なぜ失点につながるミスは起こるのか? なでしこジャパンの課題を読み解く

COLUMN河治良幸の真・代表論 第56回

なぜ失点につながるミスは起こるのか? なでしこジャパンの課題を読み解く

By 河治良幸 ・ 2020.3.11

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何をもって”ミス”とするか。1-3で敗れたスペイン戦から、中2日で6人のスタメンを入れ替えて臨んだイングランド戦は、その本質を突きつけられる0-1の敗戦となった。


なでしこジャパンはベスト16で終わったFIFA女子W杯以降、国際親善試合のカナダ戦を4-0、MS&ADカップの南アフリカ戦を2-0と勝利。釜山で行われたEAFF E-1サッカー選手権ではチャイニーズ・タイペイに9-0、中国に3-0、開催国の韓国に1-0と、無失点で5連勝していた。


参戦中のシービリーブスカップでは、FIFAランク13位のスペイン。”イギリス”で東京五輪に臨む予定のイングランド(同6位)、世界王者のアメリカという強豪相手に、選手の見極めや戦術的なチェックはもちろん、中2日で3試合を行うスケジュールも含めて、東京五輪を想定したシミュレーションを兼ねているはずだ。


W杯王者アメリカに加えて、なでしこが金メダル獲得のために乗り越えないといけない相手が欧州勢だ。体格的な差もあるが、男子サッカーでも流行している”ポジショナルプレー”をベースとした戦術が、女子チームにも共有されてきており、それぞれシステムや特徴は異なるものの、”立ち位置”で優位を作りながら、再現性の高い攻撃でゴールを狙うチームは珍しくない。


高倉麻子監督が率いるなでしこジャパンは、そうした相手を運動量やコレクティブなプレッシングで上回るスタンスだが、シービリーブスカップ初戦のスペイン戦では全体がバラバラで、簡単に背後や横、合間のスペースを使われたり、イージーミスも目立った。相手うんぬん以前の問題だったのだ。


強豪相手に表面化した課題


相手との関係で気になったのが、後ろから攻撃を組み立てる時に、ハメられやすい傾向があったこと。ミスパスからショートカウンターを受けて、ピンチや失点につながる理由は、本当に自分たちのミスなのか。これは、ボールを握って主導権を奪うスタイルを標榜するなでしこにとって、遠征先でコンディションの良い強豪と対戦しないと、表面化しにくい問題だ。


その視点でイングランド戦を見ると、守備面では全体がコンパクトに連動し、高い位置からボールを奪いに行く守備は明らかに良くなっていた。もっとも、イングランドはスペインほど、中盤で細かく揺さぶってくるチームではない。


大きく斜め前に振ってくるサイドチェンジから、左右のウィングが裏抜けを狙うプレーには、右サイドバックの清水梨紗や左サイドバックの宮川麻都も苦しめられたが、ルーズボールを起点に攻守の切り替わりで後手を踏んだシーン以外は想定内で、センターバックの土光真代と三宅史織もよく対応できていた。


“立ち位置”が曖昧ななでしこ


一方で後ろからのビルドアップに関しては、イングランドが4-3-3-と4-1-4-1を併用しながら、センターフォワードのべサニー・イングランド、左ウィングのヘンプ、右ウィングのケリーが中間ポジションで日本の4バックをチェックし、三浦成美と杉田妃和の2ボランチにはインサイドハーフのスタンウェイとノッブスがチェックしてくることで、最終ラインからボランチを経由できないように、パスコースを限定してきた。


さらにアンカーのウォルシュと2人のセンターバックが、2トップの岩渕真奈、田中美南にクサビのパスを出させない状況を作っていたことで、なでしこは一発で裏のスペースを狙うか、両サイドハーフの籾木結花と中島依美を起点に、周囲が動き出す攻撃から何度かチャンスが生まれた。しかし、ベースはあくまでセンターバック、ボランチ、サイドバックの6人にGK池田咲紀子を加えた組み立てになる。


相手の守備がハマった状態だと、パスの受け手と出し手のズレやボールコントロールのミスが、ボールロストにつながってしまう。そうしたスリリングな状況を長引かせないために、立ち位置の変化や調整が必要になるわけだが、現在のなでしこは曖昧になっている部分が大きい。


イングランド戦の失点場面


例えばイングランド戦の前半13分には、センターバックの三宅からパスを受けたボランチの三浦が、左サイドバックの宮川に出そうとした横パスが短くなり、ケリーにカットされた場面があった。


スルーパスからべサニー・イングランドに抜け出され、GK池田が1対1で止めたのだが、ボールを奪われた場面だけを見れば”三浦のミス”となる。しかし相手に網を張られた状況で、ポジショニングで”位置的優位”を作らないまま、センターバックからボランチ、ボランチからサイドバックというパスを展開しようとした設計にこそ問題があった。


そして、お互い無得点で試合が進んでいたが、83分に日本のミスから、絵に描いたようなショートカウンターで決勝点を奪われてしまった。


相手のロングボールをキャッチしたGK池田が右センターバックの土光にトスでボールを渡すと、ボランチから手前に引いてきた杉田にパスを出す。そこへインサイドハーフのノッブスがプレッシャーに来るが、杉田は左センターバックの三宅に斜めのバックパスを送る。三宅のところには、途中出場でフレッシュなダガンがプレッシャーをかけてくる。


ボールを受ける前に一瞬、左に首を振った三宅は半身を開きながら、左サイドバックの宮川に左足のワンタッチで通そうとするが、角度が悪くダガンに引っ掛かると、そのまま縦に持ち出されて、中央で動き出した途中出場のFWホワイトに左足で流し込まれた。


完璧なタイミングと精度でパスがつながれば、問題がなかったという意味では、パスミスをした三宅の責任だ。しかし、そもそも相手の守備に対し、安定して組み立てるプランニングをチームとして共有しているのかどうか。そこが問われてくる。


複数あった、安全なプレーの選択肢


前からプレッシャーをかけられているからと言って、むやみなロングボールに頼る必要はない。このシチュエーションであれば、杉田はもっと早いタイミングで手前に引いて、土光と三宅が開けば、ノッブスのプレッシャーを受けずに展開することは可能だった。


そうでなくても杉田にパスが出た時点で、1トップ気味だったホワイトが引き付けられたので、土光に戻してGK池田を経由し、トライアングルの形で三宅に出せば、深みを取りながら相手をずらして、スペースと時間がある選手に展開することもできた。しかし、このシーンで土光は杉田に、三宅の方にパスを出すようにジェスチャーしている。


そのベクトルに従うにしても、ダガンに前からプレッシャーをかけられた状態で、三宅がワンタッチで左サイドの宮川に渡すのは不可能ではないが、かなりスリリングだ。この局面では、三宅がボールを動かしながらコントロールして、GK池田に戻して右に展開する方が、明らかに安全だ。それでも左に展開するなら、浮き球を使うか、宮川のポジションを下げることになっても、斜め前よりもワイドなイメージでパスを出すべきだった。


アメリカ戦で改善は見られるか?


このようなシーンの判断に関して、極論を言えば、絶対の正解など無い。ピッチに立っている選手が基本設計だけでなく、相手との間合いや味方のポジショニングを視野と意識に入れながら、どのような選択をし、正確に実行するかどうかで結果は変わる。


しかし、相手の守備の立ち位置やプレスの強度、動き方を想定した準備はチームとして設計して、判断のためのベースを引き上げておく必要がある。


2試合続けてディフェンスラインのミスから失点してしまったことで、東京五輪に向けての大きな課題として、高倉監督や選手たちも改善に取り組んでいくはずだが、単に集中力や精度、選手間の呼吸を合わせるだけでなく、相手を見ながら立ち位置を設計すること。それに対し、事前に共有することがポイントになる。そうすることでビジョンが整理され、集中力の欠如や精度のミスも起きにくくなるはずだ。


何はともあれ12日の朝にはアメリカとの3試合目がある。勝利を持ち帰れるように、今出せるベストを出して、次につなげて欲しい。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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