環境、意識、監督。完敗の中で、日本の女子サッカーが突き付けられた課題

COLUMN河治良幸の真・代表論 第92回

環境、意識、監督。完敗の中で、日本の女子サッカーが突き付けられた課題

By 河治良幸 ・ 2021.7.31

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結論から言うと、スウェーデン戦の勝利だけを見据えるならば、まったく勝ち筋がなかったわけではない。しかしながら、良くも悪くも正面からぶつかったことで、本質的な課題を突き付けられることとなった。


それはフィジカル面や高さといった、試合前からわかりきっていた差ではない。制度設計として、どれだけ明確な狙いを持ってゴールに矢印を引き続けられるか。引けない時にどうつないで、お膳立てするのか。相手の矢印をどう断つのかといったビジョンが、不明瞭だった。


高倉麻子監督が5年前に就任してから、選手にピッチ上で考えさせて、判断させることをテーマに掲げてきた。


東京五輪の最終準備に入った段階で、攻撃時の幅の使い方や即時奪回のための”0秒切り替え” ”5秒間プレス”といった原理原則を意識付けてきた。


しかし、昨年のシービリーブス杯以降、強豪との試合が組めない中で、力が上の相手に対する戦い方の共有が進まず、3位で何とか突破できた東京五輪のグループステージも、1試合1試合がその場しのぎの戦いになってしまった。


スウェーデンの猛攻


東京五輪準々決勝。スウェーデンが立ち上がりの10分間で出してきた強度は非常に高く、カナダ戦やイングランド戦では体感できないレベルのものだった。


シンプルに前にボールを付けながら、全体を押し上げてくる。そこで生じる1対1で日本はほぼ勝てないので、チャレンジ&カバーを徹底するしかなく、最後は水際でしのぐしかない状況が続いた。むしろ、コーナーキックの流れからの1失点で済んだことが不思議なほどの差があった。


とはいえ、スウェーデンがペースダウンする時間は必ずある。15分過ぎからは、日本はボールを持つ側になった。そうした中でもスウェーデンの守備は堅実で、中盤も含めてしっかりとスライドしていた。


田中美南のフィニッシュ


そこで日本は、最終ラインから左右にパスを振りながら突きどころを探った。同点ゴールが生まれたのは、23分と早い時間帯だった。このシーンは、本番に向けて日本が強化してきた、ピッチの幅を使い、相手の守備を広げて崩すイメージが実ったものだ。


まずボランチから下げたボールをセンターバックの南萌華、熊谷紗希とつなぎ、右サイドで高い位置を取っていた清水梨紗に展開する。


清水はワンタッチで前のスペースに流すと、サイドハーフの長谷川唯が流れて受けることで、スウェーデンのセンターバック、ビョルンとイレステットの間に距離が生じた。


そこを逃さなかったのが田中美南だ。INAC神戸に所属する田中だが、WEリーグ開幕への移行期間を活用して、ドイツのレバークーゼンに期限付き移籍。日本では体感できない環境の中で、意思決定力の強さを身に付けて帰ってきた。


自分より体格の勝る相手に対して、いつどう動けば懐に潜り込めるのか、チャンスを呼び込めるのかを研ぎ澄ませたフィニッシュだった。


スウェーデンの守備修正力


失点直後のスウェーデンは右サイドバックの清水を左ウィングのロルフォが左サイドハーフの位置に落ちてケアし、左サイドバックのエリクションが長谷川の出所を牽制する代わりに、センターバックの二人はできるだけ中央から動かない修正を施してきた。


基本的には日本がボールを持ち、スウェーデンがカウンターをうかがう展開の中で、田中美南がボックス内で倒れてPKの判定を得たが、VARにより取り消されるシーンがあった。


その状況を導いたのが日本の前からのプレスで、GKリンダルが前に蹴り出したボールをボランチの三浦成美が拾い、中島依美、長谷川唯を経由して、最後はFW岩渕真奈のパスを受けようとした田中がイレステットと接触して倒れた。


しかし、実際は足をかけられたわけでも、後ろからチャージされたわけでもなく、正当なコンタクトだったことが確認された。


このシーンでも、速いパス交換の中で右外に清水、ボックス内の左には杉田妃和が入り込むなど、世間で揶揄されるほど攻撃がノーアイデアだったわけでも、イメージの共有が皆無だったわけでもない。


中盤で後手に回る


失点後のスウェーデンが徹底していたのは、4バックの距離を必要以上に開けないこと。最悪サイドを取られても、中央に穴を開けなければ、個人で違いを作るタレントが日本にはおらず、屈強なセンターバックが跳ね返すことができる。


残念だったのは、崩しのキーマンになりうる杉田がボランチのサポートに回ることが多く、高い位置で攻撃のアクセントになるシーンが限られたこと。


ボランチのアンゲルダルとセンターバックのイレステット、右サイドバックのグラスのトライアングルの間は常時スペースがあり、そこを杉田がうまく使うことができれば、岩渕と田中が前向きに動き出せる余地はあった。


そうしたスペースをうまく活用できなかったのは、中島、三浦のボランチのところでスウェーデンのアストラニ、セゲル、アンゲルダルの圧力を吸収し、杉田や長谷川が崩しにフォーカスするお膳立てができなかったからだろう。


失点の原因は判断力


スウェーデンに勝ち越しゴールがもたらされたのは53分。FWブラックステニウスが左サイドに流れてクリアボールを拾うと、インサイドでパスを受けたエリクションが長谷川を引き付けながら、ロルフォに縦パスを付ける。


センターバックの熊谷が前に出て、中からスライドしてきたボランチの三浦と寄せに行くが、振り向きざまに裏へとパスを出された。そこに反応したのが、左に流れていたブラックステニウスで、ボールウォッチャーになってしまった清水の背後を完璧に取り、ゴールを決めた。


このシーンは8人が自陣に引いて守っていたにも関わらず、危険なスペースを与えてしまった。


後手に回った長谷川と三浦、前に出ながら潰しきれなかった熊谷にも問題はあるが、一度外に流れたブラックステニウスを見逃した清水の責任は大きい。スウェーデンとの差が明確に出たのは、体格差ではなく判断スピードと正確性だった。


再びリードを許した日本は、押し込まれる時間が続く中で、ボックス内でアスラニのシュートを三浦が手で弾いてしまい、VARによりPKが認められた。結果的に二度のVARがスウェーデンを助けたが、2つとも判定が正しいのは明白だった。


攻撃に変化はなく


2点を追いかける日本は、スウェーデンの余裕を持った対応を前に、消極的なパスや切り返しが多くなり、ゴールから遠ざかってしまった。


FWの田中美南が1つハマればゴールに直結する動き出しを続けていたが、18歳ながら個人で違いを生み出せる木下桃香がベンチ外だったことは悔やまれる。


選手起用を含めて、力の勝る相手に勝利を得るためだけなら、徹底したカウンターにかけるなど、やりようはあった。


4点目、5点目を奪われる可能性はあったが、リスクを負って守備をチャレンジ&カバーではなくマンツーマン気味にして、前にアタッカーを残す方法もあったかもしれない。


女子サッカーの未来のために


だが、そうしたことよりも、本質的なところで課題を突き付けられたことも確かだ。


体格やパワーの差は、今に始まったことではない。たとえば熊谷紗希(173cm)も、決して大柄なセンターバックではないが、欧州王者を取り続けたリヨンで、体格で勝る相手と当たり前のように戦ってきて今がある。


この日は不発に終わってしまったエースの岩渕が、一人ひとりが向上心を持って厳しい環境に身を置くことの必要性を訴えていたが、これから開幕するWEリーグにそれがあるのかどうか。


何より大事なのは選手の意識だろう。そして前向きに厳しさを与え、スウェーデンのような強豪に対して、制度設計を与えられる指揮官の存在だ。


ピッチで判断するのは選手たちだが、そのためのベースになる材料を監督がもたらせないのなら、テクニカルエリアに立っている意味はない。


選手の環境と意識、そして監督のプラン。それらを細かく修正、ブラッシュアップしていけば解決するという次元ではない課題を突き付けられた東京五輪から、日本の女子サッカーはどう変わって行くか。


自国開催の五輪という注目を集める舞台で、メダルを逃したダメージは大きいが、時間を巻き戻すことはできない。来る女子サッカーの未来のために、抜本的な見直しと改善を求めていきたい。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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