スペイン流戦術と個人技をミックスさせた難敵カタール。森保ジャパンはどう戦う?

COLUMN河治良幸の真・代表論 第27回

スペイン流戦術と個人技をミックスさせた難敵カタール。森保ジャパンはどう戦う?

By 河治良幸 ・ 2019.1.31

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アジア最強のライバルと目され、長友佑都が「トラとライオンの戦い」と表現したイランとの決戦を3-0で勝利し、アジアカップ決勝に進んだ森保ジャパン。イラン戦は完勝となったが、イランの選手がレフェリーにアピールした一瞬の隙を突いて先制ゴールをあげるなど、オーガナイズざれた組織にプラスして、試合を通して集中力を発揮する日本の良さが発揮された試合でもあった。


だが忘れてはいけないのが、日本はイランを倒すためにUAEに来た訳ではないということ。確かにイランはケイロス監督が率いたここ数年、ロシアW杯のスペイン戦しか負けておらず、アジア勢39試合無敗の相手に3-0で勝利したことは快挙であり、賞賛の嵐になることは当然だ。


しかし、試合後に柴崎岳が「負けたら何の意味もないものになるかなと思います」と語る様に、決勝でカタールに負けてしまえば何も残らない。少なくとも選手たちはそう意気込んでおり、決勝の相手カタールは決して生易しい相手ではない。


アジアカップ16得点無失点のカタール


カタールのFIFAランキングは93位、アジアでは13位という位置付けを、強さの指標として考えるのは禁物だ。アジアカップ6試合で16得点無失点という結果で決勝に進んだカタールは、試合に応じて4バックと3バックを使い分け、試合の中で中盤の立ち位置を変えるなど、成熟したクラブチームを彷彿とさせる組織力が強みだ。


カタールを率いるフェリックス・サンチェス監督は、43歳の青年指揮官で、若くしてバルセロナのカンテラ部門で指導を経験し、そこからカタールが国家的に取り組む育成組織のアスパイア・アカデミーで実績を積み、アンダーカテゴリーの代表チームを指揮して来た。現在のA代表メンバーはほぼ例外なく、彼の教え子たちだ。


イランは良くも悪くも選手のポジショニングが4-1-4-1もしくは4-3-3で固定的で、日本にリードされて迎えた終盤に4-4-2にシフトしたものの、そうした変化も非常に分かりやすかった。つまり、やってくることは想定できるが、その迫力やスピード、力強さゆえに厳しい相手で、そこを日本が粘り強く組織的に戦って凌駕した。


カタールはそんなイランと打って変わり、組み立てにしてもボランチのポジショニングやパスレンジ、ボールの動かし方などに変化を加えてくる上、ワイドに展開しながら、意外なタイミングでロングボールを前線に当ててくることもある。中東のチームとしては非常に演練されたパスワークで組み立てながら、アタッキングサードでは個性的な能力で単独の突破やカットイン、トリッキーなフィニッシュなどを繰り出してくるのだ。


つまりスペイン流を戦術のベースとして植え付けながら、チャンスからフィニッシュにつながる局面では個人の発想や技術的、身体能力的なスペシャリティを発揮させるスタイルだ。


危険なストライカー、アリ


UAE戦では10本のパスをワイドに繋ぎ、サイドに起点を作ってから、最後はアクラム・ハッサン・アフィフのパスを左ワイドで受けたアルモズ・アリが、鋭いカットインから巻き気味のシュートをファーサイドに決めた。


ここまで8得点と、得点王争いを独走中のアリは危険なストライカーだが、彼の決定力を引き出しているのがアクラム・ハッサン・アフィフ、アブデラジズ・ハティム、キャプテンで10番のハサン・アル・ハイドスで、いかなる組み立てからチャンスを作ろうと、最後は彼らからアルモズ・アリにボールが入ってくる。


もちろん彼らが直接シュートに持ち込むケースもあるが、基本的には組み立てる選手、運ぶ選手、決める選手という役割があり、特に”運ぶ選手”のところをいかに限定できるかが、日本にとって守備の生命線になりそうだ。


その意味ではボランチの柴崎岳、そして左足の負傷で欠場が確定している遠藤航に代わり、スタメンが濃厚の塩谷司がいかにバイタルエリアで2列目の選手を自由にさせないか。さらにはサイドバックの長友佑都や酒井宏樹(当日の状態によっては室屋成が出場する可能性もある)が、アウトサイドとインサイドをいかに柔軟に守れるかも生命線になる。


サイドバックのアンダーラップに警戒


ただし、カタールが4バックで来た場合、もう1つ注意したいポイントがある。それはサイドバックのアンダーラップだ。カタールは組み立て時に左右のサイドハーフが開いたポジションを取ることが多く、いわゆる”5レーンのハーフスペース”を活用する攻撃も多い。そこにはトップ下やボランチも入り込んでくるが、サイドバックが入ってくる攻撃は、森保ジャパンになってあまり経験していない。特に左サイドバックのアブレルカリム・ハッサンは182cm85kgというサイズと推進力を兼ね備えており、躊躇なく攻め上がってくると、かなりの迫力がある。


カタールが3バックで来た場合は、シンプルな展開から効率的に、縦にボールをつなぐ傾向が強まり、アルモズ・アリとアクラム・ハッサン・アフィフの2トップに当ててくる。4バックより攻撃ルートはシンプルでわかりやすいが、その分、攻守の切り替わりから素早くスペースを使ってくるため、スピードに乗ったところでファウルをもらいやすい。レバノン戦ではDFのバサム・アル・ラウィが直接FKを決めており、アブデラジズ・ハティムなど良質なキッカーが揃うため、自陣でのファウルはイラン戦以上に気をつけなければいけない。


組織化された守備を攻略したい


カタールはボールを持って主導権を握ろうとするが、攻撃から守備に転じた時の”ネガティブ・トランジション”が組織化されている。単に頑張ってプレスをかける、リトリートするということではなく、ボールに近い1人が起点を限定し、後ろの選手がそこから想定されるパスコースにパッと移動してボールをインターセプトしてくるのだ。


そうしたインターセプト主体のディフェンスを統率するのが、バッサム・アル・ラウィとタレク・サルマンのセンターバックコンビ。彼らはセンターバックとしては小柄で、身長が180cmに満たない選手たちだが、機敏性が高く、ディフェンスラインを揃えたところから瞬時にフォアチェックするなど、状況判断も素早く、正確性が高い。


彼らの”高さ不足”を補う手段として、センターバックもこなすことのできる184cmの守備的MFブアレム・フーヒー、185cmの左サイドバックであるアブレルカリム・ハッサンなどが揃っており、GKのサード・アル・シーブもハイボールに強い。


3バックの中央にフーヒーが入る形は”高さ”の補強にもなる。カタールは同じメンバーでも3バックと4バックを使い分けることができるので、もし4バックでスタートしても、途中から3バックに切り替えてくる可能性も考えられる。


長友佑都が「ハイエナのように戦う」と語るように、ギリギリの勝負で集中力や粘り強さ、執着心を発揮することも大事だが、観察眼と判断力を働かせ、カタールの変化に対応して行く力、チームのビジョンがバラバラにならないように共有していくコミュニケーション能力も問われる試合になる。


テクニカルエリアやロッカールームでの森保一監督からの指示、終盤の選手交代が勝敗に影響する部分もあるはずだが、ピッチ内で選手たちが状況を判断し、考えられる最良の方法を実行して行くことが、ピンチを未然に防ぎ、勝機をものにするための鍵になる。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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