新春特別対談 河治良幸×清水英斗「どうなる? なでしこジャパンのフランスW杯」

COLUMN【新春特別対談】河治良幸×清水英斗 世界基準の真・日本代表論 ③

新春特別対談 河治良幸×清水英斗「どうなる? なでしこジャパンのフランスW杯」

By 河治良幸 ・ 2019.1.3

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2019年は女子サッカーにとって、4年に1度のW杯イヤーである。2011年のドイツW杯優勝、2015年のカナダW杯準優勝を経て、再び世界の頂点を目指すなでしこジャパン。高倉麻子監督体制になり、世代交代を進めるなでしこの現状は?



世代交代を敢行した、なでしこジャパン


河治:2018年のなでしこジャパンは、4月にアジアカップで優勝し、8月のアジア大会も優勝しました。その中で、高倉麻子監督になってから呼ばれている長谷川唯(日テレ・ベレーザ)、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)など、新しい選手が奮起しています。田中美南(日テレ・ベレーザ)も頼もしくなってきました。GKも、山下杏也加(日テレ・ベレーザ)という確固たる守護神が出て来たことも大きかった。


清水:山下は素晴らしいGKですね。技術が高く、反応も速い。3冠を獲ったベレーザ勢の台頭が目立ちます。


河治:元々才能はあるんだけど、経験だったり、勝負弱さがあったり、なでしこに入ると日の丸負けしてしまう選手たちを、高倉さんがあえて使いながら育ててきた。それによって、だいぶ逞しくなってきたと思います。


清水:世代交代といえば、A代表で森保一監督が挑んでいるところですけど、なでしこのほうが、一足先に世代交代をしましたよね。なでしことA代表の両方に共通しているのが、若い選手に思い切って任せたこと。ベテランのチームに若い選手を少しずつ入れるのではなく、若い選手の中にベテランを入れていく。それくらいの関係でした。若手が力を発揮しやすい環境を作る意味では、高倉さんも森保さんも、工夫をしたのかなと思います。


河治:高倉監督の就任当初は、阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)が、中心にさせられた状態でした。彼女はあまり精神面で中心になりたくないタイプなんですけど。川澄奈穂美(シアトル・レイン)も後からの招集で、熊谷紗希(オリンピック・リヨン)は呼べたり呼べなかったり。どうしてもいる人間がやらなければいけないという状況で、阪口や有吉佐織(日テレ・ベレーザ)、中島依美(INAC神戸)が嫌が応にも中心になった。有吉は元々サイドバックだったけど、ボランチにコンバートされましたね。


清水:それも注目ですね。


河治:U-20代表がU-20W杯で優勝して世界一になったので、そこから長野風花(仁川現代製鉄)と宮澤ひなた(日テレ・ベレーザ)が、11月の親善試合ノルウェー戦にも招集されました。チームの軸は固まっているので、あとはW杯登録メンバー23人の中で、勝負どころで切っていけるオプションが必要ですね。高倉さんのチームで鍛えられて、さらにものになってきた猶本光(フライブルク)もそうだし、杉田妃和(INAC神戸)など、候補はたくさんいます。そういう意味では、今年の6~7月の女子W杯に向けて形になってきたなと、期待はあります。ただし、FIFAランキングのトップ10との対戦で見ると、11位の北朝鮮には苦しみながら勝ったけど、アルガルベカップでは、オランダやカナダに負けています。


清水:親善試合でもアメリカやブラジルには負けていますね。本当に強いチームには、まだあまり勝てていない。


河治:結局、女子はどこまで求められているのか、というのはあります。2011年に世界一になり、前回も準優勝。なので高倉監督も目標として「W杯優勝」と言うしかないけど、実際ベスト4の先、決勝に行って優勝というのは相当難しい。


センターラインは固まってきた


清水:技術など質の面では、むしろ2011年に優勝したチームよりも、高倉ジャパンのほうが高いと感じます。ただ、当時のなでしこだったり、2012年のロンドン五輪と2015年の女子W杯で決勝にたどり着いたチームが、どうやって勝ち上がったのか。実力差があるドイツやアメリカに対して勝負の瀬戸際に持ち込み、実力差をひっくり返してきました。勝負のあやにおける割り切りだったり、徹するところ、しぶとく食らいつくところの強さがありましたよね。最後はそこに持って行かなきゃいけないけど、このチームにそこまで備わっているかと言うと、まだわからない。そこが分かれ目ですね。


河治:2011年のドイツW杯は、なでしこジャパンが旋風を巻き起こしましたけど、決勝のアメリカ戦は圧倒的に支配され、最後は岩清水梓(日テレ・ベレーザ)が、レッドカード覚悟のタックルで決定機を阻止し、PK戦まで持って行きました。準優勝した2015年のカナダW杯は劣勢の試合が多く、粘りに粘って、「なでしこトレイン」などのセットプレーや熊谷の強さ、セカンドボールからのシュートといった飛び道具も含めて、どうにか決勝まで進みました。ただ、あのときのメンバーはグループリーグ3試合目のエクアドル戦を除くと、結局15人くらいしか、試合で起用できていないんですよね。これはロシアW杯の西野朗さんのチームにも言えることですが、2015年のW杯のときは、メンバーを使い切れなかった。


清水:メンバーの新陳代謝がうまくいっていない印象はありましたね。


河治:当時は佐々木則夫前監督の信じたメンバーで、澤穂希を含めて15人くらいで戦い切った。よく決勝まで行ったなと。交代して入ってくる選手が、最初からわかっていたんですよね。でも、今回の高倉さんのチームは、良い意味でそこが分からない。もちろん頼りになる熊谷、岩渕真奈(INAC神戸)、宇津木瑠美(シアトル・レイン)の3枚と、ここにきて俄然、神がかってきたGKの山下で、センターラインはしっかりしています。あとは鮫島彩(INAC神戸)。ただ、鮫島もセンターバックをやっているけど、対世界で考えると、苦しくなるかもしれません。


清水:INAC神戸では球際の強さを見せているけど、対世界になるとスピードでぶち抜かれたり、ターンで入れ替わられたり、空中戦で負けたり、ということはあるかもしれないですね。


河治:熊谷とコンビで補完できればいいけど、相手がオランダ、ドイツ、フランス、アメリカになると、熊谷でも壁になり切れないかもしれない。ただ、鮫島がセンターバックにいると、鋭い読みを生かしたインターセプトに加えて、ビルドアップやワイドのカバーリング、サイドバックが上がった後ろのラインの裏は幅広く守ることができます。なでしこはポジショナルプレーではなく、基本は流動的に攻めるので、ボールの失いどころがどこになるかはわかりません。ボールの失い方が悪く、カウンターでサイドにボールを運ばれるという典型的なところで、鮫島がセンターバックに入ると、カバーに走る鮫島とゴール前を守る熊谷という役割分担ができます。基本はその形で何とかやれるのかなと。ただ、アメリカやドイツ、フランスが相手になると、ゴール前まで押し込まれる時間帯も増えるだろうし、なでしこが押し込んだら押し込んだで、ロングボールのカウンターもある。そうなると、誤魔化しがきかない。試合によってはセンターバックに宇津木という選択肢も無くはないですけどね。


清水:ユーティリティプレイヤーですからね、彼女は。


河治:本当に。ただ、何から何まで「宇津木姉さん、頼みます」というわけにもいかない。市瀬菜々(マイナビベガルタ仙台レディース)も、ノルウェー戦は良いプレーをしていましたが、彼女もサイドバックとのマルチで、本人も世界と戦う上で、フィジカルの強化を課題にあげています。できれば本職でもう1枚、土光真代(日テレ・ベレーザ)もいるので、そういう選手たちを、高倉さんがW杯までの半年で見つけていけるかどうか。


清水:最終ラインの中心は熊谷としても、累積警告もあるので、決勝まで7試合を考えると、層の厚さは重要ですね。


河治:実際に熊谷を決勝トーナメントのどこかで欠いたら、男子で吉田麻也がいない以上の緊急事態ですけどね(苦笑)。そのぐらい絶対的な存在です。


厳しい戦いが予想される、フランスW杯


河治:今回のW杯で、日本はグループリーグでイングランド、スコットランド、アルゼンチンと戦います。アルゼンチンは格下ですが、スコットランドとどうなるか。イングランドはFIFA ランキング4位で、日本があまり得意ではないタイプなので、苦しむと思います。


清水:2015年のカナダW杯でも、日本はイングランドに苦戦しながら、何とかアディショナルタイムのゴールで勝ったんですよね。


河治:イングランドはオランダよりも、さらにやりにくい相手だと思います。オランダは身体能力は高いけど、ワイドアタックを主体としたスマートなサッカーをしますから。その対応は前回のアルガルベなどでも出た、なでしこの課題なのですが、対策を立てれば守りようはある。ただ、イングランドの場合は、伝統的な男子のイングランドサッカーに近いような、縦への推進力があります。


清水:力押しでやられてしまう。


河治:そうですね。セットプレーを含めて、そこは劣勢でしょう。ただ、イングランドのような相手が、ベスト8以降は続くかもしれません。強豪の中でもブラジルやスペインが来てくれたほうが、日本はタイプ的にやりやすいですけどね。


清水:今年のW杯は、簡単にはいかない大会になりそうですね。日本も世界一になったU-20の面々を見ても、真価を発揮するのは4年後とか、もっと先なのかな、という気もしますし。


河治:今回はフランスが開催国だから、特に強そうです。フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、イングランド。ヨーロッパ以外だと、カナダとアメリカ。オーストラリア。この辺が強敵になってくるかな。


清水:2011年のときは決勝トーナメントが準々決勝からでした。つまり、試合が少なかった。だけど、2015年からは参加チームが24カ国に増えて、ラウンド16もある。1戦多いのが、何気にきついんです。決勝トーナメントで4回勝つのは、本当に大変です。


河治:2011年はまだ、日本が研究される前でしたしね。


清水:研究されて、前からハイプレスに来る強豪が増えて、辛くなりましたよね。


河治:日本のパスは正確でも、パススピードが速くないし、距離も短いから、相手の走力に追いつかれてしまう。


清水:なでしこを見て思うのは、一つ一つのプレーが丁寧なこと。ただ、相手がパワーや物量で押してくると、その丁寧さごと飲み込まれる。そのギャップを、世界でやるときに埋められるか。世界のチームはプレーに野生があるので、ボールを回すにしても、思い切ってやらないと、飲み込まれてしまう。


河治:そうですね。あと宮間あやがいなくなったので、サイドチェンジを出せる選手がいなくて。阪口が出せるといえば出せるけど、どちらかといえば、スモールフィールドの崩しをする選手ばかり。右に行けば右サイド攻撃、左に行けば左サイド攻撃、中央に行けば中央で終わり、となりがち。2011年より全体的に技術が上がっていると言っても、そこの展開力は宮間や澤がいた当時より下がったというか、武器にはなってない。欧米のチームと対戦するときの厳しさの中で、そこが大きいかなと。


清水:その辺りが見えるのは、グループリーグ2戦目のスコットランド戦、3戦目のイングランド戦ですかね。しんどい相手だけど、楽しみですね。

写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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