強豪メキシコに完勝し、試合ごとに成長する姿を見せるU-20代表

COLUMN河治良幸の真・代表論 第35回

強豪メキシコに完勝し、試合ごとに成長する姿を見せるU-20代表

By 河治良幸 ・ 2019.5.27

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ポーランドで行われているU-20W杯。”影山ジャパン”ことU-20日本代表は、初戦で南米王者エクアドルに1-1で引き分け、中2日で迎えたメキシコ戦に3-0と完勝。内容的にもほとんどの時間でゲームをコントロールし、スペインのレアル・ベティスで活躍するライネスらを擁するタレント集団を封じ込めた。


エクアドル戦は事前に相手の特徴を仕込んで準備してきたが、ゆえに南米王者をリスペクトしすぎてしまったところがあった。相手の圧力以上にボランチが後ろに下がり、ロングボールを入れてもセカンドボールを拾えず、単発で裏を狙うばかりの状況になってしまった。そこからハーフタイムに修正し、1-1の同点に持ち込んだ。


影山雅永監督はエクアドル戦について「初戦で授業料を払うことになった。(メキシコ戦に向けて)『払った授業料を戻そう。ゲームで表現してくれ』と私からも言いましたが、選手たちも言っていました」と振り返る。


エクアドル戦から中2日で迎えたメキシコ戦は、スタメンを3人変更した。2トップにはエクアドル戦で途中出場から同点への流れに導いた宮代大聖(川崎フロンターレ)が田川亨介(FC東京)と前線でコンビを組み、エクアドル戦で2トップだった斉藤光毅(横浜FC)はコンディションに不安があると見られる郷家友太(ヴィッセル神戸)に代わり、右サイドハーフをつとめた。


ボランチはエクアドル戦で豊富な運動量は目を引いたものの、ポジショニングとデュエルの対応に課題を残した伊藤洋輝(名古屋グランパス)から、藤本寛也(東京ヴェルディ)にチェンジ。最終ラインの左サイドバックには相手のエース・ライネスとのマッチアップも見越して、機動力と粘り強い守備が強みの鈴木冬一(湘南ベルマーレ)が抜擢された。


【エクアドル戦のスタメン】


 

      9斉藤 11田川


  16山田           6郷家


      7伊藤  10未月  


 2東   3小林  4瀬古  5菅原


        1若原 



【メキシコ戦のスタメン】


      13宮代  11田川  


  16山田           9斉藤


      10未月  8藤本 


 15冬一  3小林  4瀬古  5菅原


         1若原



メキシコのシステム変更が追い風に


メキシコ戦は2つのテーマが混在していた。1つは事前のスカウティングを生かしてピッチで表現すること。もう1つは相手をリスペクトしすぎず、自分たちの良さを発揮すること。矛盾する2つのテーマを若い選手たちがうまく消化して、戦術的にも精神的にも強豪メキシコを上回れるかどうかがポイントとなった。


結果として、この試合ではあらゆる要素が良い方に出た。ただ、流れを引き寄せたのは日本の選手たちだ。メキシコは日本と同じ4-4-2をベースとするチームで、初戦のイタリア戦でエースのライネスは右サイドハーフでプレーした。しかし、イタリアに敗れたこともあってか、日本に対しては4-3-1-2に変更し、ライネスはトップ下に入ってきた。これに関して影山監督は「テクニカルスタッフも、あの情報はなかった」と語るが、ベンチから伝えたことを選手たちが理解し、すぐに修正したことがペースを引き寄せるきっかけとなった。


「10番(ライネス)がフリーマンになってくれたおかげで、うちのボランチがコースを気にしてくれる選手だったので、(ライネスに)うまくボールが入る回数が少なかった。あのポジション変更が、僕らのサッカーをさせてくれた要因だと思います。(メキシコは)試合中、4-4-2に戻していましたけど、ギクシャクしていたので、それをさせなかった僕たちのサッカーがよかったんじゃないかと思います」


右サイドバックの菅原由勢(名古屋グランパス)は試合をそう分析する。


キャプテンの齊藤未月とボランチのコンビを組んだ藤本寛也も「10番がトップ下に入ってダイヤモンドみたいになっていたんですけど、そこは僕と未月でやらせないようにしました。相手もうまく行っていない中で、フォーメーションを(4-4-2に)変えてきて、僕たちも相手が4-4-2で来ると予想していたので、変えてくれた方がやりやすかった」と振り返る。


柔軟な対応力が光る、ヤングジャパン


システム変更をのぞけば、メキシコの特徴はスカウティング通りだったようで、「分析がしっかり頭にありましたし、素晴らしい分析のおかげでこういうサッカーができた」と菅原は語る。ただ、そうした分析が相手をリスペクトしすぎる要因にもなりうる。


「そこも(エクアドル戦で出た)課題ではあったので、しっかりみんなで割り切ってやれたというか。試合になってみないとわからないということは、試合前から話していましたし、実際にシステムを変えて来たので、その意味ではうまく対応できたと思います」(菅原)


日本がメキシコに対して実行したのは、エースのライネスや早い時間に負傷したメラスに代わって投入された、19番のフィゲロアなど個人能力が高い選手のドリブルに対して、単独ではなく数的優位を作り、チャレンジ&カバーで止めること。そして、ロングボールのセカンドボールを相手より多く拾うことである。


攻撃では、ボランチの1人が2人のセンターバックの脇に下りて、一時的な3バックを作りながら、左右のサイドバックが高めの位置でインサイドとアウトサイドを柔軟に取り、メキシコのディフェンスを混乱させた。「イタリアとメキシコの試合を見て、イタリアが3バックなのに対して、メキシコが困っていた印象を受けた」と菅原は語る。


先制点の時間帯は、メキシコから見たら不運ではあった。20分にメラスが山田のタックルを受けて負傷し、一度はプレーに戻った直後の流れで鈴木冬一が左からクロスに持ち込み、そのセカンドを藤本が拾ったところから、浮き球のスルーパスに宮代がうまく反応して、ゴールに結びつけた。そうした”ラッキー”も含めて、日本は試合の流れをうまく引き寄せ、伝統的に試合巧者であるメキシコにリズムを与えないまま、追加点、ダメ押しとゴールを重ねた。


キッカー藤本の正確なボールが得点を生む


メキシコは失点後に負傷のメラスに代えてフィゲロアを投入。ライネスを右サイドにして通常の4-4-2に戻してきたが、日本は鈴木冬一と左サイドハーフの山田康太(横浜F・マリノス)で挟み込みながら、時にボランチの齊藤未月や藤本もサイドをカバーする形で、メキシコにほとんど良い形を作らせなかった。そして攻めては相手のサイドハーフとサイドバックを揺さぶり、生じた前方のスペースを斉藤光毅と山田、さらにFWの宮代が突く。外側が大きく空けば、サイドバックの菅原と鈴木が高い位置で起点になるといった流れを引き寄せた。


菅原は「正直いうとメキシコのサイドハーフの選手がそれほど気を配って守備ができる選手じゃなかったので、その選手をもっと困らせようと思って、いろんなポジションに立ちました。斉藤選手や中村選手はドリブルが得意ということもあったので、良さを引き出そうと思って、ああいうポジションを取りました」と語る。


前半36分には、菅原のクロスから田川が豪快にゴールネットを揺らしたが、オフサイドの判定で追加点はならなかった。しかし、着実に試合を支配していた日本は入念に準備していたと見られるセットプレーから追加点を決めた。藤本が右コーナーから左足で鋭く巻いたボールをニアで田川が擦らせると、ファーサイドにボールが吸い込まれたのだ。


コーナーキックからアシストを記録した藤本は、次のように振り返る。


「エクアドルもメキシコと似た感じのフォーメーションで、コーナーキックの1本目は(田川)亨介のところでうまく合わなくて、たまたま2本目もコーナーになったので、1本目と同じ感じで蹴ったら、亨介がうまく合わせてくれた感じです」


大会前、東京ヴェルディの試合後にもセットプレーの話を聞いていたが「キッカーのボールで8割得点が決まる」ということを語っていた。今大会は同じ左利きの久保建英もおらず、キッカー藤本の重要性が増したが、初戦は藤本が試合に出ず、東が左足のキッカーをつとめていた。


「(相手は)日本語が通じないので、蹴る前にどこに蹴るよとか、これやるよとか。自信を持って蹴ってあそこに行った」と藤本。セットプレーについて「あれが2点目に繋がって、試合運びが有利になった」と、世界大会で重要性を実感したようだ。


誕生日の宮代が2ゴール


ダメ押しとなる3点目は交代で入ったばかりの中村敬斗(ガンバ大阪)が積極的にボールを運び、田川のラストパスに宮代が最終ラインギリギリで抜け出す形から生まれた。この日が19歳の誕生日だった宮代は2得点。セットプレーから得点した田川と合わせて、FWが3得点となった。


影山監督は「FWにとっては点を取ることで、これから先への自信につながる。特に(宮代は)誕生日に点を取る、誕生日に勝利で祝ってもらえる。いいなあと思いました」と賞賛する。誰が取っても1点は1点だが、やはり大会上位に行くチームはFWが得点王ランキングの上位に顔を出す活躍をするものだ。メキシコ戦はこの先を考えても、大きな価値のある勝利となった。


これで決勝トーナメントに大きく前進したことは間違いないが、影山監督は「選手は3-0で勝って沸き立っていますが、イタリアは強敵なので、スタッフの力も借りて、選手たちをさらにいい状態に持って行きたい」と、勝って兜の緒を締めた。


U-20代表は大会の中で着実に成長している。特にこれまでアンダーの試合で、強豪相手にできなかったような試合運びで完勝したことは、日本サッカーにとって大きな収穫だ。しかしながら、メキシコ戦の勝利が、大会の躍進を約束するものではない。さらなる強敵に対して良い内容、結果を継続させて行くことができるかは、ここからの準備と姿勢次第だ。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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