トルシエジャパンとは違う。A代表と五輪代表を兼任する、森保監督を待ち受けるハードル

COLUMN河治良幸の真・代表論 第15回

トルシエジャパンとは違う。A代表と五輪代表を兼任する、森保監督を待ち受けるハードル

By 河治良幸 ・ 2018.7.30

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森保一氏が日本代表の監督に就任した。昨年から東京五輪代表の監督として、現在のU-21代表を率いており、シドニー五輪と2002年の日韓W杯で指揮を執ったフィリップ・トルシエ氏以来の兼任監督となる。


「この4年間の集大成であるW杯を戦い、ジャパンズ・ウェイをしっかりと継承し、五輪、2022年のW杯、その先に続けていくためにも、森保監督は適任者だと確信しております」とは、日本サッカー協会・田嶋幸三会長の言葉だ。


森保氏は、西野朗前監督が率いたロシアW杯の戦いを継承し、世代交代をスムーズに進めて行くために適した人選であることは確かだろう。ただし、兼任で2つのチームを回して行くことが、非常に困難な道になることは容易に想定できる。


「兼任監督が可能かということは、体は1つなので、日程が重なったところは不可能だと思っています」と森保監督。合宿や試合の日程が重なってくる懸念はもちろん、選手の視察という代表監督の重要な仕事が、ないがしろになってしまう危険性が高い。直近では8月14日にインドネシアで開幕するアジア大会に、五輪世代のU-21代表が参戦するため、森保監督も事前合宿から帯同するが、決勝まで行けば9月1日まで拘束されることになる。


森保ジャパンの初陣は9月7日


9月7日にはA代表の初陣となるチリ戦、さらに11日にはコスタリカ戦が控えている。森保監督は、当面は五輪代表をベースにA代表も見る形になりそうで、組閣が固まるまでは関塚隆技術委員長をはじめとした協会スタッフ総動員で、選手のリストアップなどが行われるはずだ。


その中には森保監督が現地視察はもちろん、映像ですらまともにチェックできていない選手が入ってくる可能性もある。A代表の合宿には間に合うにしても、メンバー発表の日に、森保監督不在という事態も起こりうるだろう。


日程の問題はトルシエ監督時にもあったが、当時との大きな違いは、2002年のW杯は日韓共催だったので、W杯予選が免除されていたこと。そしてアジアカップがW杯から2年後の2000年10月に行われたことである。トルシエ監督はW杯予選が無いというアドバンテージを最大限に生かし、小野伸二、高原直泰、稲本潤一らを擁し、1999年のワールドユースで準優勝に輝いた”黄金世代”を徹底して鍛え上げ、中田英寿や宮本恒靖など、1つ上の年代を加えたシドニー五輪世代をベースにチーム作りを進めた。快進撃で優勝を飾ったアジアカップもシドニー五輪から良い流れを持ち込んでおり、メンバーの約半数は23歳以下の選手で構成されていた。


A代表の主力になるのはリオ五輪世代


五輪とA代表の監督を兼任したトルシエ時代と比べると、事情は大きく異なる。今回は半年後の来年1月にアジアカップがあり、それまでに国内で6つの親善試合を戦うことが決まっている。その間、森保監督が五輪代表の活動にどれだけ時間を割くのかは定かではないが、おそらく当面は五輪代表とA代表のメンバーはほとんどリンクしないはず。A代表に抜擢される東京五輪世代が出てきてほしいところだが、現実問題としてA代表の主力と東京五輪世代には実力の開きがあり、むしろA代表のベースになっていくべきはリオ五輪世代だ。


ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は久保裕也や井手口陽介、遠藤航、浅野琢磨など、リオ五輪世代の選手を積極的に起用して、ロシアW杯最終予選で結果を出した。さらに本大会に向けて大島僚太、三竿健斗、中島翔哉などの組み込みをはかり、一定の成果はあげていたと見られる。しかし、4月に就任した西野朗監督がW杯に向けて早急にチームを作り直す過程で選手の経験を重視し、本大会に残ったリオ五輪世代は中村航輔、植田直通、遠藤、大島のみとなり、彼らもピッチに立つことなくロシアW杯を終えた。


ロシアW杯のメンバー選出、起用法についてはベスト16という結果を出しており、彼らの”実力不足”と言ってしまえばそれまでの話だが、4年後のカタールW杯でベースになるのは現在22~25歳に当たる彼らの世代であり、少なくとも来年のW杯二次予選、さらに最終予選では東京五輪世代よりも、リオ五輪の世代がA代表のチーム作りに直結してくると見て間違いない。また、この世代は選手として成長過程にあり、リオ五輪ではメンバー外だったものの、その後Jリーグで目立った活躍を見せるリオ五輪世代の選手もいるだろう。


コーチングスタッフ編成が最初のタスク


興味深い参考例として、ロシアW杯で日本と戦ったコロンビアは、ホセ・ペケルマン監督がA代表と五輪代表を兼任していた。”ペケルマン・ファミリー”とも言われるスタッフで両方のチームを強化し、リオ五輪では日本と同居したグループリーグを突破。準々決勝で開催国のブラジルに敗れたものの、見事な戦いぶりだった。しかし、そのリオ五輪からロシアW杯のメンバーに入ったのは、ウィルマル・バリオス、ジェフェルソン・レルマ、ミゲル・ボルハの3人だけだった。


世代ということではファン・フェルナンド・キンテーロ、ダビドソン・サンチェス、ジェリー・ミナも該当するが、主力を形成していたのは1サイクル上の世代であり、兼任体制だからといって、五輪代表チームが2年後のA代表に直結するわけではないことを示している。


日本にとって、東京五輪でメダルを獲得することが大きな目標であることは間違いない。五輪とA代表兼任監督であれば、オーバーエイジの選出もしやすくなるが、A代表の活動が中途半端になる事態は避けなければならない。


ここから2年の間にアジアカップ、そして参戦が決まっている来夏のコパ・アメリカ、W杯二次予選とA代表の活動は目白押しだ。コパ・アメリカに東京五輪代表で臨むプランも考えられるが、もっぱらアジアでの戦いが続く期間に入る前に、世界の強豪とアウェーで戦うことのできる貴重な機会を、五輪に向けた強化のために使うことには異論も出るだろう。


そうした問題を森保監督がどうクリアしていくかは注目だが、まずは当面の過密スケジュールをどう切り抜けて、来年1月のアジアカップにつなげていくか。そのためのコーチングスタッフの編成が、最初の大きなタスクになる。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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