エース岩渕の劇的な同点弾も、厳しい現実を突き付けられたカナダ戦

COLUMN河治良幸の真・代表論 第86回

エース岩渕の劇的な同点弾も、厳しい現実を突き付けられたカナダ戦

By 河治良幸 ・ 2021.7.22

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21日、2大会ぶりの五輪に挑む、サッカー女子日本代表”なでしこジャパン”は、札幌ドームでカナダ代表と対戦した。試合はA代表300試合目となるカナダのキャプテン、シンクレアのゴールで先制されたものの、後半39分に長谷川唯のロングパスに飛び出したエース岩渕真奈が浮き球のシュートを決めて、同点に追いついた。


スタッツを見れば、日本がシュート14本でカナダが8本。ボール保持率も51%とわずかに上回ったが、それは追いかける時間が長かった事による部分が大きい。実際は立ち位置でもデュエルでもアドバンテージが取れず、得意のパスワークで相手のディフェンスを翻弄することもあまりできなかった。


その中で良かったのは、相手の変則的な3トップに対して、ディフェンスラインで踏ん張れていたこと。そして90分の運動量でカナダに勝っていたことだ。


最初に日本の左をえぐられる形から、シンクレアにゴール前への侵入を許してしまったことは問題だが、その後は難しい局面が続く中でも、キャプテンの熊谷紗希と相棒の南萌華、GK池田咲紀子の三角形で防ぐことができていた。


局面のデュエルで劣勢に


カナダは6月のブラジル戦でテストしていた、4-3-1-2というシステムを採用してきた。キャップ数、ゴール数ともに男女合わせて世界記録を更新中のシンクレアをトップ下に配置し、右のプリンスと左のベッキーがややワイドに開いたポジションからゴールに迫ってくる。最終的にはシンクレアがかなりゴール前に関わってくるので、中央が凹んだ3トップとも言える。


4-4-2の日本としては、3ボランチとシンクレアのところを捕まえられないので、2トップの岩渕と菅澤優衣香が中盤の守備に協力する必要が出てくる。そのため、前からのディフェンスに行きにくい状況だった。


そうした中でも、前線からの守備で相手をはめて行く時間帯には、カナダのミスを誘うシーンが多く、何度かショートカウンターでチャンスになりかけた。しかし、結果的に下がって守るシーンが多くなったのは、局面のデュエルで劣勢になってしまったことが大きい。


中盤に一度起点を作られると、ボランチの三浦成美と中島依美だけでは中央をせき止められないので、サイドの長谷川唯や塩越柚歩が絞ってサポートしたり、岩渕がプレスバックして補うが、そこで生じるデュエルで勝てず、深い位置までボールを運ばれてしまっていた。


そうなるとカナダの両サイドバック、右のローレンスと左のチャップマンも攻撃に参加してくるので、日本としてはバイタルエリアで体を張るしかなくなる。


キャプテン熊谷と南のセンターバックコンビも、構造的に最初に捕まえるべきターゲットがいない中で、トップ下から機を見て前に出てくるシンクレア、ワイドから入ってくるプリンスとベッキーを代わる代わる見なければいけなくなっていた。


意図の見える形にしたかった


欲を言えば、前からプレッシャーをかける状況を多く作るか、サイドバックやサイドハーフのポジショニングをあらかじめ中よりにするなど、はっきりとシステムで対応をすることができれば良かった。


明確な意図の見える形にしてしまう方が、守備でカナダを困らせつつ、攻撃面で効果的なアクションを起こしやすかったかもしれない。


選手たちは基本的な役割の中で、柔軟に、粘り強く立ち回ってはいたが、局面のデュエルでアドバンテージが取れないので、後手後手の対応を強いられるのは否めなかった。


後半はカナダの運動量が落ち、距離感が遠くなってきたため、日本はボールを持って前を向ける場所が多くなった。菅澤に代えてFWに投入された田中美南が裏を狙う動きを繰り返すことで、カナダのディフェンスラインが押し上げにくくなったことも、二列目の選手が前を向きやすくなった要因だ。


PKになったシーンも、長谷川が中寄りでボールを持ったところから田中が飛び出したことで、GKラベーが正面からコースを消しにいくしかなくなった。田中のPKは決めて欲しかったが、結果的にラベーが負傷交代したことは、カナダ側からすると後ろからの統率力という意味で、状況を難しくしたことは確かだろう。


頼みの遠藤も封じられる


そうした流れから、高倉麻子監督は左に遠藤純を投入し、長谷川を右側に回して攻勢をかけた。カナダに対してイーブンかそれ以上の状況に持ち込めたが、日本では飛び抜けた推進力を誇る遠藤をもってしても、世界トップレベルのディフェンスを個人で上回ることが難しいという現実を痛感させられた。


左サイドから何度も前を向いて仕掛けるものの、右サイドバックのローレンスにスピードで対応されてしまったのだ。


最終的に日本を助けたのは、一瞬の隙を逃さない目、そして受け手と出し手の共有だった。遠藤の投入で右サイドハーフに回っていた長谷川が下り目のポジションでボールを持ったところから、センターバックの間に飛び出す岩渕を見逃さなかった。正直に言えば、GKラベーであれば止められていた可能性のある軌道だったが、エースのゴールは見事だった。


なかなか”なでしこジャパン”らしさを発揮できなかった試合の中で、2年前の女子W杯からの進歩の1つが、このような一瞬の隙を逃さないこと。状況によってはロングボールも有効に使っていく判断の部分で、長谷川と岩渕の狙いが合わさる形で同点ゴールが生まれた。


強敵が続く、東京五輪


FIFAランキング8位のカナダとの初戦で突きつけられたのは、日本がこのクラスに対して、ボールを常に保持してアクションを起こし、優位性を出すのは難易度が高いこと。その中で、90分間の持続的なハードワーク、そして隙を逃さない意識が勝負の鍵になってくるということだ。


2戦目のイングランドは、日本がカナダ以上に苦手としている相手だ。プレーの質はもちろん、さらに研ぎ澄まされた集中力が要求される。3試合目のチリ戦ではアドバンテージを握る時間を長く作ることができるかもしれないが、準々決勝以降は、カナダ戦のように難しい試合が続くはず。


優勝候補アメリカがスウェーデンに0-3で敗れるという衝撃的なニュースで始まった女子サッカー。日本も初戦で厳しい現実を突き付けられたところから、金メダルという目標をブラさずに、どうプレーを研ぎ澄ませていけるか。期待と注目をもって見届けたい。(文・河治良幸)


東京オリンピック 女子サッカーグループE 第2節

なでしこジャパン(日本女子代表) vs 英国女子代表

7月24日19時30分キックオフ

NHK Eテレにて19:20より生中継予定


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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