見通しが甘かった森保監督。戦術設計が不明瞭で、選手に任せる領域が広すぎた

COLUMN河治良幸の真・代表論 第53回

見通しが甘かった森保監督。戦術設計が不明瞭で、選手に任せる領域が広すぎた

By 河治良幸 ・ 2020.1.19

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U-23日本代表は『AFC U-23選手権タイ2020』で、サウジアラビアとシリアに1-2で敗戦。すでにグループリーグ敗退が決まった状況で、カタールに1-1と引き分け。優勝候補と目された相手を敗退に追いやったが、優勝はおろか6試合をこなして経験を得る目的も果たせなかったという意味で、”失敗”と評価されても仕方ないだろう。


カタール戦後に責任を問う質問が出ると、森保一監督は「積み上げに関して、確実に来ている。もちろん今回の結果に責任はありますが、その責任は選手を成長させて、オリンピックで結果を出すことで果たしたい」と回答した。


「選手が入れ替わりながら活動している中で、スタートはミスも出たりしているが、全体像としての選手たちのイメージは見えてきている。最後のほんの一瞬の合わせる部分、相手の変化に少し後手を踏むことはあるが、全体としては積み上げている」


森保監督はそう説明するが、もし本当に積み上がってきていると見ているなら、自己評価が甘いと言わざるを得ない。例えばクロスに入る人数やポジショニングと言った部分もそうだし、攻撃時に幅を取りながら、インサイド、アウトサイドを攻略してフィニッシュに繋げる部分にも、継続性、再現性に欠ける部分があり、それはA代表よりも顕著になっている。


不明瞭な戦術設計


もちろん、対戦相手との兼ね合いもある。AFC U-23選手権で対戦したのは、中東の強豪国ばかりで、サウジアラビアはポゼッションとカウンターを使い分けてくるタイプ。シリアは堅守速攻、カタールは後ろで作ってから、ディフェンスラインの裏やワイドに蹴ってくるチームだ。


それぞれに特徴が違い、システムもサウジアラビアが3-4-2-1(守備は5バック)、シリアが4-2-3-1、カタールが5-3-2と異なる。日本は3-4-2-1を変えることなく、ウィングバックのポジショニングなどを調整していた。


ただ、例えばサウジアラビアは前の3枚がかなりプレッシャーをかけてくる中で、試合の途中で、ボランチの田中駿汰や田中碧が後ろに落ちてパスコースを確保する時間帯もあったが、2失点目を喫したシーンは後ろの3枚でリスキーなまま、ボールを回しているところでミスが生じ、それをカバーできずにPKという流れだった。


さらにシリア戦の2失点目は渡辺剛が負傷退場した後で、ディフェンスラインのメンバーが代わる不運はあったものの、中盤のリスク管理不足と最終ラインの判断ミスがセットで起きた結果だった。


2試合続けて1-1の状況から失点という流れを見ると、メンタルの問題に行きやすいが、そもそもの戦術設計が不明瞭であり、選手の自己判断やコミュニケーションに委ねる領域が広すぎることも否めない。サウジアラビア戦とシリア戦ではクロスに入ってくる選手がほとんどおらず、サイドの選手が縦に突破しても、基本的には1トップの小川航基や上田綺世にクロスを合わせるしかなかった。


3戦目で修正が見られたサイド攻撃


相馬勇紀もクロスに入ってくる選手が少なすぎることを課題にあげていたが、3試合目のカタール戦では田中碧の退場で10人の戦いを強いられるまで、ゴール前に選手が入ってきていた。そのことを相馬に聞くと、やはり選手間でかなり話し合ったと言う。いくつか具体例をあげたい。


・前半11分 

右インサイドの旗手怜央から右サイドの相馬にボールが出て、縦に突破する。このシーンでは小川がニアで縦に動き出してディフェンスラインを押し下げ、手前の中央に食野亮太郎、ファーサイドに杉岡大暉、そしてニアのエアポケットにボランチの田中碧が走り込んでいた。しかし、相馬の蹴ったシュート性のボールはGKが直接処理した。


・前半22分

右サイドの相馬がクロスを送るタイミングで小川がニア、食野が中央でそれぞれ二人のディフェンスを引き付け、その外側でフリーになった杉岡がダイレクトでクロスを捉えたが、鋭いシュートは惜しくもゴール右に外れた。


・前半35分

相馬の右からのクロスに対して小川がニアで二人を引き付けると、食野がその外側でマーカーと競り合いながらヘッドで折り返す。するとタイミングよく走り込んできた旗手が左足でシュートに持ち込むが、至近距離でブロックに阻まれた。



このようにサウジアラビア戦、シリア戦とは違い、3戦目のカタール戦ではウィングバックがクロスを上げたときに、1トップの小川に加えてシャドーの一人、ファーサイドのウィングバック、さらにもう一人、つまり3~4人がゴール前に飛び込む形を作れており、フィニッシュの迫力を生んでいた。


ただ、人数は足りていても、そこからどう合わせるのかという面で、得点を生み出すには不十分であり、ゴールはもちろん、相手GKにセーブを強いるようなシーンを作れなかった。初戦からカタール戦のような意識の共有がされていれば、意識ではなくクオリティや精度にもっとフォーカスして伸ばせたのではないだろうか。


現在の目的は選手の見極め


そもそもチームとしての意識を揃えるガイドラインは監督が引くものだが、森保監督はその一部を選手に任せているように見える。現在は選手の見極めがメインの目的になっているのだろうが、今大会は最大6試合やることの意味が強く、3試合で終わってしまったことはチームのシミュレーションとしても、選手のテストとしても非常に痛い。


もしかしたら森保監督は、今回のアプローチでもグループリーグは十分に突破できると考えていたのかもしれないが、そうなら見通しが甘かったと言うことだ。実際にAFC U-23選手権のメンバーは、昨年の12月上旬から中旬にかけて釜山で行われたEAFF E-1選手権から14人が選ばれた一方で、12月28日に長崎で行われたジャマイカ戦からは5人だった。


ジャマイカ戦からそのままU-23選手権に入っていく選択肢もあったが、Jリーグがオフであり、コンディションに配慮した部分もあったようだ。ただ、U-23日本代表は夏に向けて3月、5月、6月に活動があり、最終メンバーが絞り込まれてから、東京五輪の直前合宿もある。そのため、意図的に戦術を詰めすぎないようにしている部分はあるのかもしれないが、それにしてもグループリーグ敗退で被った、3試合の損失は大きい。


今回のメンバーで東京五輪に残れるのは5、6人程度


AFC U-23選手権に参加していない、東京五輪メンバーの有力候補をあげると、冨安健洋(ボローニャ)、久保建英(マジョルカ)、堂安律(PSV)、板倉滉(フローニンゲン)、三好康児(アントワープ)、中山雄太(ズウォレ)、前田大然(マリティモ)、安部裕葵(バルセロナ)、菅原由勢(AZ)、伊藤達哉(シント=トロイデン)などがおり、国内組の有力候補では岩田智輝(大分トリニータ)が外れている。


五輪の場合は選手の拘束力が無いので、欧州組で招集できない選手が出る可能性はあるが、オーバーエイジが3人までエントリー可能であることを考えれば、U-23選手権のメンバーから、18人の最終メンバーに残れる選手は、5~6人程度かもしれない。それでも森保監督としては公式大会でもっと示していくべきものはあったはずで、選手としても「このメンバーでもやれることを示したい」(橋岡大樹)という目的を果たせたとは言い難い。


ただ、過ぎてしまったことは巻き戻せない。ここからU-23日本代表の最終目標である東京五輪に向けて、どういうアプローチをして行くか。相馬はカタール戦後に「自分は勝って学ぶものだと思っていますが、負けたことでわかることもある」と語っていた。


森保監督への風当たりが強まっているが、大会に参加した選手は選手で、シビアな状況になっている。しかし、だからこそ所属クラブで試合に出て、アピールすることの重要性をさらに自覚し、それぞれの新シーズンに挑むことを期待したい。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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