点

COLUMN河治良幸の真・代表論 第14回

スーパースター、若手ブレイク候補、隠れた注目国。W杯を楽しむ3つの視点

By 河治良幸 ・ 2018.6.15

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ロシアW杯が開幕した。モスクワのルジニキ・スタジアムで行われた開幕戦は、開催国ロシアがサウジアラビアに5−0で大勝する衝撃的な幕開けとなったが、1ヶ月後の7月15日に決勝の会場ルジニキで優勝カップを掲げるのは、どこの国になるのか。


前回はブラジルで行われ、ドイツが優勝。欧州の国が南米の大会で優勝したのは初めて。しかも準決勝でブラジル、決勝でアルゼンチンに勝利した。南米勢としては当然、欧州開催の大会でリベンジをはたしたいところ。


過去に南米勢が欧州開催の大会で優勝したのは58年のスウェーデン大会で、ペレを擁したブラジルのみ。その偉業をブラジルが再び達成するのか、前回準優勝のアルゼンチンがさらうのか。二連覇を狙うドイツをはじめとする欧州勢から優勝国が出るのかーー。優勝争いの行方は最大の注目ポイントだが、その過程における見所をいくつか提示したい。


①スーパースターは母国に優勝をもたらせるか


世界の二大スターと言えばアルゼンチンのリオネル・メッシとポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドだが、両者ともにW杯のタイトルが無い。メッシは前回大会で絶好調とは言えない中でもアルゼンチンの躍進を支えたが、決勝でドイツに敗れて戴冠はならなかった。現在30歳、大会中の6月24日に31歳の誕生日を迎えることもあり、まさにキャリアのピークにあると言える。ただ、アルゼンチンは南米予選で大苦戦。その終盤に監督交代を経験しており、決勝までタフな戦いを強いられそうだ。


クリスティアーノ・ロナウドを擁するポルトガルは2年前の欧州選手権で大方の予想を覆して優勝を飾り、欧州王者として今回の大会に臨むが、前評判ではドイツやフランス、スペインから大きく水をあけられており、大手ブックメーカーの優勝オッズものきなみ10倍を超えている。33歳のロナウドはキャプテンもつとめるが、エースの決定力を生かすコンセプトがチームで確立されているだけに、スペインとの初戦でうまく波に乗れば、母国を初優勝まで導く可能性は高まる。


その2人に継ぐスターとして注目されるのが、ブラジルのネイマール。ただし、優勝の可能性は3人の中で最も高いというのが大方の予想だろう。前回は準々決勝のコロンビア戦でラフプレーにあい負傷。突如エースを失ったブラジルは“ミネイロンの悲劇”とも言われる大敗を喫して大会を終えた。そこからネイマールも大きな成長を遂げているが、今年2月に右足を負傷して、長期の離脱を強いられた。


チッチ監督は序盤戦でネイマールを温存すると見られるが、フェリペ・コウチーニョなど戦力は前回大会より充実しており、守備力も安定している。よほどの事態がなければ、ネイマールは万全の状態で決勝トーナメントに照準を合わせてくるだろう。


優勝まではむずかしいと見られるものの、今季のプレミアリーグ得点王に輝いた、エジプト代表のモハメド・サラーは注目を集めるスター選手の1人。チャンピオンズリーグ決勝で肩を痛め、一時は大会の出場も危ぶまれたが、7大会ぶりのW杯で母国を躍進に導けば、スーパースターの仲間入りを果たすことは間違いない。


②大会でブレイクするヤングスターは?


大会で一躍名を上げる選手もいる。特に若手選手のブレイクが、チーム躍進の原動力になることが多い。若手選手で最も注目されるのが、フランスのFWキリアン・ムバッペ。だが、合宿中に左足首を負傷。深刻なけがではないとも伝えられているが、「レ・ブルー」ことフランス代表の10番を背負う19歳が期待通りの実力を発揮できるかは、5大会ぶりの優勝を狙うフランスの行方に大きく関わりそうだ。


ムバッペをしのぐ活躍をしてもおかしくないヤングスターが、イングランド代表の20歳マーカス・ラッシュフォードだ。好不調の波はあるものの、スピードに乗って正確にボールを操る能力が高く、若手中心のイングランド代表でもひときわ輝きを放つ。


セルビア代表のミリンコビッチ-サビッチはセリエAのラツィオで活躍したにもかかわらず、A代表に招集されたのは欧州予選後に監督が現在のクルスタイッチに代わってから。しかし、そこから瞬く間に中盤の主力に定着した。ハイスケールなプレーメーカーには、メガクラブからも大きな関心が集まっている。


クリスティアーノ・ロナウドを擁するポルトガルで、エースと2トップを組むのが、ミランに所属する22歳のアンドレ・シウバ。ロナウド自身が後継者として期待をかける選手であり、エレガントさとダイナミックさを併せ持つ。彼のブレイクがロナウドの負担を軽減することにもつながり、この大会がおそらく集大成となるロナウドとの世代交代を印象付ける活躍が期待される。


③意外な躍進を果たす国は?


前回はコスタリカがイタリア、ウルグアイ、イングランドと同じ組で“3強1弱”と呼ばれた下馬評を大きく覆し、ベスト8に躍進した。そうした国の躍進は優勝争いとは別に、楽しみな要素でもある。


今大会の注目国は初出場のアイスランドだ。人口33.5万人という東京都の1つの区ほどの規模でありながら、指導者と選手の育成で大きな成果をあげ、2年前の欧州選手権ではイングランドを破る快挙でベスト8に進出した。誰でも分かるスター選手はいないが、ハルグリムソン監督が「ペレ、マラドーナ、グンナールソン」と絶賛するMFグンナールソンは、組織力を押し出すスタイルを象徴するキャプテンだ。


もう1人の主軸であるギルフィ・シグルドソンは一時けがで欠場の噂も流れたが無事にエントリーしており、アルゼンチンとの初戦に向けてコンディションを高めている様だ。チーム一丸で勝利した後に両手を頭上で叩く「バイキング・クラップ」と呼ばれる儀式がロシアの地で鳴り響けば、欧州選手権から引き続きブームになることは間違いない。


他にも興味深いダークホースはいくつか存在するが、南米5位ながらブラジルやアルゼンチンと互角に渡り合った予選の記憶が新しいペルーは、大方の予想を上回る躍進を果たしてもおかしくないポテンシャルを秘めている。欧州の第一線で活躍する選手はほとんどいないが、ブラジルの名門サンパウロで10番を背負うクリスティアン・クエバなど世界的に知られざる実力者が揃い、レナト・タピアという22歳の若きゲームメーカーも面白い存在だ。


何より、コカインの陽性反応により、大会参加が絶望視されていたエースのパオロ・ゲレーロが大逆転で出場可能になったことが、チームの士気を多いに高めている。彼のW杯出場を請願した同じC組のフランス、デンマーク、オーストラリアには感謝しかないだろうが、勝負は別だ。


ちょうど日本がコロンビアに挑むサランスクでデンマークと初戦を行い、さらにフランスとの2戦目は日本がセネガルと戦うエカテリンブルクという巡り合わせもあり、“会場視察”の意味合いも含めて注目すると面白いかもしれない。


その他、今大会から導入されるVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の影響や、ベンチでの電子機器の利用が可能になることによる、各国のリアルタイムのデータ分析に基づくベンチワークなど、新たな見所も加わるロシアW杯。NHKのオンデマンド放送におけるタクティカル映像(上空から俯瞰する映像)なども話題を集めている。ぜひ自分なりに楽しみ方を見つけて、世界最大のサッカーの祭典を楽しんでほしい。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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