影山雅永監督が率いる”01ジャパン”ことU-19日本代表は、今年7月に『JFA夢フィールド』で代表活動再開第一号としてトレーニングキャンプを行って以降、ほぼ月1回のペースで集まり、適度にメンバーを入れ替えながら強化を進めている。そして12月下旬には、東京五輪代表の候補合宿と同時期に、年内最後の合宿が予定されている。
今月中旬には、年齢が1つ下の02、03年生まれの選手を対象としたU-18日本代表候補の合宿でも、影山監督が指導にあたった。来年のアジア選手権からU-20W杯を目指す”01ジャパン”に割って入るタレントを探すと同時に、代表活動を通して個人に刺激を与える狙いがあるようだ。
9月の活動からは、現役を引退した内田篤人氏が『ロールモデルコーチ』という役職で加わった。最初は選手たちに混じってボールをさばく、参加型の指導からはじまり、グループ分けしたメニューで1グループを任されるなど、通常のコーチに近い役割も担うようになってきている。
「最初は色眼鏡で見られるでしょうね」と、反町康治技術委員長が話していたが、継続的に取材している記者目線で見ると、完全にチームスタッフの一員という印象だ。
チームで取り組むグループワーク
一連の合宿で影山監督とスタッフが取り組んでいるのが、グループワークだ。あるテーマを設定して、1組6、7人でいくつかのグループに分かれてアイデアを出し合い、ディスカッション、プレゼンなどを行いながら、コミュニケーション能力と意識を高めて行く。
11月までに4回のグループワークが行われており、活動再開の初期段階はオンラインでスタート。富樫剛一コーチや高桑大二朗GKコーチが担当し、”グループワークとは何か”というところから徐々に改善を重ねて、第4回は内田篤人コーチがプランニングした。
「彼の準備の周到さ、それからアイデア、選手たちを乗せる技術。全てがプロフェッショナルでしたね」と影山監督は振り返る。
「非常にいいグループワークになったと思います。彼自身も素晴らしかったんですけど、選手たちの会話やピッチ上での要求は、1回目のキャンプと全然違います。4回のグループワークを通して非常に良く、やって良かったなと思います。1時間のグループワークのために、何週間もかけて準備してくれました。非常に良い力を出してくれて、感謝してます」(影山監督)
内田コーチが提示したテーマは「紙飛行機を飛ばそう選手権」だ。
これは「一番飛ぶ、紙飛行機を作るグループはどこか?」を競うもので、飛距離だけでなく、デザインも含めて、なぜそういう飛行機を作ったのか。なぜそういうデザインにしたのかなど、選手がプレゼンテーションを行い、コーチングスタッフが採点する。デザイン、積極性、好き嫌いなどのチェックポイントがあり、トータルのポイントで上回ったチームが優勝というルールだ。
宇宙飛行士が訓練の中でやるようなテーマだが、選手同士で積極的に話し合い、意見を出し合って結論を導き出すプロセスは、非常に大切なものだ。最終的には代表者がプレゼンするにしても、結論はグループ全員でああでもない、こうでもないと話しながら出したものだ。
世界を目指すためにすべきこと
日本の教育システムは、良くも悪くもトップダウンになりやすい。異なる意見やアイデアを排他的に扱おうとする社会性もある。そうした傾向はサッカーの試合はもちろん、いち個人として世界に出ていくにあたり、マイナスに働くことの方が多い。
「U-19の選手たちは、世界に出ていこうと考えています。フル代表やヨーロッパでプレーする段階になってではなく、Jリーグでプレーしながらも、常に世界を見ながら、世界目線で高いレベルを目指していく集団です。そのためにはピッチの上、プレーだけじゃどうしようもないんです」(影山監督)
最初から監督が何かを指定したり、特定のリーダーを決めるだけでは、トップダウンに頼って指示待ちになってしまう。もちろん監督が示す原則やガイドラインはあり、グループがあれば自然とリーダーになる選手は決まってくる。”01ジャパン”で言えば、サガン鳥栖の松岡大起はそうした資質溢れる選手で、黙っていても引っ張っていってくれる。
しかし、最初から特定の選手のリーダーシップ頼みでは、従来と変わらない。一人ひとりが問題意識、積極性を持ってコミュニケーションをとるベースがあり、そこに監督の助言や特定の選手のリーダーシップが加わることで、チームにまとまりが出てくる。それが理想的な形であり、個人として見ても、海外を始めとする異なる環境にも、積極性と協調性を持ち込むことができるようになるだろう。
そう簡単にうまく行くものではないが、影山監督によると、グループワークを通じて明らかな変化が見られ、練習やトレーニングマッチなど、ピッチ上での成果となって現れて来ていると言う。言い換えると、選手たちは意見やアイデアを持っており、それを安心して周りに発信できたり、周りの意見に耳を傾けられるような環境作りをしているに過ぎない。
選手や子どもたちが持っているものを引き出すことが難しい社会の中で、こうした取り組みがチームとしての結果に良い影響をもたらすことはもちろん、広く理解され、それぞれの所属チーム、さらには外側まで響いていくことを願いながら、踏み込んで取材していきたいと改めて思う。(文・河治良幸)
写真提供:河治良幸