アルゼンチンの罠にハマった、なでしこジャパン。スコットランド戦に共通する課題

COLUMN河治良幸の真・代表論 第37回

アルゼンチンの罠にハマった、なでしこジャパン。スコットランド戦に共通する課題

By 河治良幸 ・ 2019.6.13

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6月7日にフランスで開幕した女子W杯。高倉麻子監督が率いる”なでしこジャパン”は初戦でアルゼンチンと対戦し、0対0の引き分けに終わった。「FIFAランキングはあてにならない」とよく言われるが、アルゼンチンは過去2回のW杯で全敗。今年2月には韓国に0-5で大敗し、3月にはオーストラリアに0-3で敗れている。なでしこは順当なら勝ち点3、あわよくば複数得点を記録して、今後の戦いを有利にしたい相手だった。


しかし、蓋を開けると序盤からボールこそ持つものの、アルゼンチンのタイトなブロックをこじ開けることができず。ボランチからの縦パスをカットされるシーンも目立ち、セカンドボールもアルゼンチンに拾われるか、イーブンでも競り合いで奪われるシーンが相次いだ。ようやくチャンスが訪れたのは、前半38分。相手のミスから高い位置でボールを奪った横山久美が菅澤優衣香とのワンツーで深い位置に入りこみ、鮫島彩にスルーパスを送るが、惜しくもブロックにあった。


後半には、左サイドバックの鮫島と右サイドの清水梨紗が高い位置で攻撃に絡む形を作ることで、チャンスを作り出した。最大のチャンスは後半11分のシーンで、右サイドに流れた横山が潰れる形で大外を清水が抜け出し、グラウンダーのクロスを送る。そこにボランチから上がってきた杉田妃和がスルーし、長谷川唯が左足でシュートを打とうとするがミートできず、ゴール左にそれてしまった。


高倉麻子監督は早い時間に横山に代え、怪我から復調途上にあるエースの岩渕真奈を投入するが、守備のゾーンに入ったようなアルゼンチンのディフェンスを攻略するには至らず。逆にパスカットから危険なシーンを作られるなど、最後までリズムを引き寄せられないままタイムアップ。勝ち点1は得たものの、イエロー3枚、しかも右サイドバックの清水とボランチの杉田という”アキレス腱”になりうるポジションの選手が警告をもらう、前途多難の初戦となった。


崩しの基本が意図的にできなかった


「守備を固めたアルゼンチンを崩せなかった、高倉ジャパン」という分かりやすい構図に見えるが、それだけで結論づけられない2つの問題がある。1つは相手が引いてブロックを作った場合はサイドを有効活用し、相手の守備をワイドにストレッチさせるという崩しの基本が意図的にできていなかったこと。もう1つは、攻撃から守備になった時の構造的な問題だ。


高倉監督はアルゼンチンを攻め崩せなかった理由について、テンポよくゴール前に入っていけなかったこと、特に前半は勇気が足りなかったことなどをあげた。確かにW杯の独特の雰囲気の中で、なでしこジャパンが本来持つゴールに向かう積極性を共有できていなかった向きはあるかもしれないが、戦術面にも問題はあった。そのポイントはサイドバックにある。


いわゆる”ボックス型”に近い4-4-2を用いる高倉ジャパンの生命線は、両サイドバックの攻撃参加だ。なでしこは伝統的にあまりサイドハーフの選手が”メインテインポジション(ワイドにポジションを維持すること)”をとることはあまりなく、サイドに開いたときはそこを起点に仕掛けていく。結果としてその攻撃が相手の守備を同サイドに引き付け、逆サイドにオープンスペースを生む効果は活用されてきた。


しかし、アルゼンチン戦ではサイドハーフとサイドバックが連動するシーンが限られ、左サイドハーフの長谷川唯がドリブルで仕掛けても、相手のマークを剥がすような周囲の動きが乏しく、孤立してカットされた。逆に鮫島や右サイドバックの清水が高い位置に上がっても使われるシーンが少なく、中央でアルゼンチンのディフェンスにカットされる状況が続いた。特に右サイドバックの清水は前述の後半11分のような、ボールに絡むシーンは限られていた。


デュエルで劣勢だったなでしこ


サイドハーフの選手がワイドに張る場合は、あまりボールに触らなくても、基本ポジションが高いため、相手ディフェンスの意識は引っ張られやすい。しかし、基本ポジションが低いサイドバックが攻め上がった時はできるだけ使ってあげないと、相手のディフェンスが“危険な存在”として意識しにくく、マークの関係からもストレッチを生みにくい。高い位置に上がった右サイドバックにボールを展開した時に、アルゼンチンのディフェンスが引っ張られれば中が開くし、釣られないなら深い位置までえぐり、後半11分のようなチャンスに持ち込めばいい。


しかし、ボランチの杉田や三浦成美がボールを持っても繋ぎが狭く、アルゼンチンが網を張るスモールエリアに引き込まれてしまった。そこでもデュエルに勝てれば問題なかったが、球際でアルゼンチンが日本を上回るシーンが見られた。どうしてもFIFAランキングや試合の成績で相手のレベルを見てしまうが、1対1の局面では男子のイメージさながらで、イーブンボールでの体の入れ方も、欧米の選手とは違う粘っこさが目を見張った。


サイドの突破を止められず


サイドバックを有効活用できなかった理由は、清水や鮫島への展開が少なかったからだけではない。アルゼンチンを押し込む時間が長い割に、サイドバックの二人が基本ポジションを低めに設定せざるを得なかったからだ。アルゼンチンは守備では自陣にブロックを固めるが、ボールを持つとワイドに張ったサイドハーフのバニーニとボンセグンドにボールを預けてきた。縦の突破力がある二人が前を向いてボールを持つと、日本のサイドバックは縦を切る必要がある。


しかし、バニーニとボンセグンド、特にキーマンであるバニーニは構わず前に進んで行くため、清水はボールを奪い取れないまま、下がりながらの対応を強いられた。ゴール方向へのドリブルに対してはセンターバックの熊谷紗希もカバーに入るが、ライン際で縦にゴリゴリ来られると、熊谷は中央を留守にすることができず、ボランチの杉田か三浦が流れて挟みに行くしかなくなる。そうなると、ドリブルを止めることはできても、効果的な攻撃に繋げられず、アルゼンチンに再び守備ブロックをセットされることになる。


アルゼンチンが1トップのホセ・ハイメスにロングボールを蹴ってくる展開であれば、センターバックの熊谷と南萌華が前を向いてはね返せるので、大きな問題にはならなかっただろう。アルゼンチンには裏に飛び出してくる俊足のアタッカーがいないので、ディフェンスライン下げさせられるシーンはほとんどなかった。代わりにサイドハーフにシンプルにボールを付けられてゴリゴリ来られたことで、サイドの深めの位置まで引っ張りこまれてしまったのだ。


スコットランド戦に向けて


そこから危ないシーンまで持ち込まれたのは2度ぐらいだったが、ワイドな位置でバニーニやボンセグンドが仕掛ける度に、日本は攻撃を立て直さなければならない。そうした形の攻撃が高倉ジャパンを苦しめ、攻撃のリズムを失わせるとともに、サイドを活用しにくい状況を生んだ。高倉ジャパンの良さは二次攻撃が増えるほど発揮され、相手ディフェンスの脅威になっていくが、ボールを持つ時間は長くても守備で体勢を崩され、イーブンボールのデュエルで競り負ける状況が多いと、攻撃のリズムは悪くなる。


それでも高倉監督が言う通り、勇気を持ってゴール前に入っていく姿勢や、ディフェンスの手前からもっとシュートを打つ姿勢は必要だったかもしれないが、それ以前のところでも問題は見られた。


スコットランドの要注意選手


高倉監督は「スコットランド戦では、全く違った展開になる」と切り替える。それはスコットランドがアルゼンチンより高い位置でボールを持ち、司令塔のリトルを軸に中盤から攻撃を作ることで、中盤の強度は上がるものの、日本と噛み合った状況になることを予想してのものだろう。


高倉ジャパンは本番に向けて、欧米の強豪国と積極的にテストマッチを組んでおり、欧州ベースの相手の方がやりやすさはあるかもしれない。ただ、スコットランドにはエムスリーという縦のドリブルに優れた左サイドハーフがおり、左右サイドをこなすエバンズも、いやらしいボールの運び方をしてくる。そうした相手にイエローを一枚もらっている清水が堅実な対応をできるかどうかは難しく、守備のリスクだけでなく、攻撃の良さまで消えてしまったら本末転倒になる。高倉監督がどういう選択をしてくるか、気になるポイントだ。


スコットランドは本番前のジャマイカ戦では[4-2-3-1]だったが、日本のボランチが現状において展開力に不安を抱えている状況を見透かされていれば、カスバートとリトルをインサイドハーフに並べ、長身MFのウィアーがアンカーになる[4-1-4-1]のような形でハメてくるかもしれない。スコットランドはイングランドより総合的なレベルが落ちる分、日本対策をはっきり取ってくる可能性は高い。


スコットランドに引き分け以下なら、3試合目が優勝候補のイングランドということを考えても、決勝トーナメントに向けて苦しい状況になる。普通に対戦したら日本が有利であるはずだが、W杯の舞台はいかなることも起こりうる。それでも高倉監督の言う通り、消極的になったら勝ち筋が見えるものも見えてこない。スコットランドの出方をしっかりと見極めながら、なでしこジャパンらしく、勇敢かつしたたかにゲームをコントロールして勝利につなげて欲しい。(文・河治良幸)

写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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