なでしこジャパン、イギリスに力負け。守備の意識が分断された失点を検証する

COLUMN河治良幸の真・代表論 第88回

なでしこジャパン、イギリスに力負け。守備の意識が分断された失点を検証する

By 河治良幸 ・ 2021.7.25

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またしても、エレン・ホワイトにゴールを奪われてしまった。そこにいたる流れを作ったイギリスの組み立てが見事だったと同時に、日本側の対応には疑問が残った。74分のゴールシーンを解き明かすことで、日本の問題点を考えてみたい。


失点場面は4-2-1-3と見られる布陣のイギリスが、日本のプレッシャーをいなしながら、GKのローバックにボールを戻し、ボランチのウォルシュがワイドに開いたセンターバックの間に落ちて、パスを受けたところから始まった。


そこから、長谷川唯と遠藤純によるプレッシャーを3人のつなぎでいなすと、右センターバックのホーソンが前を向いて持ち上がり、中央から日本のボランチ脇に流れたキム・リトルに縦パスを入れた。


問題だったのは、遠藤と長谷川で相手をハメられず、簡単にボールを縦に運ばれてしまったこと。ホーソンには誰もプレッシャーをかけておらず、長谷川がプレスバックで対応に来たのは、日本のアタッキングサードのすぐ手前だった。


ゴール前に人数はいたが


このとき、イギリスの右サイドバック・ブロンズは、日本の左サイドハーフ・杉田妃和よりも前にポジションを取っていた。そして右ウィングのパリスが、ボランチの三浦成美と杉田、左サイドバックの宮川麻都の間でホーソンからの縦パスを呼び込む。


さらに同じゾーンには、キャプテンマークを巻いたトップ下のキム・リトルが流れてきた。パリスはボールを触ろうとしたので意図的なスルーではないはずだが、これが結果的に日本の対応を困難にする。


パリスの手前を抜けたボールをリトルが受けたことにより、左センターバックの南萌華がボックス内からワイドに流れてカバーしなければいけなくなったのだ。


ただ、この時点でゴール前は百戦錬磨のセンターバック・熊谷紗希がホワイトをマークできており、さらに右外には清水梨紗がいた。


危険な選手をフリーに


問題があったのは、南がリトルの対応に行った後の周囲のポジショニングだ。左サイドバックの宮川は南の内側に入り込んで備えたが、そのさらに内側に走り込んだパリスにボランチの中島が付かなければいけなくなった。


1対1の状況でサポートに行こうとした杉田がリトルのところへ行ってしまい、その後ろにいた右サイドバックのブロンズをフリーにしてしまった。


チリ戦でもゴールに繋がるパスを送るなど、エースのホワイトに次ぐ危険な選手が、右サイドバックのブロンズだ。高倉麻子監督もそれを十分に承知していたはずで、だからこそ杉田を左サイドハーフに起用したとも考えられる。


しかし、その危険な選手に”どフリー”から、右足のクロスを上げられる結果となってしまった。


ホワイトに決められる


ゴール前の状況を整理すると、清水が警戒していたファーサイドには、左ウィングのスコットが入ってきていた。


スコットと清水、ホワイトと熊谷、そしてボランチからカバーに入った中島がパリスをマークする状況だった。その手前には宮川がおり、もう一人のボランチ三浦は後手ながら、ブロンズのコースを切ろうとしていた。


ここでブロンズは浮き球でニアに落ちるクロスを選択する。意図したのかはわからないが、空中戦があまり得意とは言えない中島が構えるところにボールを上げてきた。このボールに競るのはパリスかと思いきや、ホワイトが走り込んできたのだ。


ボールの位置を考えれば、GK山下であればカバーできる範囲だった。しかし、結果的に中島が障害になる格好でホワイトにジャンプヘッドで触られた。純粋な高さであればホワイトに負けない熊谷も、中島が落下地点でボールをクリアしようとしているせいで、ホワイトに付き切らずステイしてしまった。


結果論だが、GK山下が状況を見極めて飛び出さなければ、ホワイトのシュートの軌道を考えても、ワンハンドでゴールの外に弾けていたかもしれない。


ミスが連鎖して失点に


失点場面を、誰かひとりのせいにすることはできない。たとえば、難しい状況でホワイトに付き切れなかった熊谷が、南が釣り出された状況で周囲にどう声をかけていたのか。ほかにも、中途半端になってしまった宮川のポジショニング。


2対1を作りに行き、危険なブロンズをフリーにしてしまった杉田。リトルを潰しきれなかった南。中島が邪魔になったとはいえ、飛び出しながらボールに触れなかったGK山下など、問題点をあげると、いくらでも出てくるのが失点シーンである。


抑えておきたいのは、前線の選手のプレッシャーに行く意識と、後ろの選手がディフェンスラインの裏をケアしながら押し上げる意識が、バラバラになってしまっていたこと。前半もデュエルやイーブンボールの奪い合いで負けることは多々あったが、コンパクトな関係を維持しながらサポートし合うことで、失点シーンのような穴を開けていなかった。


ボール保持率の低下


この時間帯は日本の2トップとボランチの距離が遠く、サイドハーフの二人も相手の両サイドバックにストレッチされる形でワイドにポジションを取らされ、縦にも横にも間延びしていた。


日本の強みはコンパクトな陣形を維持しながら、ボールサイドに連続性の高いプレスをかけていくことである。一方でサイドチェンジやダイナミックな展開の対応を苦手としている。


現在のチームはそれを少しでも克服するために、スライドを素早くすることで補ってきた。中2日というタイトなスケジュールだが、5人のスタメンを入れ替えて、後半の早い時間帯に塩越柚歩から籾木結花。林穂之香と田中美南を三浦成美と遠藤純に交代するなど、体力的なマネジメントはできていた。


それでも、前半よりは強度が落ちてくる中で、ジワジワとイギリスの圧力を受け続け、全体の意識が統一できていなかった時間帯にやられてしまった。


前半終了時点で日本のボール保持率は46%だったが、後半は37%まで下がっている。ポゼッションが全てではないと言っても、日本のスタイルを考えれば相当に苦しい。


強敵との試合が続く


前半はコンパクトな守備もさることながら、攻撃面でもサイドバックの追い越す動きや前の4枚がクロスオーバーなどで絡み、日本らしい攻撃も見られた。そこでゴールを仕留めて、後半はブロックを固める時間帯もうまく使いながら、カウンターで追加点というのが理想のプランだっただろう。


しかし、エースの岩渕真奈がベンチスタートとなった状況で、強固なイングランドゴールをこじ開けるほどのフィニッシュに持ち込めていなかったのも事実だ。


本来、90分走り続けることが”なでしこジャパン”の強みだが、デュエルや設計面での相性の悪さを運動量で埋め切るのは、中2日では限界がある。イギリスはカナダ以上にビルドアップがうまかったので、時間が経つほどにその差が出てしまった。


この結果により、日本は2試合を終えて勝点1だが、3戦目のチリ戦次第では決勝トーナメント進出の可能性も残されている。ワールドクラスの守護神エンドラーを支えに、粘り強い守備を見せるチリから勝利をもぎ取り、決勝トーナメントにつなげたい。


とはいえ、グループ2位抜けならオランダかブラジル。3位抜けなら金メダル候補のアメリカに3-0で勝利したスウェーデンになる可能性が高い。決勝トーナメントに進んだとしても、困難な戦いが待ち受けることは間違いないだろう。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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