チリに辛勝したなでしこが準々決勝進出! 期待はニューヒロイン候補の木下桃香

COLUMN河治良幸の真・代表論 第90回

チリに辛勝したなでしこが準々決勝進出! 期待はニューヒロイン候補の木下桃香

By 河治良幸 ・ 2021.7.28

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“なでしこジャパン”が、厳しい重圧の中でグループステージ突破を決めたことを、まずは祝福したい。メダル候補のカナダ、イギリスと同居した時点で、チリ戦での勝利が大きな鍵になったのは想定内だ。そこを苦しみながらもこじ開けたことは良かったが、金メダルを目指す中で、いくつかの課題が見られたことも指摘しておきたい。


日本にとって最大のピンチは、0-0で迎えた68分だった。チリGKエンドラーからのロングキックを、左サイドバックの北村菜々美がグレスと競りながら弾くと、セカンドボールをパルドに回収される。


三浦成美がプレスをかけに行くと、かわそうとしたパルドが体を預けながら倒れたプレーを、レフェリーはファウルと誤認。え、何で? と三浦がアピールする間に、近くにいたアラヤが素早くリスタート。ロングボールにFWウルティアが抜け出した。


GK山下杏也加がカバーしてクリアに行くが、ボールはウルティアの体に当たってしまい、相手ボールに。杉田妃和のクリアが北村に当たるアクシデントも重なり、チリがゴール前に進入すると、アエドのクロスにDFララがタイミングよく飛び込み、清水に競り勝ちながらヘディングシュート。クロスバーを直撃し、ライン上に落ちて弾んだボールをGK山下がキャッチした。


チリはゴールをアピールするも、ホンジュラスのボルハス・メリッサ主審は取り合わなかった。バウンドした後のボールの位置、キャッチした山下の体勢を見ると、わずかながらボールがラインを越えていたようにも見える。


東京五輪では男女ともにVARが採用されているが、ボールがゴールを割ったかどうかを厳密にチェックするゴールラインテクノロジーは導入されていない。クロスバーに当たったボールが落ちた場所も含めて、日本としては幸運に助けられたところが大きい。


細部に隙が露呈したなでしこ


ここで問題にしたいのは、ノーゴールの判定が正しかったかどうかではなく、0-0で終盤に差しかかる時間帯に、こうしたシチュエーションを招いてしまった対応のまずさだ。


確かにファウルの判定は不運だったが、三浦がプレーをやめてレフェリーに抗議の態度を表したこと。直後にリスタートされて、山下が持ち場を飛び出してカバーしなければいけない状況を周囲の選手たちが生んでしまったことは、現在の問題点が集約されているようなシーンだった。


全体としては日本が5バックのチリを押し込む時間が長く、シュート数も21本と4本という大差がついたが、そういう試合展開の中にこそ罠は潜む。


気になるのはジャッジに反応して不用意にプレーをやめてしまったり、本当に危険な場所を埋められていないなど、細かい部分に隙が見られるところだ。


この試合も中途半端にボールを失った直後の切り替えがはっきりせず、簡単に危険なエリアまで運ばれかけた。チリのミスに助けられたシーンは多く、その中で最もゴールに迫られたのが、先ほど取り上げたシーンにすぎない。


この試合は、チリに綺麗に崩されてフィニッシュまで持ち込まれるシーンが皆無に等しかっただけに、余計に問題点が際立っていた。


積極性が見られた攻撃


攻撃面ではカナダやイギリスより、前からのプレッシャーが無いながらも、アタッキングサードにボールを運ぶ意識、中盤やサイドバックから攻撃に関わるプレーなどは積極性も見られた。


特にセンターバックで熊谷紗希のパートナーに抜擢された宝田沙織や、バックアップから正規メンバーに”昇格”した林穂之香は、縦にボールをつけて起点を作る意識が高く、これまでのような”各駅停車のパス”はそれほど見られなかった。


唯一のゴールは清水のスローインから途中出場の木下桃香が起点となり、中央でボールを受けた杉田の縦パスをエースの岩渕真奈がワンクッション入れて、少し相手に当たって抜けたボールに田中美南が反応する形から生まれた。


至近距離のシュートには、これまで好セーブを続けてきた世界最強GKエンドラーも及ばなかった。そこまでにあった決定機を決められなかったことは課題としても、彼女たちが背負った重圧は大きかったと見られる。


新ヒロイン誕生の予感


この試合で初出場したセンターバックの宝田やイギリス戦に続く起用となったボランチの林も見るべきものはあったが、ニューヒロイン誕生を予感させたのが、18歳の木下桃香だ。


元々は林と同じバックアップで、カナダ戦とイギリス戦はベンチ外だったが、チリ戦では相手が引いてスペースがあるとはいえ、短い時間の中でも存在感は抜群だった。


ゴールの起点になったプレーもさることながら、ボールを持つとチャンスになる雰囲気を漂わせており、オフ・ザ・ボールでも自信を持って味方からパスを呼び込もうとしていた。


準々決勝の相手は強豪スウェーデン


準々決勝の相手スウェーデンは、唯一のグループステージ3連勝。金メダル候補アメリカに3-0で完勝するなど、明らかに日本よりも実力は上だ。しかもセットプレーのターゲットになる選手の平均身長が175cmを超えるなど、体格的な相性も良くない。


”なでしこジャパン”らしく崩してゴールを奪うとか、統率の取れた守備で完璧に攻撃を封じるといった綺麗事がほぼ通じない相手に、泥臭く戦って勝利をもぎ取る意識も大事だが、それだけでは勝てないだろう。


引き続き、エース岩渕やチリ戦でチームを救った田中にも期待したいが、木下のような、相手からしても未知のタレントの存在が、準決勝への扉をこじ開ける鍵になるかもしれない。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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