【特別対談】東京五輪に向けて、なでしこジャパンは戦い方の幅をどう持たせる?

COLUMN河治良幸×清水英斗 世界基準の真・日本代表論⑨

【特別対談】東京五輪に向けて、なでしこジャパンは戦い方の幅をどう持たせる?

By 河治良幸 ・ 2020.6.26

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河治:これで名前は一通り出ましたかね。永里優季(シカゴ・レッドスターズ)を除けば。


清水:永里ね。一度も招集されていないのはどうしてなんでしょうね。


河治:FWで絶対的なのは岩渕真奈(I神戸)ぐらいで、菅澤優衣香(浦和)も力強さはあるとは言え、勝負所での信頼感はもう一歩のところがあります。


清水:組み合わせで言えば、永里&岩渕は絶対に合いそう。



河治:90分ハードワークできるようになった岩渕と組むのは、永里がなでしこの主力だった頃にはあまり無かったですからね。現状は池尻茉由(仙台)がいるので、彼女が菅澤の控えか、ひょっとしたら追い越して岩渕&池尻の2トップもあるかもしれません。上野真実(愛媛FCレディース)は1996年生まれと、そこまで若くはないですけど、東京五輪までの1年で力強さを増せば、メンバーに割って入る可能性もあります。とはいえ、僕は強引に田中美南(I神戸)を入れたので、上野が外れることになったんですけどね(笑)


清水:前線で軸になるのは岩渕は確定として、誰がパートナーになるかは、この1年の伸びを見てみたいです。


河治:田中美南は高倉麻子監督からも、ストライカーとして国際舞台でもう一皮むけることを求められていますけど、ボールを運べて、タメられて、守備もできる万能型です。あまり「ストライカー」と背負わせず、肩の力を抜いてやってみたら、意外と点が取れるかもしれない(笑)。セカンドトップ気味のところから、ゴール前にスッと入っていくとか。


清水:18人のメンバーリストに関してはそんな感じで、前回の対談で話した、4-3-3の可能性について触れさせてください。五輪の本番で相手に4-4-2をスカウティングされた時に、今のところは岩渕をトップ下に落とすとか、もっとコンパクトにやろうぐらいしかないと思うんですよ。でも、それで対応できなくなったり、岩渕を守備に動かしすぎて、攻撃でパワーを失うのは得策なのか。たとえば、相手の狙いを潰すことはインサイドハーフに任せて、岩渕をウイングへ移した4-3-3とか、選択肢はあったほうがいいと思う。


河治:個人的にも縦関係の2トップにする形はイメージしていますが、同じフォーメーションの中でのポジショニングの幅が無いんですよね。4-4-2でスタートしても、状況によって3バック気味にずらして対応することもあれば、ボランチがセンターバックの間やセンターバックとサイドバックの間に入るとか、フレキシブルさをセットにすれば、4-4-2のままでもいいと思う。でも今のなでしこには、あまりにも幅がない。そう考えると、フォーメーションを完全に変えて、3バックと4バックを使い分ける、プランBを持つのはありなんですよね。それが4-3-3なのかはわからないですけど。相手のスカウティングもあるので、本番ギリギリまで手の内を見せず、五輪直前のキャンプで詰めるのかもしれないですけどね。


清水:そのタイミングを計ってる部分もあるでしょうね。どこまで行けるか、どこからがアウトか。


河治:それもあって、ギリギリまでフォーメーションを使い分けることを選手に刷り込まないで、直前にオプションとして入れるのかなと。ただ、2020年3月のアメリカ遠征で、4-4-2の戦術的な幅のなさを露呈したのも事実なわけで。4-3-3なのか4-1-4-1なのかはわからないですけど、配置を変えた上で選手の特徴をはめ込んで、それによって選手交代で変化をつけるプランは用意した方がいいと思います。


清水:4-4-2を変えないのであれば、4-2-3-1のような形で岩渕と、長谷川唯(日テレ・東京Vベレーザ)や中島依美(I神戸)のポジションを変えて、トップ下に置いた選手を走り回らせるだけでもいいと思いますけど、そういうのも無い。


河治:動きの流動性に乏しい要因が、ボランチだと思うんです。前回の対談でも少し触れましたが、そこに阪口夢穂(日テレ・東京Vベレーザ)が入ってくれば、大きく変わると思う。あるいは籾木結花(OLレイン)をボランチで起用するとか。なでしこがグラウンドの幅を使った戦いができない理由があって、両サイドハーフが開いても、ボランチから長いボールが出て来ないんですよ。


清水:はい。


河治:サイドチェンジも1試合に1、2回で、それも「よっこらしょ」って感じです。それだと、サイドを変えたところで相手に付いて来られてしまう。なでしこが強かった頃はパスワークが称賛されていましたけど、澤穂希や宮間あや、それに阪口がいて、中盤の展開力がすごかったんです。


清水:なるほど。


河治:現地で取材をすると、三浦や杉田も「ワイドのパスを意識して」みたいなことは言うのですが、ワイドにパスを出そうとするあまり、自分のポジションもサイドに寄って行ってしまったり。左にパスを出すふりをして、右にポーンと展開するというのが無い。


清水:2人とも、基本的には狭いところに行きたがるタイプですよね。


河治:行きたがりますね。三浦も杉田も前にボールを運ぶことはできますし、縦パスも出せる。ミドルシュートでゴールを狙うこともできる。でも、狭いところへ行っちゃう。それは、女子のボランチ全体に言える傾向かもしれません。澤や宮間、阪口といった代表の先輩たちと比べるのはかわいそうかもしれないけど、その流れで見ると、いまのボランチコンビはスケール感に乏しい。


清水:難しいところですね。先人があまりにも偉大なので。


河治:そう考えると、今後のなでしこはセンターバック出身者がボランチをやるのもありだと思います。アンダーカテゴリーの代表を見ていても、相手の強度がそれほど高くない分、ボランチに展開力を求められないというか、狭いところに入っていくプレーでやれてしまうんですよね。それでU-20W杯やU-17W杯で結果も出ている分、日本らしいスモールサイドのコンビネーションを起点としたサッカーになっていく。


清水:それはあるかもしれません。


河治:なので、アンダーカテゴリーでセンターバックをやっていた選手を、なでしこではボランチやアンカーにするのもありなのかなと。もちろん、自分で判断して、一発でサイドを変えられるような本職のボランチが出て来れば、それに越したことはないですが。


清水:熊谷紗希(リヨン)みたいな流れですね。欧州クラブではセンターバックではなく、ボランチをやる。日本もセンターバックがたくさん出てくると、その選択肢も広がりそうです。


河治:たとえば、センターバックの南萌華(浦和)をボランチで起用するとか。ただ、南はいまのチーム事情を考えると、センターバックからは動かせないですが。南が熊谷のような統率力を付けてきたら最高ですよ。昨年のEAFF E-1選手権では垣間見せましたが、全体の統率を任せるのはまだ厳しい。東京五輪までの1年で、熊谷がパフォーマンスをキープしながら、南がさらに伸びて本番を迎えられたらいいですね。センターバックはこのチームの生命線なので。後ろに”山下神”はいますけど(笑)


清水:山下杏也加(日テレ・東京Vベレーザ)は1対1やセービング、キック力もすごいけど、一番は顔(笑)。自信揺らがぬ守護神の顔で、GKには大事なことです。最終的に大舞台を任せるのは、やっぱり彼女なんだろうなと思います。(終わり)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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